FF夢


 2-09





  [ν]εγλ‐0007年 01月14日 天気・快晴

 コスモキャニオンを出てから15日目、ついにウータイまでたどり着きました。
 なんだか予想以上に時間がかかってしまって、びっくりです。
 でも、お互い励まし合って、一緒にクラウドのお世話をして、マッサージし合って
 時々、あれ?これ子育て夫婦?って思う時があったけど、ザックスも同じ事考えていたみたいです。
 エアリスに言っちゃおうかなー、と呟くとそれはもう必死なザックスに詰め寄られました。
 この一途さんめ、羨ましいぞ。なんて思いつつ、やっぱりエアリスとザックスはお似合いだなと再確認しました。

 

ふう、と息をひとつ吐き、日記を閉じる。
インクが出にくくなってきたペンを見て、そろそろ買い替え時かな、と呟いてから鞄に仕舞いこんだ。
鞄をきっちり閉めてから立ち上がり、横に置いていた荷物を再び持ち上げた。


今、私はウータイの街中にいる。
ザックスとクラウドの姿は無く、私一人がこの風景の中に立っている。勿論迷子とかそういうアレではなくて、れっきとした目的あっての行動だ。

朱と金色の建物、その間を流れる青く輝く綺麗な川。
プレイステーションの画面でも十分にきれいな街だと思っていたが、実際見てみると更に感動が掻き立てられた。

雅やかな風景とは反対に、私は両手に買い物袋を下げている。
まるでセール帰りのおばちゃんのような荷物に切なくなるが、そうも言っていられない。
私は雑念を払うように首を振った後、急いでウータイの入口まで戻った。




***




「やっと帰って来たな、不良娘!」
「どっかで聞いたことある呼び方、やめてくれる?」


肩をいからせながら私の頭を小突くザックス。
さりげなく両手の荷物を預かってくれるあたり、やはりザックスの80%は優しさで出来ていると思って正解だろう。

「どうしたんだよ、いきなり単独行動は危ねーだろ?」
「ごめんねってば。ごめんついでにザックスこれに着替えてね」
「ん、服?」

不思議そうな顔をしたザックスの手から袋を受け取りながら、経緯を簡単に説明する。

「そ。いくらウータイ戦争が終わったとはいえ、ソルジャーの制服でウロつくのはね」
「確かに・・・そうだな」


袋の中から引きずり出した服。まずザックスのものを彼に渡し、岩陰で着替えてもらう。その間に私がクラウドの服を着替えさせる。

クラウドには、Tシャツとサルエルパンツ、上着にデニムジャケットとショートブーツを買ってきた。
できるだけ楽な服装を、と思っていたらこんなものを見つけたのだ。
サルエルパンツは着る人のスタイルが良くないと、只の短足に見えてしまうアイテムだ。
だがFF屈指のイケメンであるクラウドが着れば、なんとも素晴らしいお洒落メンズの出来上がり。

余談だが、彼もザックスもコスモキャニオンで購入した下着を身につけているので、そこらへんはご安心頂きたい。


「へー、奈々はこういうセンス良いんだな」

物珍しそうに服をつまみながら、着替えの終わったザックスが姿を現した。
綺麗めのカットソーにカーゴパンツ、ごついサンダルを履いている。
バッチリ着こなすあなたも最高です。という言葉を飲み込みながら「似合ってるよー」とだけ返した。
シンプルな出で立ちだが、スタイルが良く、顔も格好良くて、しかも髪型がバッチリ決まっているため、キレイめストリート系の出で立ちになっていた。

まさか、こんな所で好きなキャラを自分勝手に着せ替えするという、最高のイベントにありつけるとは思わなかった。


実を言うと、私がいた世界のコーディネートなので周りの服装から浮く。
・・・かと思ったのだが、実際は周りの個性が強過ぎてそうでもなかった。
そういえば、ミッドガルの人たちはこのくらいの服装だったな、と今更思い出した。

ぶっちゃけ、クラウドを片手で抱えながら歩くザックスの方がよっぽど目立っている。
ソルジャーの制服じゃなくて本当に良かったと心から思った。


適当なところで宿を取り、クラウドに食事を摂らせてから布団に寝かせる。
私はザックスがシャワーを浴びている間、横たわったままのクラウドに視線を向けていた。

相変わらず虚ろな瞳は淀んでいて、コスモキャニオンで見たあの青が夢のように思えてしまう。
でも、手を握ると時々、僅かながら握り返してくれる時もある。その微かな動きだけでも大した回復だと思う。

今日も布団の横に座り、クラウドの手を握る。 白くて細長い指だけど、掌は大きくて暖かい。
クラウドは調子が良いみたいで、きゅっと少し強めに力が入った。

いつもならば椅子に座っているので平気だったが、今日私が座っているのは畳。
床よりもやわらかい感触と、掌から伝わる体温のせいでついその場でうたた寝をしてしまった。

ザックスが戻って来るまでの数分間。
その数分の中の、更に一瞬。クラウドの視線がこちらに向いている事を、目を閉じている私は感じていなかった。




***


ザックスside


「あーらら、寝ちまったか」

クラウドが横たわっている布団のすぐ隣で、何も掛けずに寝こけている奈々を見つけた。
前にもこんな事があったな、と記憶を探りながら掛け布団を持ってくると、奈々とクラウドが手を繋いでいるのに気づいた。

「・・・何か、仲良しのチビ兄弟みたいだな」

くうくうと気持ち良さげに息を立てる奈々と、目を閉じて静かに呼吸するクラウド。
随分な違いだが、こうして見ると仲良く昼寝をしているようにしか見えない。

「メシ食いに行こうかと思ってたけど・・・ま、後でいいか」

幸い、ここで一番大きい飲食店は飲み屋兼メシ処の亀道楽。
あそこなら遅くまでやってるだろ、と頭の中で呟く。

携帯の時計を確認すると、まだ夕方と言える時間帯で。
次第にぼやけてきた脳内を覚ます事無く、電気を消して奈々の隣に寝転がった。
同じ掛け布団を掛けて目を閉じると、暖かい体温がすぐに伝わって来る。


夢と現実の間のまどろみの中、自分も随分変わったものだと思った。
以前の自分なら女の子とくっついて眠って、これだけ平静でいられたかと問うと勿論否だ。健全な男子なら誰だってそうだろう。

いや、自分が変わったというよりはこの子のおかげかもしれない。
色気がない、というよりは女を武器にしない、という感覚だろうか。
泣かないし、甘えないし、寄りかからない。
勿論頼られてはいるのだろう、でも肝心な所で、独りで踏ん張ろうとしてしまうのが奈々の悪いクセだ。


眠たい頭では、それも追々直っていくだろ。という曖昧な答えしか出なかった。

腹の方から伝わる暖かく柔らかな感触と共に、意識を闇に溶かした。






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