2-01
ギシッ・・・ギギッ・・・
一歩歩く度に鳴く、床のきしみ。
空を覆う雲はいつの間にか分厚い物になっていて、月明かりは届かない。
隙間風が通る音が何かの声に聞こえたり。カーテンがなびくと、そこに何者かの影が見える気がしたり。
つくづく、臆病者だと自虐の頬笑みが浮かぶ。
中は、あの懐かしいマップと全く同じで、それだけでも少しホッとするものがある。
その上、職員が行き来するスペースはモンスターが少ないらしく、さっきからファニーフェイスにも遭遇しない。
まぁ、地下通路に下りてしまえばわんさか生息しているのだろうけど。
たどり着いた一室にある石のレンガで覆われた柱の表面をグイ、と押す。すると表面の岩壁がズリズリ横にずれて行き、そこには下へ続く階段があった。全て、順調だ。ゲームの通りだ。
自分の記憶を確認しながら、階段をゆっくり下りてゆく。時々酷く鳴る床板があって、その度に落ちやしないかと冷や汗を流したが、どうやら大丈夫のようだ。
無事に最下層まで降りると、そこには怪しく照らされた洞穴が口を開けていた。
ぼんやり、壁を照らしているランプが揺れ、辺りはモンスターの鳴き声や、私の足音、そしてコウモリの鳴き声など・・・不気味さを引き立てる音ばかりが木霊する。
道中、ヴィンセントが眠る部屋に続くドアがあった。棺桶を開き、彼を説得して手助けしてもらえれば、と思ったのだが、あのドアを開くには上の階でボスを倒さなくてはならない。
それに、物語が始まる前にクラウドと彼を引き合わせて良い訳がない。私は後ろ髪引かれる思いで、その扉を後にした。
***
何十分歩いただろうか。
途中、数体のモンスターと遭遇してしまった。数自体は少ないが危険なモンスターが多く、私は思った以上に体力を消耗していた。
しかし、長い洞窟はついに終わりを迎え 分厚い扉が私の目の前に現れた。ギイィィィィ・・・と重たげな音を響かせてドアを開く。
すると中から、白衣を着た男性が飛び出してきた。
「うわっ・・・何?」
「たっ、助けてくれ!!あの男に殺される・・・!」
私の肩を掴み必死に懇願する男性。その後ろではもう一人、苦虫を噛み潰したような表情の男性がいた。
ザックス。
ついに辿りついた、ずっと助けたかった人の元へ。
しかし感極まっている場合ではない。すぐに頭を切り替えて、この場を把握する。
ザックスはおそらく、私も神羅の者だと思っているのだろう。しかし、あいにく私の目的は白衣の男性を助ける事でも、2人をここに幽閉する事でもない。
私に縋りつく男性にスリプルを詠唱し、崩れ落ちる身体を支えながらそっと地面に横たわらせる。
それを傍観していたザックスは怪訝そうな顔で口を開いた。
「あんた・・・神羅の人間じゃないのか?」
「うん、訳あって今は詳しく話してられないんだけど・・・私は貴方達を助けに来た。無理なお願いだとは思うけど、私の事を信じて着いてきてほしいの!」
真っ直ぐ、私の気持ちが伝わる事を願ってザックスの瞳を見つめる。
疑心を宿していた彼の眼は、次第に柔らかいものになって行き、そして私に笑いかけてくれた。
「なんでかな、疑えねーな・・・」
「え?」
「頼むよ。手伝ってほしい」
「う、うん!!」
4年もの間魔晄に浸かっていた彼の身体は随分筋力が衰えているようで、クラウドを支えて立ちあがるのも精一杯のようだった。
彼の事だ、すぐに復活するだろうけど今は一秒でも早くここを出たい。
ザックスがクラウドを担ぎあげたのを確認すると、すぐさま扉から出て、先程の白衣の男から擦り取った鍵で分厚い戸を閉めた。
ここにはもうじき神羅兵がやってくる。彼が閉じ込められたまま、というのは無いだろう。
ここからはクライシスコアの記憶が役に立つ。私は大きく息を吐き、己の中の記憶を呼び起こした。
***
「ザックス、次の別れ道を右に進んで、階段を上ると屋敷内に戻れる」
「ああ!奈々がナビゲートしてくれるおかげでスムーズに行けそうだぜ!」
随分調子が戻って来た様子のザックスが、こちらを見てニカッと笑う。私は、その笑いに応えながら次の道筋を頭に描いた。
幸い、こちらの世界に来てからはずっと戦いっぱなしだったため、これくらいの距離でひいこらする事はなくなり、今も少し呼吸が乱れている程度だった。
そのお陰で、冷静に記憶を辿る事ができている。
「この神羅屋敷を抜けたら、とにかく立ち止っちゃだめだよ。モンスターは私が倒すから、ひたすらここから離れるの」
「・・・それも何か、ワケ有の予感ってやつ?」
「まーね・・・以前、ここはセフィロスの手によって燃やされたでしょ?」
「ああ・・・」
「その事実隠ぺいをしているのは神羅。ここの住人は、今ほとんどが神羅の人間だった筈」
その事実をザックスに告げると、彼は驚いた顔で窓の外を覗き見る。
「それで、ボロボロになった街が元通りになってんだな・・・」
「そういう事。・・・外は誰もいないよね?」
「大丈夫だ。時間かかってたらやばそうだったけどな」
未だ静かな街道を抜け、街の外に出た瞬間、私の頭は真っ白になってしまった。
このままザックスが思った通りに進めば、いずれはバノーラ村の跡地にたどりつく。
そうすれば時間を浪費し、結果的に神羅に追いつかれてしまう。
しかし、私はバノーラ村がどの辺にあるのか分からない。
だから、今、ここでクライシスコアの道筋からザックスを引き剥がさなくてはならない。
そう決心した瞬間、次の行き先への道筋がハッキリと浮かんだ。
私は戸惑うザックスの腕を引きながら、目的地へと歩み出した。
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