FF夢


 2-11






 [ν]εγλ‐0007年 01月31日 天気・曇り

 そろそろ日記に地名を記すのはやめといた方がいいかな。
 今日はクラウドの調子も良さそうで、ほっとしました。
 もうすぐ目的のエリアに入れるので、気を引き締めて警戒したいです。





ノースコレルエリアに到着したあと、身を隠して休憩をとる。
食事もまだだったので、ついでに摂っておく。
その間に日記を書き上げると、静かに閉じてから鞄に仕舞う。

アイシクルエリアに身を隠す事は結構前から決めていた。
日記帳を誰かに見られるつもりもないが、念のためにここから先は足取りも残さないように気をつけなくてはならない。
探知されないように携帯電話すら使っていない状況だ。
改めて、念には念を、と自分に言い聞かせてから岩肌に寄りかかった。

ノースコレルエリアはかなり北の方に位置しているからか、とても冷たい風が吹き荒ぶ場所だった。
そのうえ風を避けられるような森もなく、コレル特有の岩山しか見当たらない土地故に、寒さが一層身に染みた。

岩に凭れかかったクラウドの膝に、私のカーディガンを掛ける。
そしてすぐ横にくっついて座ると、逆隣にささみが擦り寄ってきた。
両側から伝わる体温のおかげか、先程よりも幾分温かくなった。

するとどこからかクジャも帰ってきて、クラウドの空いている側へと座りこむ。
チョコボ、人間、人間、チョコボ の図が出来上がりだ。

ほっこりした気分でいると、ふと気になる事が思い浮かんだ。


クジャとささみ。つがいである彼らに、最近妙な距離感があるのだ。
共に子を成した2匹ならば、もっと仲が良くてもいいのでは・・・と常日頃思っていた。
だが今の2匹は、大してお互いを意識することなく過ごしている。
例えるならば放牧場にいるチョコボ同士、のような雰囲気。
我関せず、とお互いの生活範囲には踏み入らないようにしているふうに見える。

うーん・・・と頭を抱えていると、ふいに一つの答えが浮かび上がった。


「そもそも・・・子を成したからって一生付き合っていくワケじゃないのか・・・!」

そう、私は今まで人間の物差しで彼らを見ていた。だから不自然だったのだ。
本来動物なんて、子供を作って生まれるまでの間ならつがいでいるが、その後は普通に別れて、次の季節には他の個体と交尾をする。
それが普通。それが当たり前。

あぁ、この世界ではチョコボの繁殖の事を交尾ではなくカップリングと言うべきなのだろう。
ともかく、この2匹は最早つがいではなく只の同行人・・・同行鳥?なのだ。

「はぁー。野生の世界は厳しいねぇ・・・」
「クェ?」
「ううん、何でもないよ」

不思議そうに首をかしげるささみ。
その嘴の付け根あたりを掻いてやると、気持ち良さそうに目を閉じる。
しばらくそうしていると、クラウドを挟んだ向こう側からクジャも首を伸ばしてくる。
両手を使ってチョコボと触れ合っていると、今まで姿を消していたザックスが帰ってきた。


「ザックスおかえりー。」
「おう、ただいま・・・なんだ?みんな仲良しだな」

2人と2匹でぴったりくっついている姿を見てか、ザックスが面白そうに言う。
確かに、横一列で並んでいる姿は間抜けなものかもしれない。

「こうしてた方があったかいからね」
「へぇ、そっか」
「ザックスは平気そうだね」
「ま、鍛え方が違うからな!」

いつか聞いたようなセリフに、笑い声を洩らしてしまう。
そして、私はささみに言いたかった事を思い出して彼女の方に向き直った。

「そうだ。ねぇささみ、次に子供を産む時はね、アイシクルエリアで旦那さん見つけてね」
「クエー?」
「うん、アイシクルエリアで、必ずうさぎと一緒にいるチョコボと子供作るんだよ。」
「クエッ」

私とささみの会話に、ザックスが怪訝な顔をしている。
確かに、傍から見たらおかしい人の会話だと思う。

「奈々、お前、大丈夫?」
「何その失礼な言い方。・・あのね、アイシクルエリアに生息してる"ジャンピング"っていうモンスター知ってる?」
「ああ・・・にんじん持った?」
「うん。そいつと一緒にいるチョコボって、必ず能力が高い個体なのね。そのチョコボと、山川チョコボの間に子供ができると、高確率で海チョコボが生まれるのよ」
「まじか!」

きっと玄人ユーザーならば常識中の常識だろう。
だが、この世界において"海チョコボ"とは最早伝説に近い存在。
ザックスもその種類は知っているようで、目を輝かせて私の方へ詰め寄った。


「ただ条件があって・・・これは、ザックスに頼むしかないなって思ってたんだけど・・・」
「何だ?」
「カップリングの時、この木の実をあげてほしいの」

私が鞄から出した木の実。『ゼイオの実』だ。
見た目は落花生そのものだが、サイズがかなり大きいのでこれがゼイオの実なのだろう。
本来は地図上の北東にある"ゴブリンアイランド"でしか手に入らないこのアイテム。
何故私が持っているかというと、まあ、所謂裏ルートというものを使ったのだ。

その木の実をいくつかザックスに手渡すと、ザックスは大事そうにそれをアイテム入れにしまった。
うん、大事にしてくれて嬉しい。高かったから。
ザックスは、クジャに向き直って「お前もアイシクルエリアで嫁さん見つけろよ!」と言っている。


まだ見ぬ海チョコボに、一歩近づいたなぁと考えるとついついニヤけてしまうが
それもFF7ユーザーの定めなのだろう。幸せな事だと思った。




***




しばらく休憩してから、クジャとささみに乗ってノースコレルエリアを北上していく。
矢張り人間の足で進むより何倍も早く、完全に夜になる前に最北端まで辿りついた。

大陸の中で、もっとも北寄りの土地に着くと、やはりそこは先程よりも冷たい空気をしている。


私は、ここで一つ賭けをしていた。
そして、その賭けに勝った事がわかった。

目の前に、小さな集落のような民家の集まりがあったのだ。
そこはアイシクルエリアとノースコレルエリアとの船渡しを生業にしている人々の集まりのようで、小さめの船が何隻か停泊していた。

大陸同士の行き来が飛空挺だけ、という訳ではないあろうとふんでいたのだ。
勿論ゲーム内にそんな描写はなかったが・・・無ければ無いで、私たちには山川チョコボがついてくれている。
別に行き詰まるという事はないのだが。

「いやあ、まさかこんなモンがあるとはな」
「良かったー。不確定情報だから不安だったよ」
「神羅に居た時はゲルニカでひとっ飛びだったからな・・・こういうのは知らなかったぜ」

やっぱり、元ソルジャーの彼は交通手段に対して疎いところがあるようだ。
かくいう私も、憶測に過ぎなかったが・・・あったんだから良しとしよう。

「クジャとささみに乗れば大抵どこでも行けるし、あんま心配してなかったな・・・。出来るだけこいつらに負担かけたくねーし、船があるならそっち乗ろうぜ」
「うん」


私とザックスは、今日最後の出港準備をしていたおじさんに頼み込み、チョコボと共に乗せてもらえる事になった。






船の中は以外にも快適だった。暖かいヒーターが狭い船室をぽかぽか温めていたし、おじさんが湯気の立つスープとふわふわのブランケットを貸してくれたおかげだ。

「ほんとにありがとな、オヤジ!」
「いやいや、気にすんなよ!山川チョコボなんて珍しいモン見してくれたし、何より綺麗な姉ちゃんが2人も一緒だからな!」

ガッハッハ、と豪快に笑うおじさん。

・・・スイマセン。女の子2人もいないです。一人は成人男性です。
ザックスも内心そう思ったのか、苦笑いをしながらクラウドをちらりと見た。

骨格が華奢な上に、寒い環境下で女物の服をすっぽり来ている彼は立派なクラウドちゃんだった。
私よりも肌白いしね。睫毛長いし、唇はピンクだし。あれ?負けてる?

兎も角、コルネオイベントでもないのにクラウドの女装姿を見れた事に感謝だ。
そして私の事も綺麗な姉ちゃん扱いしてくれたおじさんにも感謝だ。


「今日の夜にかけて、向こうは豪雪らしいぜ。あんたらも気をつけな」
「まじか・・・運がねーなぁ」
「ボーンビレッジ側にも降るんですか?」
「おう、時々な。・・・まぁこの中はあったけえから、ゆっくりしてくといいぜ」


しばらくぶりの暖かい環境に、ほっと息を吐く。
何気ない雑談を交わして、時々うとうとして、2時間ほど経っただろうか。
船についている窓が曇り、所々に雪が付着しているのに気づいた。

外を見ると、暗闇でほとんど景色は見えなかったが、船の明かりを受けた白銀の大地がぼんやり浮かび上がっていた。


目的地のアイシクルエリア。
エアリスの生まれ故郷である、アイシクルロッジ。忘らるる都や、北の大空洞がある大陸。

色々な重要イベントが起こるこの地に、とうとう足を踏み入れる時が来た。
そう思うと、自然と背筋が伸びるのを感じる。



さぁ、もうひと踏ん張り。
口の中で呟いて、深呼吸をした。






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