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「「はぁ〜…」」
「2人とも同時にため息なんてどうしたんだい?」
「どーもーこーも…フレンはわかってるだろ?」
「エステルだってわかってるでしょ」
「呼び出しされたことじゃないのかい?」
「私もそうだと思ってますけれど…」
「「違う!!」」


学校が終わって今日もまた4人でファミレスにでも寄って帰ろうか。と話していたところだった。
道を並んで歩きながらため息を同時につくとフレン先輩とエステルはケロリと例の雑誌の件を口にしたけれど、それもまた私たちは同時に否定した。
ユーリ先輩、なんだかシンパシーを感じます


「姫…お前もしや…」
「先輩…またですか…?」
「一体2人ともどうしたって言うんだい!?」
「あ…もしかして、体育祭の…?」
「「はぁ〜…」」


確かに今回の体育祭の件は元はと言えばあの雑誌に掲載されて、呼び出しを喰らって…アレクセイ先生が不気味だった所為ではある。
2人の思い当たる節は間違ってはいない。
目当てのファミレスへと辿り着いて、一先ず案内された席につくとそこから本題に入った


「姫、お前今年もアレに出るのか」
「その感じだとユーリ先輩もですよね」
「だが、元はと言えばユーリは寝てたからだろう?」
「呼び出しのあとだったこともあって、姫もボーッとしてましたもんね…」
「もう絶対出ないと決めたのに…」
「自分の運に頼るしかないな…」


重たい雰囲気の私とユーリ先輩のことは触れないでおこうと目配せでもしたのかフレン先輩とエステルは自分たちが何に出るかを話し合っていた。
もう今更決まってしまったことだからどうしようもないのは分かっているけど、なんだか腑に落ちない。
学級委員許すまじ…とまた先輩とハモったのは言うまでもなかった。
そこから開き直るしかなくなった私たちは、他愛もない話でケラケラと笑いながら期間限定のパフェを頬張り終えて帰宅することにした。
いつも通りのユーリ先輩との帰り道
なんだか久しぶりな感じがしないのは、ついこの間映画を見た時にも一緒だったからだ。
あの時となんだか違うのは通りすがりの人の目線だ。
きっとあの雑誌を見た人なんだろうな、と視線に気が付かないフリをしながらユーリ先輩の隣を私は歩いた。


「…にしても、呼び出しといい体育祭といい今日俺達って厄日かなんかか?」
「私もそう思ってました…。…ちょっと気になることがあってボーッとしちゃったんですよね」
「気になること?」
「はい。その、アレクセイ先生がちょっと…」


ユーリ先輩が喉を鳴らした音が聞こえた
どういうことだ?と怪訝な表情で先輩は私の顔を覗き込んで来たので、あの時に指導室から出て来た時のことを話す。
生徒が雑誌に掲載されたことに渋い顔をしていた筈のアレクセイ先生は何故か気味悪く笑っていた。
何か面白いものを見たような顔をしていた気がする。


「…一応おっさんとの距離感には学校では気をつけといた方が良いかもな」
「…そう思いますか?」
「一応、な。おっさん、アレクセイが姫に触ってるの見た時あからさまに顔顰めてたからな。流石に付き合ってるとは思われなくてもお前がお気に入りなんじゃ?ぐらいは思ったんじゃないか?」
「そう、ですよね?流石に考えすぎちゃいました!」
「困ったらいつでも俺に言ってこい。乗りかかった船ってやつだしな」
「ありがとうございます。頼りにしてます」
「とりあえず、だ。後のフォローは任せたぞ?」


気が付けばマンションのすぐ近くまで辿り着いていて、ユーリ先輩は私を通り越した先を指差した。
指先を辿れば、車に寄りかかって私たちを傍観しているレイヴンがいて、目が合うと肩を竦めて見せる。
ゆっくりと歩いてくるレイヴンを立ち止まって待っているとユーリ先輩はじゃーな。と私の肩を軽く叩いてそのまま自宅の方へと歩いて行ってしまった。


「お疲れさまです、おかえりなさい!」
「…ん。ただいま。姫ちゃん、早いとこ家入っちゃおう、まだ明るいし」
「それもそうですね」


少しぎこちない様子のレイヴンは私に前を歩かせたまま、エレベーターに乗り込んだ。
お互いの家の前に立つと着替えてからそっちに行く。とレイヴンが口を開いてそのまま家の中へと消えて行った
私も家に入るなり制服を脱ぎ捨てていつレイヴンが来た時に飲み物を出せるよう準備をしていると、数十分もしないで玄関が開いた音が聞こえる。


「レイヴン、珈琲とお茶どっちがい…ふぁっ!?」
「……」
「えっ、ゴミでもついてましたか…!?」


私が台所にいるから手伝う為に足を運んでくれたのかと思いきや、振り返ろうとする矢先にレイヴンは私の腰回りを無言でペシペシと払ってきた。
妙に真剣な目つきと、眉間に若干寄る皺に私は困惑していると、今度は肩の辺りをペシペシと払う
一体そんな無心でこの人は何をしているんだ、と思っていれば今度は満足そうに笑う
感情の運びに検討が付かずに首を傾げると、レイヴンは目を瞬かせた。


「あぁ、ちっとばかし消毒を」
「消毒?汚れてましたか?」
「いや、旦那が触ってた所の消毒」
「…ぷっ…そんなので消毒できるんですか?」
「俺の気の持ち様かしらね?」


今度はギュッと抱きしめられて、胸板に顔を埋めると温かい体温が私を包み込んで行く
胸に顔をすり寄せて下から覗き込むとヘラりと笑うレイヴンはまたため息をついた。
なんだかよくわからないけど、感情が忙しいなぁ
一旦離れて居間の方へと飲み物を運んで隣に座ると、レイヴンは私をすかさず持ち上げて自分の膝の上に乗せてまた後ろから抱きしめられた。


「どうかしたんですか?」
「んー、姫が恋人なのを身を以て確かめてる…?」
「どうして疑問系なんですか…!」
「いやー、なんか雑誌に写真撮られたってのは聞いてたけど、まさかあそこまで大々的に載るなんておっさん思いも寄らなんだよ。校内歩いてれば生徒はほとんどその話してるし、アレクセイは姫に触るし」
「ふ、不可抗力ですよ…」
「ま、確かにそうか」


私を抱き込んだ状態でそのまま頭を肩に乗せてられた。レイヴンの頭を撫でる様に髪に触れば気持ち良さそうに頭を肩に擦り付けてくる。
大型犬に懐かれているような感覚に思わず笑いを零すと、少し不服そうにレイヴンが顔を上げた。


「なーに笑ってんのよ」
「だって…それってヤキモチ?ですよね」
「…そうとも言う」
「素直じゃないですねぇ。案外レイヴンってヤキモチ妬きですよね、ヒカルの時とかだって…」
「年下の彼女さんはどうもおモテになるようで、おっさんは困っているんですがね」
「それってユーリ先輩とかにもヤキモチ妬くってことですか?」
「…さっきから挑発的じゃないの!幼気なおっさんは姫ちゃんに困らされてるのに」
「ふふふ、でも私が好きなのはレイヴンだけですから」
「! …っとに物好きな子だこと」


顎を引かれて後ろから近づく顔に目を瞑って受け入れると、ちゅっと軽く唇が重なって離れていった。
目を開けると目の前で拗ねた様な照れた様な顔をしているレイヴンがいて思わず私は笑った。



▽▽


「そう言えば今年も借り物競走にしたのは狙って?」
「ち、がいますよぉ…ボーッとしてたらそうなっちゃいました」
「…今年も俺の白衣とか引ければいいわね」
「それだったらどれだけいいか…」
「それ以外だと俺様しょんぼりしちゃうかもね!」
「善処します…」





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