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*裸注意






体育祭一日目が終わった。
途中経過を見た所、案の定先輩たちのいる3年A組の得点が頭一つ抜けている。私たちのクラスは今の所トップ5以内と言うところかな…
湯船につかりながら、ふぅ…とため息が漏れた。
今日はなんだかヤケに疲れたなぁ…
ユーリ先輩は置いといて…アレクセイ先生の最後の言葉は一体なんだったんだろう。
湯船に口をつけてブクブクと泡を立てながら思い巡らせる。
やっぱりレイヴンと付き合ってるのを勘づかれているとかなのかなぁ…


「気をつけないとなぁ…」
「何を一体気をつけるの?」
「わっ!レイヴン!!」


独り言が漏れていた様で返事が返ってくるのに驚いた私は風呂場のドアの方を見ると腰にタオルを巻いたレイヴンが立っていた。
思わず両腕で胸を隠す素振りを見せると、ヘラりと笑う。
馴れたようにシャンプーを泡立てて小気味良いリズムで頭を洗い始める


「一緒に入るんですか!?」
「…なにを今更、もう入ってるようなもんでしょうが」
「お、お風呂狭いですし、私上がりますね!?」
「ちょっち待った!もう洗い終わるから」


明るいお風呂場でお互いに一糸纏わずの姿の状態はなんだか気恥ずかしい。
そう言えば最近レイヴンとイチャイチャしてないような…久しぶりに見た引き締まった胸板に思わずそう思ってしまった私は更に恥ずかしい気持ちになってしまって出来るならば早々に退散したいところだったけれど、待てと言われてしまえば少し嫌そうな顔をしながらも内心は少し嬉しいわけで
腰に巻いたタオルを取って浴槽へと入り込んで来たレイヴンを見ない様背中を向けると、おいで。と引っ張られて足の間にしまい込まれる。


「んで姫ちゃん、何を気をつけるの」
「その…アレクセイ先生が…尻尾を掴まれないよう気をつけろって最後に言ってまして」
「尻尾…?アイツなんか気が付いてそうだからなぁ」
「そんな暢気な…!」
「んなこと言ったって、どうしようもないし。気をつけるしかないでしょうよ」
「まぁ、そうですけど…」
「生きにくい世の中だわぁ…。そういえば姫ちゃんアレクセイになんかされなかった!?」


抱えられていたはずが、肩を掴まれて上半身をレイヴン側に向けさせられる。
湯船につかって少しだけ赤くなった頬と必死そうな顔はなんだかミスマッチだ
正直に抱えられそうになって、突き飛ばしたことを伝えるとなんだか面白くなさそうな顔をするレイヴン


「にゃろう!」
「ひゃ!?く、くすぐったいですっ!!」
「もーちょい!!」


急に身体を撫で回す様にされ、くすぐったさに思わず抵抗するとこれでもかと言わんばかりにレイヴンの手は私の身体を触る。
ふぅ!と一仕事終えた様に額を腕で拭う様な仕草をしてレイヴンは最後に私の首元に顔を埋めた。
チクリと痛みが走ってレイヴンの顔が離れて行った場所を見ると先ほどまではなかった紅い痕が一つ出来ていた。


「これって…」
「ん、マーキング?」
「あ、明日もあるのに…!」
「ギリギリ見えないでしょうよ、それよりも姫…」
「きょ、今日はダメっ!!!」


急に甘い雰囲気を作って来たレイヴンの胸を押して私はお風呂場から脱出した。
そこからもう暫くしてから少し落ち込んだレイヴンがお風呂場から出て来たのは、とりあえず見なかったことにしました。



△△△


翌朝、早起きなレイヴンに起されて2人で朝食を取り終えると私たちは別々に登校した。
体育祭二日目、いそいそと更衣室でジャージに着替えればなんとか昨夜の痕はTシャツで隠れた。
鏡で何度も確認して胸を撫で下ろしているとエステルに首がどうかしたんですか?と尋ねられて、思わず結んだポニーテールの下の部分が気になって…。なんて苦しい嘘を私はついた。(エステルは信じてくれた)
簡単に教室でHRを終えた私たちはいざ、出場種目のバレーをする為に体育館へ向かった。
去年同様マイコちゃんのしごきは語彙なんて吹き飛んでしまうぐらいに過酷だった。
バレーは夏休みのポロリ未遂を思い出してしまうので私はもうスライディングしないと心に堅く決めている。
とは言っても、私身長低いのでリベロ役なんですけどね!!
最初の対戦相手はなんと3年生だ。バレー経験者であるマイコちゃんが小学生のときから知っているバレーの上手い先輩がいるクラスだとか
何が何でも勝つ!!と意気込んでいるマイコちゃんに引っ張られて私とエステルはアップを始めた。
バシンバシンと体育館の床を跳ねるボールを見て私は冷や汗モノだ


「えっ…あんなの取るの?」
「姫!弱気になってはいけません!姫なら取れます!」
「何を根拠に言ってるのかな…エステリーゼさん…」
「私もフォローするから頑張ろう!!」
「やぁ〜青春だねぇ」
「先生!いらっしゃってたんですか?」
「そりゃぁ去年1年でベスト4まで行けた3人が揃ってるチームだったら応援にも来るでしょうよ」


パス回しをしていると何処からともなく背後に現れたレイヴンはさも当たり前かの様に私の頭の上に腕を置いて寄りかかって来た。
セクハラだー!と笑うマイコちゃんとは裏腹に、付き合っていることを知っているエステルは周りの視線に警戒しつつもなんだか少しだけ頬を赤らめていた。
朝まで一緒だったのに不意打ちにドキリとしながら、肘置きじゃありません!とペシッとレイヴンの腕を叩くと、大袈裟に残念そうな素振りを見せながら今年も頑張ったらおっさんがなんか奢ったげる。と笑いながらその場からいなくなって行った。


「そうと決まれば頑張ろう!」
「ジョジョ苑の焼き肉とか行けるんじゃ?」
「これは頑張るしか!死ぬ気で勝とう!」
「あはは…うん、そうだね…!」


おー!と今までにないくらいにチームの士気が高まったのは言うまでもなかった。
レイヴンのお財布が空になるのを想像しながら私もその中に混じる
アップをし終えて、審判役である現役バレー部が整列する様に誘導して来たので私たちはそれに習ってコートに整列した。
礼の合図を受けてチームのリーダー同士であるマイコちゃんとバレーの上手い先輩が握手を交わすと、もうその時点で火花が散っている様に見えた。
相手コートからのサーブをしっかりと受けてまずは私たちのチームの速攻
トーナメント初戦の体育祭とは思えないくらいの白熱具合にみるみるうちに観客が集まって来た。
なんとか1セット目を死守して、コートを交換して2セット目に移る
上手い具合に点数を加えてこちらが一歩優勢だった。
ふと上の方に目線をやるとブンブンと手を振って応援しているフレン先輩と、隣でじっとこっちを見ているユーリ先輩がいた
あ、先輩たち見に来てたんだ〜と、よそ見をしていた所為で強めのサーブが私目がけて飛んでくるのに反応が遅れてしまった。
なんとか打ち返すと弾みの所為で相手コートにチャンスボールとして山成りに飛んで行く
あ、マズい!と思った頃にはもう一度私の方目がけて少し高めのスパイクが飛んで来た。
明らかに顔面目がけて飛んで来ているそれに私は思わず目を瞑ってしまった

「姫っ危ない!」

ヤケに鮮明に聞こえた声はレイヴンのモノで、次の瞬間ボールが顔を掠めて思い切り肩に当たった。
ボールはそのままアウトコートして、床に転がっている。何故か私もボールと同じ目線だ
床が視界に近く写ることに一瞬理解が追いつかずにいると、すぐ目の前に体育館用のシューズが2足見えた

「姫ちゃん!」
「??」
「姫、大丈夫ですか?!」
「…あれ?私…?」

近づいて来たシューズはレイヴンとエステルの物だった。
そこで自分が衝撃で倒れたことを理解した
ボールが当たった所為か肩がジンジンとする。ゆっくりと身体を起こしてエステルの手を借りて立ち上がろうとすると、肩ではなく左の足首がツキリと鋭い痛みを発した

「! っ…」
「…マイコ、姫ちゃんチェンジ」
「えっ私大丈夫ですよ!」
「ダメ。担任命令」
「先生、姫のことお願いできますか…?」
「うん、大丈夫よ。みんなも気をつけて落ち着いたら試合再開して」
「…えぇ〜…」

私の気持とは裏腹にいつになく厳しい表情のレイヴンは私を軽々と抱えて、体育館から出て行く。
少し早歩きで終始無言のまま私はただ運ばれるがままだ
ほとんど人が出払っていて、人が歩いていない廊下をスタスタとレイヴンは歩いて保健室の扉をガラリと開ける
本来ならいるはずのジュディス先生が見当たらない。
ありゃ、いない。と独り言の様に零したレイヴンは私を椅子に下ろすとやっと目が合った。


「大丈夫なのに」
「そんな訳ないでしょうに、左足痛いんでしょ?」
「ちょっと挫いただけかもしれないじゃないですか」
「それでもダメ、早めに処置しないと癖になっちゃうし」


諭す様な言葉になんだか納得がいかなくて、頬を膨らませると氷嚢と湿布を手にレイヴンが近づいてくる。
椅子に座った私の前で膝を付いて、私に目線を合わせてくる


「なぁにむくれてるのよ」
「子供扱いされてるみたいで」
「姫ちゃん、あのねぇ…」


レイヴンの手が頭に近づいて来て、小突かれると思った私は抵抗もせずに目を瞑った
ギュッと堅く目を閉じて衝撃に備えようとすると、ふわりと頭に大きな手の平が乗せられてくしゃりと髪の毛を撫ぜられた
おずおずと目を開けるとすぐ近くに困った様な顔をしたレイヴンがいる


「心配、しちゃダメ?」
「そんなことは…」
「どこか他に痛い所は?頭打ってない?」
「肩が少し…頭は打ってないと思います?」
「そっか。大事なくてよかった」


近くにあったレイヴンの顔の強ばりが緩まる
肩を労る様に軽めに抱き寄せられて、すぐに身体は離れていった。
心配してくれたことに、なんだか嬉しさと少しの申し訳なさが心の中でじんわりと広がって、学校だというのに離れる身体が名残惜しく感じた
その後はテキパキとレイヴンは私の足に丁寧にテーピングまで巻いてくれて、馴れてますね。と笑うと部活で怪我する生徒の処置もするからねぇ。と困った様にレイヴンも笑ってくれた。
さっきまでの厳しい雰囲気はもうない
肩を出す様に言われて少しだけ襟元をずらすと、ボール型に薄ら赤い跡が昨夜の痕と並んでいた


「あらま、俺様の情熱がボールに負けたわね」
「なっ!」
「負けない様にもっと大きく…?」
「そんなことしなくていいですから!」


そんな冗談にケラケラと2人で笑うと、廊下の方からバタバタと複数の足音が聞こえて来た。
ノックもなしにガラッと空いたドアを見るとエステルやマイコちゃん、なんならフレン先輩もいる
勝ったよー!!怪我大丈夫!?と私が返答するよりも先にマイコちゃんがマシンガンの如く試合結果やらを言い続けている。
一挙に賑やかになった保健室で、内心危なかった…と思いながらレイヴンを見ると、思うことは同じだったようで苦笑いしていた。


「姫大丈夫だったか?」
「あ、ユーリ先輩!フレン先輩も応援してくれてたんですもんね!ありがとうございました」
「一瞬目合ったから、なんか悪かったな…」
「先輩は悪くないですよ!よそ見してた私が…」
「ま、怪我も大したことなくて、ポロリもしなかったんだから良かったな」
「ちょ!!!」


からかう様にポロリ事件を蒸し返して来たユーリ先輩はなんだか浮かない顔をしていた気がした。


▽▽


試合を終えて、姫のクラスのヤツらと保健室へ向かった。
保健室の扉の前に人影が見えて、俺は目を凝らすとそこにいたのはアレクセイだ
アレクセイにはお構いなしにバタバタと保健室に入って行くヤツらを見届けて俺はすぐ近くで立ち止まり話しかけた。


「おい、アンタ何してるんだ?」
「ふ、高瀬が倒れたと聞いてな。様子を見に来た」
「だったらなんで保健室に入らなかった?」
「どうやら室内は満員のようだ。また今度伺おう」


質問の返事になっていない返事と不適な笑みを零して姫に挨拶するでもなくアレクセイは踵を返して行った。
どうも心配している様には思えない。
以前姫もアレクセイを気にしていたし
嫌な予感しかしねぇ






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