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所々で冷やかし混じりの祝福を受けながらフラフラと私はクラスの待機場へと戻ると、私のげっそりとした顔を見てかマイコちゃんとエステルは同情する様に私の肩に手を置いて励ましてくれる
待機場所まで私を送り届けてくれたユーリ先輩は少し眉を下げながら、自分のクラスの方へと帰って行った。
別にユーリ先輩が悪い訳ではないのだけど、くじ運に関してはタチが悪い…
レイヴンにはさっき目を逸らされた気がしたし、隣にいたアレクセイ先生はやけにニコやかに笑っていた気がした
借り物競走のくじに関してはさすがのレイヴンも仕方ないと思うだろうし、これは私がレイヴンを引き当てて挽回するしかないのでは?
女子の借り物競走出場者は集まる様にとアナウンスが聞こえて、もはや開き直るしかない。と思い至った項垂れていた頭を思い切り起す
アナウンスを私に知らせようとしてか、マイコちゃんとエステルの顔が近くに合って私が急に顔を上げたモノだから2人とも驚いたように目を丸くさせて瞬いている。


「姫…?」
「大丈夫…?」
「私頑張る!!」
「大丈夫、みたいだね?」
「うん、変なの引かない様に頑張る!いってくるね」


2人に見送られながらハチマキを締め直して、出場口まで向かうとビシビシと女子からの視線を受けた。
元々付き合っている噂は前から校内では流れていたし、さっき起こった出来事も含めて過ぎたことなのでもう気にしない様にしよう。
男子の部が終わって今度は女子の番になった。クラスの女子は私を含めて4人。私以外はみんなじゃんけんで負けたりした子たちらしい。
お互いに変なの引かない様に頑張ろう…と励まし合いながら徐々に自分の番が近づいてくる
今の所女子の部ではまだ浮ついたお題が出て来ていない、自分が引いてしまう確率がどんどん高まる中で私の前の出走の人たちが次々にゴールしていく
体育委員にスタート位置について下さいと誘導されて、ゴールした人たちがどんなお題を引いたのかテンションの高い体育委員が実況しているのを聞いていると私の前の出走で"好きな人"と”彼氏”が出きったのがわかった
思わず、良し!とガッツポーズすると案外そのお題が出たのに安堵をしている人が多いようだった。
スターターピストルが音をたてて、6人が同時に地面を蹴って走り出した。
ほぼ横一列でお題の入っているボックスに到着して、私は意を決して箱の中に手を突っ込む
ガサガサとかき回しながら、一枚掴んでその紙をゆっくりと開く
下の方を見ると、先生というワードが見えた。
もしかして私は見事引き当てたんじゃ!?と少し高揚感を胸に最後まで開ききると、私は崖から突き落とされたかの様な気持ちになった

「えっ…」

兎にも角にも"先生"のいる元まで走らなければ…
テントの方へと一目散に走るとレイヴンと目が合った
待ってました!と言わんばかりに身を少しだけ乗り出してこちらを見ている。
あぁ、ごめんなさい…貴方じゃないんです…
よりにもよって…


「姫ちゃんもしや俺様!?」
「…あ、アレクセイ先生一緒に来て下さい…」
「私か。レイヴン、残念だったな」
「残念ってアンタねぇ…そーと来たら旦那、早く行ってやってよ」
「そうだな、高瀬行こうか」
「はい、よろしくお願いします」


私が引き当てたのは”学年主任の先生”である。
可もなく不可もなくなお題ではあるけれど、アレクセイ先生と走るのはなんだか気が引ける。
貼付けたような笑顔で私を見下ろすアレクセイ先生は身長差も相まって更に不気味だ。
不自然ではないくらいの距離感で走っていると先生が口を開いた。

「このままでは一着は取れなさそうだが、ユーリ・ローウェルのように抱えた方がいいか?」
「い、いえ…大丈夫です」
「私も身体を鍛えている方だし高瀬くらいなら持ち上げられると思うが」

隣にいる先生にフルフルと首を振るうとアレクセイ先生の身体がジリジリと近づいてきて、肩を抱かれて今にも抱きかかえられそうになった。
その瞬間、背筋に嫌な汗が伝う
微笑んでいるアレクセイ先生の目は笑っていない、この人に気を許しては行けないと頭で警報がなってそれと同時に私の腕が先生を突き飛ばした。
私よりも身体の大きい先生は半歩よろけただけで、目を丸くしていた。

「…あっ、すみません」
「…ふっ、少しからかいが過ぎたか。行こうか高瀬」
「はい…」

背中をトンと押されて私よりも先を走る先生を追いかける。
なんとかゴールまで辿り着いて、順位は3位。私が引いたお題はさして面白みがない所為か体育委員は淡々と紹介して私は一緒にスタートした子たちがゴールし終わるのを見届ける。
3位と書いてあるプラカードの前で私とアレクセイ先生は無言だ。
なんだか顔を見るのも怖くて俯いていると上の方からくぐもった声が振ってくる。


「そう気にするな。生徒の嫌がることをしたのは私の方だからな、すまなかったな」
「い、いえ…少し驚いてしまって思わず…」
「レイヴン先生であれば断らなかったかな?」
「!?」
「ユーリ・ローウェルもそうだが、君はレイヴン先生とも仲が良い様に思えてな」
「2年連続で担任の先生ですから、ね。」


そうか。と短い返事が返ってくる頃に丁度最後の子がゴールした。
アレクセイ先生にお礼を言って、そのままエステルたちの元へ戻ろうと退場口まで行こうとした所でポソリと先生の声が聞こえる

「尻尾を掴まれないよう気をつけるんだな」

どういう意味か聞こうか立ち止まりかけたけれど、私は聞こえないフリをした。
アレクセイ先生の考える”なにか”を肯定してしまう気がして振り返ってはいけない気がした。




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