FF夢


 2-03





「山川チョコボって・・・俺初めて見たぜ・・・」
「格好良いよね!あ、この子たちね、名前を付けてほしいんだって!」


チョコボ騒動から何時間か経ち、私と2羽のチョコボはザックスとクラウドが待つ
洞窟へと帰っていた。

騒動の一部始終をザックスに話すと、えらく褒められた。
「流石奈々!やるときゃやってくれるよなぁ!!」なんて言いながらぐりぐりと頭を撫でられ、嬉しいやら頭がぐらぐらするやらで一時的にコンフュになりかけた。



そして、仔チョコボの墓を建ててやり、花を添えてひと段落した所で、先程の会話になった。

「名前かぁ・・・」
「うん、私がこの女の子に乗って、ザックスとクラウドは男の子の方が乗せてくれるらしいよ!」
「んじゃあ俺がお前の名前を考えなきゃだな・・・んー・・・」


少しの沈黙の後、最初に声を発したのはザックスだった。

「よしっ!お前は今日からクジャだ!格好いい名前だろ?」
「クエッ!」
「クジャってどっかで聞き覚えあるんだけど・・・」
「何でだ?」
「いや、何となく。名前は・・・そうだなぁ、【ささみ】でどう!?」
「クエーッ!?」
「・・・お前、嫌なら嫌って言って良いんだぞ」


多分喜んだ鳴き方だろう、と自己完結して2羽のチョコボの名前は【クジャ】と【ささみ】に決定した。

そして私たちと2羽は、ずっと取っていなかった休息をとる事にし各自、堅い洞窟の中で静かに目を閉じた。



と言っても、緊張した精神状態でゆったり眠れるわけも無く、布団にと用意していた布の中で何度も寝返りを打っては今後の行動を反復し、目を開けたり閉じたりを繰り返していた。

すると、洞窟の入り口から何者かの足音が聞こえ、私とザックスは跳ね起きて武器を構えた。


そこには、機械的な色をしたハウンドが立っていた。その姿を見て、バスターソードを構えていたザックスはすぐに剣を下ろし、そのハウンドに駆け寄り、つぶやいた。

「あの時の・・・」

そう、そのハウンドはアンジール・コピーの一種であり、エアリスの教会でザックスと会ったことのあるハウンドだ。CCのストーリーではバノーラ村跡地に来るのだが・・・物語がねじ曲がっているこの状況でも、彼はエアリスの手紙を届けに来たのだろう。

歪みのせいか、ハウンドの体力はかなり削られていて、地に降り立った瞬間に倒れ込んでしまった。その身体からはキラキラと、エネルギーが漏れ出している。

きっと、限界を超えた状態でこの場所を探し当ててくれたんだ。
そしてザックスを見つけて、この場所で星に還ろうとしている。

健気で、切ないその姿を見て、私は涙腺が緩むのを感じた。

じわり、じわり、と涙が浮かんでくるのを耐えながら、ザックスがその身体を優しく撫でるのを見つめる。次第にハウンドの身体が完全にライフストリームと化し、そこには一通の手紙が落ちていた。


「これは・・・」
「きっとザックス宛てだよ」

手紙を拾い上げたザックスは不思議そうな顔をして、それを広げる。
その視線が一文を追うごとに、苦しそうに歪められてゆく瞳。


「4年って・・・・・・最後って何だよ!?」

悲痛な声が洞窟内に木霊し、手紙を握りしめたザックスが呆然とした目で私を見る。

「あれから・・・あれから4年も・・・ずっとエアリスは1人ぼっちで・・・」

きっとあなたは、それを知ったらミッドガルに向かってしまうから。
私は心の奥底で、この手紙を隠そうとしていた。人の気持ちを隠すなんて、やってはいけない事だと知りながら。

「ミッドガルに、行く」
「駄目だよ!」
「・・・ッ、駄目って、そんな事言ってられないだろ!?今も待ってるんだぞ、エアリスは!!」
「予定は変更なしだよ、神羅の目が緩むまで・・・」
「そんなの、いつになるかわからねーだろ!!」


初めて聞く、ザックスの怒声に身体が硬直するのがわかる。
でも、ここで彼を行かせたら・・・命は絶対に無い。私も負けじと声を荒げてザックスに向き合う。

「いつになるかわからなくても、耐えるしかないの!」
「お前にはわからないだろ!!エアリスがどれだけ悲しんでるか・・・!」
「わかるよ!エアリスは私の友達だもん!!一緒にいた期間は短くても・・・大切な友達なんだから!」
「俺とお前とは違うんだ!関係無い奴が口出しするな!!」


どんどん大きくなるお互いの声。
ザックスは怒りに顔をゆがませながら、掠れた声で怒声を上げる。
私は、そんな彼の気持ちを理解してしまい、思わず涙がこぼれる。
どれだけ彼は苦しいだろう、どれだけ私は無力なのだろう・・・

私の頬を伝った涙を見てか、ザックスは怒鳴るのをやめた。
そしてバツが悪そうに視線を外すと、クラウドを肩に担ぎ洞窟を出ようとする。


「行くんなら、私を殺してって」

そのザックスの前に立ちはだかって、そう告げる。
こんなゲームだか漫画みたいなセリフ、まさか私が真面目に使うような時が来ようとは。
ザックスもそれに怯んだらしく、キュッと苦しげに眉根を寄せた。

「やめろよ、痛い目みるぞ。エアリスは、俺が今生きているのかさえわからないんだ、行ってやらなくちゃ」
「わかるよ、エアリスは星の声を訊く事ができるんだから。あなたが死ねば、その思念を感じる事ができる」
「・・・じゃあ、俺が生きてるって事・・・」
「知ってると思う。だから、手紙が届いたんだよ。でも、もうどこに届ければいいのかが分からないんだと思う」


それを聞いたザックスは幾分、冷静さを取り戻す事ができたようで
大きなため息をついてその場にしゃがみ込んだ。


「悪い、大声出して・・・」
「ううん・・・私も、ごめんなさい。色々秘密にしたまま勝手な事言っちゃった」


洞窟内に居る全員が黙り込み、重い沈黙が続いた。私はその間考え込んでいた事を口に出す。

「あのね、ザックス・・・」
「ん?」
「その、私、私が知ってる事と、今からやろうとしてること、全部聞いてほしいの」
「・・・いいのか?俺が聞いても」
「うん、何で今まで言わなかったんだって怒るかもしれないけど、とりあえず聞いて」
「別に、怒るつもりはねーよ」

幾分穏やかになったザックスの声に安心して、そちらに姿勢を正すと
ザックスは私の顔を見て「はは。」と笑みを零した。

「だから、そんなガチガチになんなって」
「ううう・・・結構緊張するんだからね」


そして私は、自分の中に溜め込んでいた物をすべて吐き出した。

自分が、この世界とは別の次元から来たこと。元の次元でこの世界の未来が描かれた物語があること。その物語ではザックスが死んでしまうということ。
ある時期までにクラウドをミッドガルに送り届けなければいけないということ。

そしてそう遠くない先、この世界に大きな危機が迫るということ。


「多分、これで全部かな・・・」
「はぁ・・・なんか、怒るとかそういうんじゃないけどさ、聞き疲れた・・・」
「私も話し疲れた」

きっと私の話は酷く支離滅裂で、理解し難かっただろう。自分でも不安定な部分が多すぎると思う。
ましてや絶対に知らせてはいけない部分は上手くはぐらかして文章を組み立てる。もちろんメテオやセフィロスなど、直接的な単語は使わないように。

こんなに脳を使って喋ったのは初めてだ。でも、ザックスは先程よりも気の抜けた顔をしていた。



「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」


どちらも黙ったまま、数分の時が過ぎ、最初に口を開いたのはザックスの方だった。

「あー、なんだ、その。大変なんだな」
「え?」

唐突にザックスの口から出た言葉。だがあまりにも曖昧すぎて、理解ができない。
ザックス自身も同じことを考えていたのか、口元だけで笑って言葉を続けた。

「全部知ってるってさ、キツいんだなぁって思った」
「うーん、あんまり辛いなって思った事はないよ」
「そんなもんか?」

ザックスの言葉に頷いた後、私は自分の記憶を振り返ってみた。

確かに、余裕が無い時は悪い事ばかり考えてしまうけど、自分がこの世界に来た事を悔いた事は無い。

私が助けたいのは、所詮思い入れのある"メイン"の人たちだけ、その行動のせいで、関係無い人たちが犠牲になってしまうかもしれないけど。

そこまで考えた所で、私の思考はストップした。


これじゃあまるで【神気取りの人間】のようだと、思った。
同時に、恐ろしくも思う。これから先、私は一体何人の人を殺すんだろうと思うと、身が震える。さっき言われた通り、私はこの世界に関係の無い存在なのに。


思考が悪循環に囚われかけたその時、暖かい掌が私の肩を撫でた。

それに気付き、ザックスの方を向けば心配そうな顔。
「おい、大丈夫か?」と声をかけられて、やっと視野が広がった。私のすぐ横にはささみとクジャもいて、ひどく心配そうな様子で私を見ている。


「えっと、ごめん、ぼーっとしちゃった」
「悪い、変な事言っちまってさ」
「や、ザックスの言った事を気にしてるわけじゃないよ!」

元気の良い声を意識したら、変にトーンが高くなってしまったのかもしれない。怪訝そうな顔をしたザックスは、私の身体を無理矢理倒した。

「やっぱり、少し寝ろ。俺と違ってお前は人並みの体力だろ?」

呆然とする私の上に布を掛けて、その上からぽんぽんと撫でてくれる。まるでお母さんが小さい子を寝かしつける時のようだと思ってしまった。

「そんな心配そうな顔しなくても、もう勝手にミッドガルは行かねーよ」

眉を下げたまま笑うザックスに安心して、促されるままに瞼を閉じた。すると背中側にふわふわと暖かい感触が触れる。おそらく隣にいたささみが来てくれたんだろう。


さっきよりも暖かな環境に誘われて、いつの間にか意識は暗闇に落ちて行った。




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