FF夢


 2-02






私たちは今、ニブルヘイムから南東へ向かい、一つの山を越えた先にある泉に身を隠していた。


「しかし・・・こんな所に洞窟がなぁ・・・」
「ニブルエリアの警備が緩くなるまで、ここに隠れてようと思って」
「いい考えだな!滝の裏とは気付かなかったよ!」

そう、私の案内で辿りついたこの洞窟。
ルクレツィアの眠る洞窟だ。

水晶の中で眠る彼女を見て、ザックスが驚いていたが、私がかいつまんで説明をすると、それで納得してくれたらしい。


「さぁて、これからどうすっか」
「どうって・・・行き先のこと?」
「ああ。今後の参考に聞いとこうと思ってさ」
「今後も何も・・・私はザックスが安全に暮らせる所に着くまでついて行くよ」


そう言い放つと、ザックスはこれでもかというくらい目を見開き、両腕と首を同時に左右に振った。


「駄目だ!これ以上関係の無い奈々を危険に晒すような事はできねぇよ!」
「絶対ゆずんないよ!もうこの時点で充分首突っ込んでんだから!」

ザックスを睨みつけると、彼は言い辛そうに何かを口籠り、そして観念したのか両手をひらひら振った。

「はぁ・・・俺だってさ、奈々がいてくれた方が心強いってのあるけどよ・・・」
「私のこと、まだ信用ならない?」
「そうじゃねえよ。ただ、これ以上無関係のお前に頼るわけにはいかねえんだ」
「無関係って言わないでよ。私にだって理由があってこんなことしてるんだから、ね?」

そう告げると、ザックスはキョトンと目を丸くする。彼に心当たりなんてないだろう。私が画面の向こう側から、一方的に彼に憧れていたのだから。


「これからね、ずぅっと南下してコスモキャニオンに滞在したあと、ゴールドソーサー側から回ってアイシクルエリアに行こうと思ってるの」
「また随分回るなー・・・」
「うん。アイシクルエリアは隠れる場所が多いし、実は結構ミッドガルにも近いの。だから隙を見てミッドガルの中に隠れる事もできる。・・・まぁ、神羅大きな隙が出来るまでは雪山暮らしだけどね」
「そうか・・・ゴールドソーサー側っつってもコレルプリズンを通れば・・・」
「そう、安全に行けると思う。山も近いし、隠れながら有利に移動できるよ」


何時間もかけて今後の予定をザックスと話し合い、最終的には私の計画していた通りのコースで身を隠す事になった。

セフィロス騒ぎが起これば、神羅の目はそっちに向く。それまで、ザックスには隠れていてもらわなければ。


「とりあえず・・・私は外を確認してくるね。もうすぐ夜が明けるし」
「ああ。悪いな」

ザックスに荷物を預け、私は自分の装備と日記の入った鞄のみを持ち、滝の外へと出た。

ここへ来た時のように山を越え、辺りの音に注意を向ける。地面に耳を当てると、遠くからの喧騒が微かに聞こえて来る。

かすかな地響き、きっと既に軍用車が多く配置されているのだろう。風はいつもと違う吹き方をしている。ヘリも駆り出されていたっけ・・・

まだ辺りは薄暗く、一番静まり返る明け方だからこそ遠くの音がここまで届くのだろう。
私は今感じた事をザックスにメールで送り、もう少し様子を見る事も一緒に述べた。

そして山の中に再び身を潜め、自身の膝の上に日記帳を広げた。



 [ν]εγλ‐0006年 12月20日 天気・晴れ

 ルクレツィアの滝近辺

 無事に、ザックスとクラウドを助け出す事が出来ました。
 2人が無事で本当に良かった。
 これからの予定は書きません。だって万が一この日記が見つかってしまったら・・・
 とにかく今は、神羅の動向を注意深く探りながら
 慎重に歩を進めて行こうと思います。



黒いペンを走らせていると、地面が先程よりも強く揺れているのがわかった。

まさか軍が近づいてきているのではないか。そんな嫌な予感を感じながら、私は身を縮めて完全に姿を隠した。

すると目の前に一台のトラックが停車した。運転手が下りてきて、私がいるのとは別の方向へと向かって行った。その姿を見る限りは神羅の兵ではなさそうで、安堵する。

私は妙に臭うトラックの荷物が気になり、そっとトラックの後ろから近づいた。


「クエェ〜・・・」
「あ・・・これって、もしかして、チョコボ・・・?」

中にあった・・・否、居たのは数体の黄色い鳥。どのチョコボも首と足に鎖を巻かれ悲しげな顔で私を見つめていた。

「君たち、なんでこんな・・・この世界じゃあ移動のチョコボ業者って無いよね・・・?もしかして、密売!?」
「クエッ!」
「クエッ!」

私の問いに答えるような、悲痛な鳴き声が荷台の中に響く。するといきなり、荷台を覆っていた布が大きく開いた。

外は既に、かなり明るくなっており、朝日が私の身体を照らし出す。

あ、やばい。
そう思い身を硬直させると、なんと周りのチョコボ達が私の身体をガッチリ覆って隠してくれた。多少チョコボくささはあるものの、見事に壁になってくれていて、私はホッと息を吐いた。


「うるせえぞ!!テメー等はただの商品なんだから大人しく寝てやがれ!!」

荷台に響き渡る怒声。恐らく密売業者のものだろう。

その声にチョコボ達は身をすくませ、怯えきった表情で小さく鳴いた。
荷台を覗きこんでいた男は一度チッ、と舌打ちをすると、そのまま運転席の方へ戻って行った。


「ありがとう、おかげで助かったわ」
「クゥ〜」

先程の元気な声と違い、すっかり意気消沈した鳴き声。
本来野山を駆け回っている筈の彼らがこんな狭くて暗い所に閉じ込められるなんて。

すると運転席の方からヒソヒソ、話し声が聞こえて来た。私が聞き耳を立てるために唇に指を当てて「しー・・・」と言うとチョコボ達は一斉に鳴き声を止めた。

頭の良い子たちなんだなぁ。


「今回は良いチョコボが手に入りましたよ・・・」
「アイシクルエリアからの密輸、でしたかな?」
「ええ、なんと山川チョコボを2匹も捕まえることが出来まして・・・」
「おお・・・素晴らしい・・・正規のルートじゃあ自分で育てるしか方法がないようですからね・・・」

その話を聞きながら荷台の中を見回すと、一番奥の方に一番縮こまった黒羽のチョコボが身を震わせていた。

そして隣には同じ色のチョコボがもう一羽。少し身体が大きい・・・オス、だとしたら多分つがいなのだろう。


その黒チョコボに近寄ると、その子はビクリと身体を震わせた。
どうやら私が近づくのが怖いようで、一歩近づくごとにどんどん壁の方へ身を引いて行く。反対にオスチョコボの方は鋭い眼光で私を威嚇するように見ている。

無理に近づくのも悪いので、その場に止まって2羽の黒チョコボを観察すると、メスチョコボの胸元に、一羽の仔チョコボがぐったりと横たわっていた。


「その子・・・どうしたの?眠ってはいないよね・・・具合、悪いの?」
「クッ・・・クウゥ〜」

悲しげに鳴くメスチョコボ。
嘴の上の部分で仔チョコボを撫でては、悲しげな鳴き声を上げている。

まさか。


「もしかして、そんな・・・その子は、もう・・・」
「クェ・・・」

私が最後まで言いきらないうちに、2羽の黒チョコボの瞳から涙がこぼれ落ちた。

そっと、その親子に近寄り親チョコボの羽を優しく撫でてやると、私の首筋に頭を擦り寄せてきた。
オスチョコボも、さっきまでの敵意をなくし、メスチョコボと共に私に体重を預けている。仔チョコボの遺体に視線を落とすと、胸の部分に大きな弾痕があった。


「あいつ、なのね?やったのは、あの男・・・」

先程の密売業者。
確か、腰元にライフル銃を括りつけていたのを覚えている。


「許せない」

私利私欲のために罪無き仔の命を奪っておきながら、自分は金にまみれて安寧を得ている男。

先程の怒声といい、チョコボ達に対する仕打ちといい、生き物を取り扱う職業の人間がやる事ではない。そりゃあそうだ、密猟者なのだから。
腹の底からふつふつと怒りがこみ上げてきて、私は荷台の中を見回した。

暗闇に慣れた目は、いつも通りの観察力を発揮している。そして、運転席側の壁に鍵束がかかっているのが見えた。

荷台にいるのはチョコボだけ・・・鍵を置いておいても逃げはしないと思っているのだろう。私はその鍵束を掴むとチョコボ達を拘束している首輪と足枷を外し始める。


「いい?みんな・・・そーっと、外に出るの。出来るだけ気づかれないように、静かに、素早く逃げなさい」

次々と枷を外しながら言い聞かせると、チョコボ達はちゃんと理解してくれたようで
一匹、また一匹と音を立てずに外へと逃げて行った。

そして最後に、例の黒チョコボが残った。2羽とも枷を外し、外に出たのを確認してから私も山の中へと姿を消す。

チョコボ達は皆、持ち前の素早さで逃げたらしく、辺りは再び静まっていた。
しばらく様子を見ていると運転席から2人の男が降りて来た。
先程の、銃を掲げた男と、もう1人は客であろう金持ちそうな男。


密売人が荷台の布を捲った瞬間、辺りの岩場からチョコボ達が一斉に飛び出してきた。


「「「「クエエエッ!!!」」」」

全速力でのチョコボキックを浴びせられ、男2人は地面へと倒れ込んだ。
完全に気を失っているようで、動く気配もない。


「み、みんな・・・怪我してない!?大丈夫!?」
「クエッ!」

荷台にいた時とは打って変わって、皆すがすがしそうな顔をしている。

そして今度こそ、チョコボ達は散り散りになって、自分のもといた住み家を目指し走り去って行った。



「元々いた所まで無事に辿りつけるといいけど・・・」
「「クエーッ」」
「ん?」

静かになったと思いきや、2羽分のチョコボの鳴き声が私のすぐ後ろから聞こえた。

「あれ・・・君たち、行かなかったの?」

私の問いに答えるように、オスチョコボが羽をばたつかせる。
しばらく待ってみても、2羽のチョコボはこの場所を離れる素振りをみせない。

「もしかして・・・もしかして、私のために残ってくれてるの?」
「クエッ!」


そうだ、と言わんばかりに声を上げるオスチョコボ。この2羽は私に力を貸してくれるのだろうか。

「じゃあ、あのね、私今、2人の男の人と旅をしているの。だから、もし貴方たちさえ良ければ、一緒に来て力を貸してくれない?」

そう問いかけると、2羽は同時に声を上げて同意を示してくれた。

「ありがとう!! そうだ、その前に・・・その子のお墓を作ってあげなくちゃ・・・野ざらしには出来ないからね」

地面に寝かされていた仔チョコボの遺体を優しく抱き上げながらそう言うと、母チョコボは優しく、悲しそうにほほ笑んだように見えた。


こうして、私は心強い仲間を得る事ができた。





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