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着々と近づいて行く文化祭
今年はクラスでお化け屋敷をやろう!と実は内々で学級委員の山田くんとクラスの中心人物と言っても過言じゃないマイコちゃんが意見交換をし合っていたらしい
今回はメイド服を着なくてもいいのかぁ…と内心ホッとしながら私は衣装作りをしていた。
といっても使い古したTシャツを持ち寄ってビリビリに引き裂いたり、白衣に血のりやらどす黒い色の絵の具をべったり付けてみたりと去年とはまた違う準備に少し骨を折っている
文化祭の準備の様子を見回っているのかよく教室にアレクセイ先生が来る様になって、やたらと絡んでくるし(こわい)、進路も決まってないし…しかもレイヴンの言う限りだとクラスで出していないのは私だけらしい。
なんだか考えることが多いなぁ…とため息混じりでパレットにのせた赤と緑の絵の具を筆で捏ねくり回す

この間、孤児院に久しぶりに行ってみてなんだか帰って来た気持ちになったのはおばさんやパティたちが居たからだろうなぁ、少しだけ懐かしい気持ちになった
…そういえばパティたち遊びにくるって言ってたけど私のクラスお化け屋敷じゃん…大丈夫かな…
パティは多分大丈夫だとして…カロルくんとか恐がりだしなぁ…

絵の具は当の昔に混ざりきってどす黒い色に到達しているのにも関わらず私はこの間の孤児院のことを思い返しながら未だに捏ねくり回している
そんな私をマイコちゃんとエステルは様子を伺いながらも着々とTシャツを引き裂いている。

「ぬぅ?姫姉ぇは進路で悩んでいる?とな」
「うん、それでレイヴンが試しに孤児院とか行ってみたらって…」
「! そんなの簡単じゃ!」
「え?」
「姫姉ぇの進路はレイヴンの”お嫁さん”で決定なのじゃ!」
「えぇっ!?ちょっと…パティ!聞こえたら…!」
「聞こえちゃマズいのか?うちにはまだ早いけど…ユーリのために早く大人になって、うちプロポーズしに行くのじゃ!」


ふと孤児院でパティと話した会話が鮮明に蘇る
エステルも同じことを言っていたし、いや、お嫁さんになれたらそりゃあ本望だけど…!
思わずエステルを見つめて、筆を回す手を止めた。
動きの止まった私がエステルを見つめていることに気が付いたのかエステルは私の方を見て首を傾げる
脳内でエステルとパティが”お嫁さんです(じゃ)!”と意気揚々に騒いでいるのがこだましてなんだか恥ずかしくなって思わず私は思い切り首を振った


「姫!?どうかしましたか!?」
「いや…ちょっと考え事を…」
「エステルの顔見つめてなーに考えてたんだか!あ、あともう絵の具混ぜなくていいからね?むしろ混ぜすぎ、絵の具が可哀想になって来たよ」
「え?…あぁ!ごめんっ!」
「姫ずっと上の空で絵の具混ぜ続けてましたよ…?なにかあったら相談して下さいね?」


私のちょっとした奇行に半笑いのマイコちゃんと心配そうな顔をしたエステルにもう一度謝って今度こそ作業にしっかり取りかかろう…
マイコちゃんの言う通り絵の具はパレットの上でなんだかぐったりとしているようにも見えた
ボロボロになったTシャツと白衣に斑に絵の具を塗っていくとなんだか少し楽しく感じた。
ここは一旦切り替えて、進路のことは文化祭までじっくり考えてみよう
と、やっとこさ踏ん切りがついた所で廊下からバタバタと足音が聞こえてくる
大変大変だ!と声が聞こえて、ドアの方へと振り返るとなんだか少し慌てた様子の山田くんが丁度そこに現れた


「山田ーどうしたの、そんな慌てて。告白でも遂にされた?」
「だったらいいな!!違うわ!!」
「一体何があったんですか?」


肩で息をしながら戻って来た山田くんは教卓の前へと移ると、みんなに一旦作業を止める様に促した。
確か山田くんは委員長会議なるものに出ていた筈、そこできっと何かあったのだろう
勿体ぶるなとクラスの男子たちが茶々をいれていると、他のクラスでも学級委員が持ち帰った情報を聞いていたのかなんだか廊下が騒がしい。


「今回の文化祭なんだけど…急遽…」
「中止とかないよね!?」
「マイコ、まぁそれはないから落ち着けって」
「じゃあ一体何事!?」
「それが、急遽クラスで男女1人ずつ代表で出してミスミスターコンが行われることに…」


どんどん語尾が小さくなっていく山田くんとは裏腹にクラス内は大騒ぎだ
廊下が騒がしくなったのはその所為か…
文化祭の準備どころではなくなった教室は誰が出るのかをみんなで話し合う場に一変する
男子同士で、お前出ろよ!となすり合いが始まって、女子間は出れるほどの自身はまずもってないと青ざめる。
その間爛々としているのはエステルだけだ
楽しそうですね!と私とマイコちゃんを交互に見る


「それで…自他推薦なんでもありで代表候補を…」
「女子はエステリーゼさんがいいと思いまーす!」
「えっ?私ですか」
「男子は…山田あたりでいんじゃね?」
「ちょ、ま!俺は嫌だよ!男子はユーリ先輩とフレン先輩のどっちかで決定だろ!!」

先ほどから茶々を入れまくる男子がエステルと山田くんを推薦してケラケラと笑っている
イベント自体は楽しそうではあるが、自分が推薦されるとは思わなかったのか急におどおどし始めたエステルは何を思ったのか…

「じゃぁ、私も姫を推薦します!」
「ェエエステルさんっ!??!」
「だって姫私なんかより可愛いですし…」

案の定体育祭と同様で巻き込み事故を喰らう私の声が裏返る
エステルの推薦によって視線が集まるのを感じて、無理無理!と両手を前に出して首を横に振れどもユーリ先輩とフレン先輩のどちらかが出るならば女子は完全にエステルか私にほぼ決定した様な雰囲気すら出始めている
助け舟を出そうとしてくれているのかマイコちゃんは苦笑いで山田くんにコンテストの内容と入賞した際の賞金について尋ねている


「あーっと特技披露と、私服姿?入賞したら入賞者が学期末まで学食食べ放題で、優勝すると確かクラス全員に食券半年分だったかな」
「重要なとこ曖昧だな!でもかなり太っ腹な賞金だねぇ」
「私服はともかく…特技なんて私ないし…!!やっぱエステルが適任だよ?!」
「私も特技と言う特技は…」
「よし、ここはエステルと姫腹を割って勝負するしかないんじゃないのかな!」


優勝できるかもわからないのに賞金に目が眩んだのかマイコちゃんの目は爛々としている。
ここは正々堂々じゃんけんで!ともしかしたら体育祭よりもクラスの心が一つになったかもしれない瞬間を私は目の当たりにした。
出さなきゃ負けよー!と音頭を全員で取り始めて、酷く緊張状態のなかで教室のドアがガラリと空いた。
思わずそれに気を取られ、ドアを見つめると丁度レイヴンが教室へと入って来た所だ。
一瞬目があって、逃げ出したい気持に駆られながらもじゃんけんの音頭は進んで行く。
ポン!と全員が言い切る前に慌てて私はパーを出すと、クラス中がうわーー!と騒ぎ出した。
自分が入った頃には謎のじゃんけん大会が始まっていたのだから状況が掴めないレイヴンの顔を一瞬見て私はわなわなと膝から崩れ落ちる。


「えっ、なになに?何事?」
「…と、いうことで女子代表は姫で決まり!」
「女子代表…?ってまさか…」
「いやー!!エステル変わってー!!」
「正々堂々!です!」
「じゃあ、先生変わって下さいぃ…」
「姫ちゃんそれは無茶よ!!!」


私って平穏な学生生活を送れる日は来ないのかしら…




おまけ(帰宅後)

「まーまー落ち着きなさいって」
「これが落ち着いていられますか…」
「だってもう決まったことだし…お祭りだし…」
「…これ以上目立つ場所へは出たくなかったです…そして問題は特技です…」
「あ〜…きゅ、弓道…とか…?」
「ヒカルの時だってガタガタだったのに上手く射れると思いますか…?もうこうなったら一肌脱ぐとか…」
「それはいけません!!おっさんが断じて許しません」
「本当に脱いだりしませんよ!?う、歌うたうとか…」
「脱いだりしないように、姫ちゃんのいろんな所に……なんでもない。」


▽▽



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