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体育祭が終わった。私は怪我をしてしまったことで途中棄権をして、クラスメイトたちとバレーはもちろん他の競技の応援に回った。
ひょこひょこと変な歩き方をしながらたまに小走りをする度に、何故か自分の出場種目以外では私の所に戻ってくるユーリ先輩に小突かれる始末だった。
周りを警戒しているような雰囲気のユーリ先輩に首を傾げても小さめな声で、今度話す。の一点張りで、ほとんど一緒に行動しているものだからすれ違う人たちに冷やかされた。
体育祭の結果はやはり先輩たちのいるクラスが圧勝。私たちのクラスは何とか3位入賞だった。
なんといっても私のクラスの功労者はマイコちゃんだ
私が抜けた穴を埋めるべく、とんでもない闘志を醸し出して相手チームをなぎ倒していた。
うん、あれは凄かったなぁ…
自分が出られなくなってしまったのは残念だったけれど、いろんな種目をみて回れたからなんだかんだ言って楽しかった。

だ が し か し
楽しいだけが学生の本分ではないのです
またしても試験のお時間です。
体育祭が終われば、イベントごとでノリノリだった先生たちもやたらと授業中にお決まりの『ここテストに出るからなー』『大学入試に出るぞー』が口癖になっていく
もう2年生なのだから進路についていい加減視野に入れて行かなくてはならない。
試験ですら憂鬱なのに、進路か…どうしようかな。
夏休みが終わってから実は配られていた進路調査の紙を教科書やらノートと一緒に並べながら私はため息をついた。


「姫、ため息なんてどうしたんだい?もしかして…まだ足が痛むとか!?」
「いえ!足は大丈夫ですよ」
「じゃあなんのため息だったんだ?」
「あ…えーっと」


今日は試験勉強の先手を打って勉強をしようと、いつも通りの4人でファミレスへとやって来ていた。
普段はあまり勉強したがらないユーリ先輩も今日は珍しくノートにペンを走らせていた。
私のため息によって集中力を切れさせてしまったのか、一旦休憩しましょうか。とエステルが音頭をとってドリンクバーへと歩いて行った。
軽食を注文し終えると、3人の視線が私に集まった。


「んで、どうしたんだ」
「大した話じゃないんですよ?」
「いいから話してみなよ、何か力になれるかもしれない」
「進路希望調査の紙まだ出してなくて…進学しようかどうしようかなぁ…って考えてたんです」
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって、ユーリはそうでも姫は悩んでるんだぞ!」
「エステルは…美術大に行くって言ってたよね?」
「はい、絵本を作ってみたくて第一志望は県内の美術大を予定していました!」
「フレン先輩は国際関係でしたっけ…?ユーリ先輩ってどこなんですか?」
「俺は学部は違うが、フレンと同じ大学予定だぞ」
「…偏差値足りてますか?」
「お前…」


痛いとこ突くな、だから今勉強してんだろ。と私の冗談且つ失礼な一言をユーリ先輩は苦笑いで返して来た。
エステルとフレン先輩はそのやり取りを乾いた笑い混じりに聞いている。
やはり進路が決まっていないのは私だけだ
うーん。と唸りながら進路の紙に落書きをしているとユーリ先輩が私の頭を小突く


「そうだなぁ、姫は頭が良いし国立とかも行けるんじゃないかい?」
「進路調査なんてあくまで調査だし、確か期限文化祭終わりくらいじゃないか?」
「ユーリは確か、去年の今頃白紙で提出してたよね」
「え!?大丈夫だったんですか?」
「担任になんかしら書けって言われて、旅人って書いたら怒られたな」
「もう!ユーリったら先生に相変わらずそんなことしてるんですか!?」
「私も旅人って書こうかな…」
「おいおい、それ見るのおっさんだろ」
「それよりも姫にはもっといい進路先があります!」
「へ?なになに?」


エステルが自信満々に胸を張って、咳払いをする。
フレン先輩と私は検討が付かない進路先にエステルを見つめると、向かい側の席で座っているユーリ先輩はなにやら検討がついているのか少々呆れ顔なのが横目で見えた


「それはですねぇ!"お嫁さん"!です!」
「…言うと思った」
「…ちょ…エステル」
「それはちょっと…まだ早いのではないでしょうか…」
「え?名案ではありませんでしたか?」
「ある意味迷案だな」
「漢字で言わないで下さい!…でも、その予定はないんですか?」
「よ、予定もなにも…!私まだ高校生だし…」


思いもよらない進路先にこっ恥ずかしくなって頬に熱が集まって行くのを感じた。
良い進路だと思ったのですが。と肩を少し落としたエステルを励ましているころに頼んでいた軽食が届いて、最早勉強どころではなく話は私の進路とお嫁さんについてで持ち切りのまま終わってしまった。


△△△


少しずつ陽が短くなって行くのをひしひしと感じる少し肌寒くなり始めた夕方
私とユーリ先輩はいつものように2人で帰路についていた
相変わらず話題は進路の話だ。
先輩は大学では商業系の学科に行くらしい、意外だなぁと思っていたらご両親の仕事を手伝うためらしい
案外先輩家族思いなんですね。とからかって見せるとまた小突かれる
小突かれてばっかだな…


「…そうだ、体育祭の時の話まだしてなかったな」
「あ、はい!先輩なんか周りキョロキョロ見てましたよね?」
「ああ、あんまり良い話じゃないんだけどな」
「ええぇ、聞かないのアリですか?」
「ナシだ」
「ですよねぇ」
「単刀直入に言うぞ。姫、学校でおっさんと2人っきりにならないようにしとけ。できればここら辺2人で歩くのもやめとけ」
「レイヴンとですか?言ってもそんなに2人きりになる状況ってありませんでしたけど…」

あったかなぁ?と私は首を傾げると、あっただろ。とユーリ先輩は肩を竦めた

「保健室」
「あぁ!確かに、この間はそうでしたね」
「俺らよりも先に保健室前に先客がいたんだよ」
「…ジュディス先生…ではなさそうですね…もしかして!?」
「そのもしかしてだ。アイツ盗み聞きしてたかもしれないぜ。」

血の気がスッと引いて行く気がした。
あの時聞かれたら一発アウトな会話はあっただろうか、思い返しても上手く頭が働かない

「大丈夫だ、その時の為の俺だろ?」
「先輩…」
「まあ、なんかあっ「こらこら、そこの学生2人ー不純異性交遊はおっさんが取り締まっちゃうわよ〜」
「レ、レイヴン!?」


ユーリ先輩がなにかを言っている途中でレイヴンの少し大きめの声がそれを覆いかぶした
私を宥めるためか頭に置いてあった先輩の手をレイヴンが軽く叩き落とすと、ユーリ先輩は苦笑いした。


「ま、そういうことだからな。とりあえず帰るわ」
「は、はい!」
「なになに、内緒話?」


違うわ!とユーリ先輩は返してそのまま帰って行ってしまった。
仕事を終えて帰って来たレイヴンとエレベーターに乗り込んで、私の部屋にそのまま直行するとレイヴンが口を開いた。


「青年となんの話?もしかしておっさん邪魔しちゃった?」
「そんなことないですよ!しんろ…そう、進路の相談にのってもらってたんです…」
「進路ねぇ〜そういえば姫まだ出してなかったわね。まあ、まだ時間あるし、なにかあったら俺も相談のるからいつでも言って」
「はい、そうしますね…」


確証のないアレクセイ先生の話はなんだかレイヴンには言えなかった。


▽▽▽



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