FF夢


 2-08






 [ν]εγλ‐0006年 12月30日 天気・曇り

 3日間滞在したコスモキャニオンと、お別れの日になりました。
 どの人もみんな優しくて良い人たちばかりでした。
 残念なことに赤い彼には会えなかったけど・・・
 ブーゲンハーゲン様は、普通の優しいおじいちゃんで
 たまに宙に浮いてたり、物凄く知識人だけど、とても話しやすい人でした。
 そのうち、また来れたらいいなぁ。



ささっと走り書きをした日記帳をパタンと閉じる。
日記帳は買ってから2週間くらいしか経っていないのに、既に表紙が擦れてしまっていた。
今度、防水できるようなブックカバーが見つかればいいけど、なんてぼんやり考えていたら、クラウドを抱えたザックスがコスモキャンドルの方から歩いて来た。


「よっ、お待たせ」
「大丈夫ー今来たところだからー」
「デートの常套句だな、うん」

のほほん、と笑いながらツッコミをするのでなく、ボケ殺しをするでもなく、こうして乗ってくれる所もザックスの魅力だと思う。私は。

今日からまた移動を開始して、次はウータイを目指すつもりだ。


「なぁ、何でルートの変更先がウータイなんだ?」

片方の肩にクラウドを俵担ぎしたザックスが、こてんと首をかしげる。
確かに、ウータイまで回るとなるとかなりの遠回りだ。
そこまで回り道する理由もピンと来ないだろう。

「最終的にはアイシクルエリアで身を隠す予定、っていうのは話したよね。このまま北上しちゃうとニブルヘイム経由になっちゃうの」
「なるほどなー」
「んで、ニブルヘイム経由以外のルートだと東西選べるんだけど・・・片方がゴンガガ経由、もう片方がウータイ経由なのね。途中の休憩と補給って理由でウータイに寄るけど、ウータイエリアから直接ロケットポートエリアに行く予定だよ」

そう、ウータイエリアとロケットポートエリアの間には、ほんのわずかだけタイニー・ブロンコで行き来できる浅瀬があるのだ。
勿論徒歩では行き来できないが、今の私たちには山川チョコボがついている。
浅瀬も山道も、なんのその。というやつだ。

足場は悪いし、戦闘になったら不利だし、寒いし、避けた方が良いのは明らかだけれど、今の私たちにとってはこういった隠れ道が、最高に安全な道筋になっているのは明らかだった。

ザックスもまあまあ納得してくれたようで、頷きながら同意の旨を示した。

「わかった。まぁ、奈々についてきゃ何とかなるだろ!」
「責任重大だぁ」

立ち話もほどほどにして、この集落から出ようと出口を見る。
岩でできた高丘から見るこの風景は、何度見ても圧巻で。
特に夕暮れのコスモキャニオンは、日中よりも強い赤の光に染められている。

この土地特有の乾いた空気も、いつの間にか別のものに変わっているのだろうと思うと、少し切なく感じてしまう。

振り返る事無くコスモキャンドルに背を向けて進むと、すぐ後ろから軽快な笑い声が聞こえた。


「ホーホーホウ、随分と遅い出発じゃの」

振り返ると、やはりそこにはふわふわ浮かんだブーゲンハーゲン様がいた。
サングラス越しに目を細めているのがちらりと見えた。

「暗ぁーい道を進まなきゃいけない立場だからなー」

にや、と悪戯小僧のように笑って、ザックスが言うと
それも面白かったようで、ブーゲンハーゲン様はまたあの特徴的な笑い声で笑った。

「なあに、暗い道の何処が悪い」
「ん・・・道は見えねえし、モンスターは活性化してるしな」
「ホッホ!それではモンスターをなぎ倒せるくらいに強くなれば良かろ。道が見えずとも、上を見れば良いのじゃよ」
「上?」

ブーゲンハーゲン様が空を指差した。
それにつられて私とザックスが上空を見上げる。
夕陽が落ちかけた空は、オレンジと濃紺色のグラデーションを作りあげている。
その中にちらちらと見える白い光。それが星々の光りだと気付くのに、そう時間はかからなかった。


「おぬしらウータイエリアに向かいたいんじゃろ?あちら側に光る、青みがかった星を目指して歩けば良い」

彼の指さす方向には、確かに他の星よりも強く輝く青白い光が見えた。
星って時間ごとに場所が変わるんじゃ・・・と思ったが、このおじいさんの言う事に間違いはない。
北極星みたいなものか、と1人納得してみる。

「わかった、あの星だな。色々世話んなったな」
「気にするでない。また機会があった時に立ち寄って、その時にお前さんが見た今の世を話してくれればのう」
「はは、ちゃんと覚えておくよ」
「記憶しときます!」
「うむ、楽しみにしとるぞい」

それだけ言うと、ブーゲンハーゲン様は自宅の方へと向かった。
その背はすぐに消え、今度こそ私たちはこの赤い大陸を歩き始めた。




***




途中で合流したクジャ、ささみと共に歩き続ける事5時間あまり。
そろそろ足が痛くなってきたかなー、と思っていると、ザックスがそれを見計らったかのように「ここらへんで休憩するかぁ」と言った。


「わー、嬉しい」
「木とか草も見えて来たし、そこらへんがいいだろ」

ザックスの指さす方には、木と岩が良い感じに密集していて自然の隠れ蓑になりそうな一角があった。
私たちはそこに隠れると、木の枝のクッションに腰を下ろした。

「あー、岩場ばっかりだったから足痛くなっちゃった」
「ゴツゴツだったからなー」
「ザックスは全然平気そうだね」
「ま、鍛え方が違うからな!」

得意げに話すザックスが何だか可愛らしくて、思わず吹き出してしまう。
私がブーツを脱いで膝を抱えると、そのすぐ後ろにささみが座る。
ささみにもふっと寄りかかれば、ふわふわの背もたれが完成だ。

クジャとささみに乗って進めば、もっと速く遠く進めただろうが、あいにく2頭の背には沢山の荷物が乗せられている。
これはコスモキャニオンで買い足した物資の数々だ。
ニブルヘイムからルクレツィアの滝に向かう時、物資を充分に用意したつもりだったが矢張り途中で足りなくなったので、木の実を奪って食べて・・・という生活を何日か過ごした。
今回はそういう事が無いように、多めに買い込んでおいたら、こういう結果になった。


「そうだ、そんなに痛いなら俺が解してやるよ」

私がふくらはぎを自分でマッサージしていると、それを見ていたザックスが身を乗り出す。
ぶっちゃけ嫌な予感しかしなかったので、有難く辞退しようとしたのだが、ザックスは言い終わると同時に私の足首を掴み、ガッと勢いよく引いた。

「うわわわっ!」
「まーまー大人しくしてろって!」

そのままずるっと引かれた私は、勿論仰向けに寝っ転がるような姿勢になった。
ショートパンツをはいているので、下着が見えるなんて事は無いが、如何せん恥ずかしい。
その上流石と言うべきか、掴まれている足首はビクともしない。

早々に観念して、足から力を抜くとザックスの掌がふくらはぎに当たる。
思いの他優しく揉み解してくれているようで、以外にも心地いい。
それに、人肌で温められた筋肉が次第にリラックスしていくのがわかった。

こんな特技もあるんだなぁ、なんて考えていると足元からザックスの声がした。

「結構張ってるなー。悪い、もっと早く気づいてやれたらな」
「別にザックスが気にする事じゃないよ。それに、ほら、ダイエットだと思えばさ」
「はは、充分細いだろ」

申し訳なさそうな声から一転して、楽しげに笑う声になった。

「ザックス、マッサージ上手いねー」
「だろ?奈々、絶対に俺のこと下手くそだと思ってたろ」
「思ってたようなそうじゃないような・・・」
「こう見えて足裏マッサージも得意なんだぜ」
「ううん、それはいい」

今度はキッチリお断り出来たので良かった。
ザックスの「なんだよー、痛くしないって!」と言う声を聞きながら、頭上に広がる満点の星を見上げる。
頭の上にはふわふわしたささみの毛。空気は乾いて涼しくて。


ああ、私贅沢してるなーと、なんだか嬉しくなった。






previndexnext