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体育祭、そして定期試験と俺からすれば1年間の定例行事たちは呼吸するが如く過ぎてゆく。
学生の時間は有限だ。姫や嬢ちゃん、青年たちには有意義に過ごして欲しい。
俺の高校時代なんてま〜、かれこれ…にじゅ…いや、数年前な訳で
あの頃って一日が途方もなく長かった印象は未だに残ってる。高校生なんて大人に近い子供だ
誰かが決めた”20歳になったら成人”の一歩手前なだけあって、一番子供扱いされると嫌な時期で、それでも何かの責任を問われれば大人に向かって急に未成年であることを主張する。
良くも悪くも都合のいい時期、いわば無敵だ
でもそれこそが有限な時間で、今思えば途轍もなく尊い時間
そんな生徒らも今大人になる準備を着々と進めている
その一つが、進路だ
定期試験の前になんだか神妙な顔をしたユーリと姫は俺が声をかけた途端揃って苦笑い
俺が邪魔したと言っても過言ではなさそうな雰囲気は感じたが、彼女が進路相談いていたと言うのなら俺はその返答を今の所は鵜呑みにしておこうと思っている。
実際のところ進路に悩んでいるのは言うまでもないのだ、進路調査証を提出して来ていないのは姫だけだ。
一応発破をかけておくべくか。


「ねぇねぇ、姫ちゃんって将来何になりたい。とか本当に何もないの?」
「…唐突な質問ですね…先生みたいです」
「おバカね…。先生でしょーに」
「そうでした!」
「ほんで?」
「うーん…コレと言ってないんですよね。なんとなくで進学するって言うのも手なのかな、とも思ってますけどダラダラ進学してお父さんたちが残してくれていたお金使うくらいなら卒業して働くっていうのもアリかなとは思うんです」
「別に悪い事ではないけど、このご時世に普通科の高卒はなかなか厳しいわよ?」
「そうですよね…大学行ったらそれなりに給料も上がるじゃないですか…」


唐突な両親との別れを経験している姫は他の学生からしてみれば自立している。というかせざるを得なかったからか金銭面等に関して割と倹約家だ
一人暮らしが長い俺からしても目からウロコな節約術やらをたまに披露してくれる
休みの日に久しぶりに2人でのんびりとしていた筈が俺が発破をかけてしまい、姫は試験勉強の如く頭を抱え始めてしまった。


「ん〜…レイヴンはどうして先生になったんですか?」
「俺?あんまり聞いてもタメにならないと思うわよ…?」


いつかは聞かれるだろうと思った。俺は決して教師になって教鞭を奮いたかった訳ではない
恋人だとしても、あまり言いたくはないし。生徒としてなら尚更だ
まあ、下手に嘘を言うようなこともないだろうし、ヤケに困って足れた眉と少し期待感を含んだ可愛い瞳に免じておっさんの全く説得力のない教師への軌跡を話そうじゃないか。

「おっさんね、まあ成金一家の次男坊だったワケよ。基本的に家督は長男が継ぐでしょ?特にやりたいこと俺にもなかったし、まあ…遊び歩いていたのよねぇ…」

過去の話は大人になるに連れて聞かれることはなくなっていく。久しぶりに話す実家の話だ
勘当の後に蒸発した俺の家族たちは今もどこかにいるのだろうか。
真剣な表情で俺の話にコクリと頷く姫を横目に、目を細めて後に俺はこう続けた。

俺の素行の悪さは頭の固い親父にももちろん届いた。滅多に会うことはなかった親父とたまに顔を合わせれば、やれ勉強しろ。ちゃんと学校へいけ。補導されたらしいな。何故長男の様にしゃんとできないのか。
大体この4つを順番に言われることが多かった。
まあ、問題児ではあったけれども、成績は悪くなかったし親父もなんだかんだで強くは言ってこなかったんだが…せめて家柄の為にも公務員にはなって欲しい。って話だった
このご時世に家柄がどうので自分の将来勝手に決められるのか。なんて腐ったりもしたけどとやかく言われるのも面倒で俺はその公務員の進路にとりあえず乗ることにした。

「…ってな感じ。ね、まったくタメにならないでしょ」
「どうして勘当されたんですか?」
「んぁー…事故に巻き込まれた後に一時期大荒れしていたモノでして…?」
「あ…わ、なるほど…!でも公務員ってたくさんあると思うんですけどなんで教師なんです?」
「…昔キャナリに言われたことがあったんだ。面倒見案外いいし向いてるって。話せば話すほど格好付かないんだけど…今思えば俺自分で進路決めてないかも、なんだかんだ他人に言われた教師っていうのが腑に落ちた感じだったかも」
「腑に落ちた…、そういうものなんでしょうか」
「おっさんの場合はね!そーね…いろんな科がある大学もあるし、もしやりたいことを見つけたら転科するって手もある。それか…自分のことを知っている人とか場所を見に行ったりするのも案外何か見つかるかもしれない。例えば…地元の中学とか…孤児院とか?」

今俺が助言できるのはここまでかな。と姫の頭にポンと手を乗せてヘラりと笑えば、何かを考え込んでいる姫
中学も孤児院もさしていい思い出がなかったということなのだろうか?俺はまさか地雷を踏んだのでは。なんて内心焦っていると何か物言いた気に俺を見上げて来た

「ん、どした?」
「…孤児院行く時ついて来てくれますか…?」
「うん、別に良いけど」
「なんだかんだでパティに遊びに行くって言って置きながら1人で行くのなんだか気が引けてしまって…実は行けてなかったんです」
「あ〜なるほど、パティちゃんの相手を俺がしておけばいいのね!」
「相手…というか!パティにも報告してないですし…?」
「ま、そうと決まれば行く準備しますか〜」
「えっ今日ですか?!」

思い立ったが吉日。って言うでしょ?


△△△


「姫姉ぇと会えて、うちは嬉しいけどやっぱり不服じゃ!」
「ご、ごめんね…」
「手紙を出したくてもおばぁは住所教えてくれぬしっ!」


忌々しそうに交互におばぁ…もとい、所長さんと姫を見るパティちゃんは相変わらず元気そうだ。
住所教えたら文化祭みたいに1人で抜け出してくると踏んだのだろう。パティちゃんの行動力を考えればそれが正解だとなんとなく俺も納得した。
姫はパティちゃんにずっと捕まっているものだから、俺は所長さんと話すことになった訳で…まあなんとも言えない空気だ。


「あの…あの子…姫は1人でやれていますか?」
「えぇ、学内でも上位の成績ですししっかり者で友人関係も良好ですよ」
「そう、ですか…あの、貴方は」
「彼女の担任をしています、レイヴンと申します」
「! そうですか…貴方が」


少し引っかかりのある表情にきっと所長さんは俺と姫の関係性に何かしら知っているのは察しがついた。
俺の名前はパティちゃんの口から聞いていても可笑しくはない。
所長さんがなにか言い出しそうになった所で、パティちゃんと姫が会話を割る様に走って来た。


「おばぁ!聞いて欲しいのじゃ!姫姉ぇがみんなを連れてまた学校に遊びに来ていいと言ってくれたのじゃ!」
「みんなって、パティと同級生の子たちだけだよ!あとちゃんと大人の人について来てもらってね!」
「むぅ!それならカロルと…そうじゃのぅ…う〜ん」
「…まぁまぁ、良かったわねパティ。その日が分かったら姫連絡ちょうだいね」
「はい、わかりました」


なんだかんだで帰るまでの時間パティちゃんが姫の隣から離れることはなく、結局の所姫の進路に付いて手がかりになったかはイマイチだったがいい気分転換にはなったようだった。
パティちゃんはもちろん、姫が孤児院へ顔を出したことで面識がある子たちが大喜びだったのは一目瞭然で、姫ちゃんも満更ではなさそうだった。
孤児院にいる子供たちはみんな姫ちゃんよりも歳がしたの子たちばかりだ、遠目で見る限り普段以上にお姉さん、というか大人びて見える彼女が微笑ましく思えた。


「どうか、姫のことをくれぐれも、よろしくお願いします」
「私に出来ることは尽力致します」

「またね、パティ」
「文化祭楽しみにしておるぞ姫姉ぇ!それとレイヴン!ユーリによろしくなのじゃ〜」
「あいあい〜それじゃあ、姫帰るわよ〜」


自宅マンションへと車を走らせていると姫の声色は弾むようだった。
パティったら…なんて困った様にそれでもはにかむ表情に孤児院に俺はついて行かなくても良かったんじゃないかとも思ったがそれは言わないでおこう。



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