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「姫、エステル久しぶり〜ちょっと焼けたんじゃない?」
「そういうマイコさんこそ…その…こんがり焼けてますね…」
「ハワイは楽しかった?」
「そりゃあ、もう!」


はい、お土産〜!と謎の置物とマカダミアンナッツの大きな箱を手渡される。
そう、夏休みは満を持して終幕を迎えてしまったのだ。
来年は受験!遊ぶなら今のうち!とクラスメイトたちは意気込んでいたし、満喫したのが丸わかりのマイコちゃんにお礼を伝えて久しぶりに自分の席に着いた。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうのだから、まさに時間は有限だ。学生の期間なんてそれこそ人生の中で考えたら凄く限られた期間だなぁ、とボーッと考えながら明日から始まる授業が少し憂鬱に感じた。
教室にレイヴンが来ていつも通りの緩いホームルームを終えると今度は始業式
フレン先輩が生徒会の挨拶をしている間周りの女子たちはキャッキャッと騒いでいる。
あ、フレン先輩まだ日焼けの痕残ってる。夏休みボケがまだ抜けておらずに、壇上の先輩を見つめていると、斜め後ろ辺りからコソコソと話す声が聞こえる。


「あの先輩って、そうだよね?」
「それ思った!雑誌のヤツ!」
「高瀬先輩?だっけ。男の人もうちの学校の先輩でしょ?」
「ユーリ先輩でしょ!?いいなぁ〜順調にお付き合いしてるじゃん」
「でも、付き合ってないみたいなこと書いてなかった?」


ん?…私の名前とユーリ先輩の名前が聞こえたような…?
気のせいで済ませたい所だけれど、私たちは1組なので1年生と列が隣り合っている。
明らかに後ろの方から聞こえる声は私の方を目がけて飛んで来ている気しかしない。


「あ〜噂されてんねぇ。人気者たちは違うね」
「人気者って…なんでまたこんなことに?」
「姫知らないの?先輩と2人で映画デート帰りの友達以上恋人未満カップル♪って感じでデカデカと雑誌に載ってたけど?」
「えっ…隅の方とかじゃなくて?!」
「2ページに丸っと載ってたけど…」


それにしても事情は知ってるけど、姫ってば隅に置けない女ね。とからかう様にマイコちゃんは笑った
そんな顔私は見る余裕なんてなく、頭を抱えていれば気が付けば始業式を校長先生が締めている。
学校に来てからも感じた視線はその所為なのか、と今更答え合わせが終わって項垂れながら教室に戻ろうとすると突如後ろから肩を叩かれる。
振り向けばいつになく難しい顔をしているアレクセイ先生だ。
学年が上がってからアレクセイ先生が学年主任になったことを今更思い出して、どっと冷や汗が背中を伝う


「高瀬、少し一緒に来てもらおうか?」
「は、はい…」
「エステリーゼ、担任が戻るまでクラスの者には教室で少し待っている様に声をかけてくれ」
「わ、わかりました」


アレクセイ先生は私の首根っこを掴む様に肩に手を置いて私を誘導する
担任が戻るまで、ということはレイヴンも同じ場所にいると言うことなんだろうか
もしかしてバレてしまったのかと、心臓がバクバクと嫌に激しくなる。
入るんだ。と言われて顔を上げると生徒指導室と書かれていた。
万事休す…腹を括るしかないかもしれない。と息を飲んで扉を開けると生徒指導室のなかには、レイヴン。
と、ユーリ先輩更に先輩の担任のデューク先生がいる。
この感じだとさっき1年生が話していた雑誌の件だと思い至って私の表情から緊張が消えて思わず、へへっと変な声が漏れた。


「どうかしたのか?」
「い、いえ…1人だけ呼び出されたのかと思って…」
「何か呼び出される他の原因でもあるのか?」
「こ、心当たりは1つしかありません!」
「…そうか。では入ってもらおうか」


私の腰の辺りを押してアレクセイ先生も私のすぐ後に室内に入り静かに扉を閉めた。
扉を開けた時もそうだったけれど、アレクセイ先生が私の肩や腰に触っているのを見てレイヴンがたまに眉間に薄ら皺を寄せている。


「それで、呼び出しってなんなんだ?」
「貴公は心当たりがないようだな。高瀬説明してやれ」
「はい…あの。映画行ったじゃないですか…その後の…」
「あーアレか…」


察しのいいユーリ先輩は面倒くさそうに頭を掻く
見かねたアレクセイ先生は用意周到で、写真が掲載されているページにわざわざ付箋までつけて開いて見せてくれた。…どちらかと言えば見せられた
マイコちゃんの言う通りほぼ2ページにあの時撮られた写真が可愛らしいポップと一緒に飾られている。
下の方にも何組かのカップルの写真が載せられていたけれど、私たちの写真の横に書かれた文章ほど長ったらしくない
さすがのユーリ先輩も自分の写真や文章の量に引いている。私だってそうだ。言葉も出ない
説明してもらおうか。とアレクセイ先生は腕を組んで説明を求めて来た。
正直に、取材されてなかなか折れてくれない女の人に押し負けて何枚か写真を撮られて、名前くらいしか伝えていないと話すと深くため息をつかれる


「アレクセイの旦那、何も生徒の前でそこまでため息つかなくともよくない?」
「特に我が校では恋愛禁止などと言うことは謳っていなかったはずだが」
「だが、高瀬は学年トップ、ユーリに関しては今年受験が控えている。風紀の乱れを取り締まるのが教師だろう」
「俺らがいつ風紀乱したんだよ」
「それに、私たちは付き合っていません。雑誌に書かれていることはかなり誇張されていると思います…」
「ほらほら、2人もこう言ってるんだし…?」
「ユーリ・ローウェル、お前はモデルにでもなるつもりなのか?大学受験を蔑ろにするなよ。高瀬もそうだ。」


頭でっかちなアレクセイ先生は眉間を揉みながら、教室に戻る様に促した。
先生方も解放されるらしい。
さて、青年、姫ちゃん戻ろうか〜と声色は明るいレイヴンはアレクセイ先生が触ったであろう肩を払う様にしながら廊下に押し出してくれた。
指導室の扉を閉めようとした時に一瞬だけアレクセイ先生と目が合って、なんだか少し気味悪く笑われた気がした。


△△△


「ま、そういうことで。ちょい〜とアレクセイ先生ナーバスだからみんなも雑誌やらの取材関係は気をつけてよ〜」


私と一緒に教室に戻ったレイヴンは私をフォローする為なのか、面白可笑しくみんなを待たせた理由を話す。
クラスのみんなはユーリ先輩とどうこう、というよりはアレクセイ先生に目付けられるとか災難だったな。だなんて励ましてくれる。
教室の雰囲気に救われて、さっきまでの緊張の所為か学級委員の山田くんが教卓の前で話しているのは話半分だ。
体育祭でどれに出るか割り振りを決めているようだけど、私はそれどころじゃない。
アレクセイ先生のあの顔を恐かったなぁ…私も先輩も特に悪い事してないし…。
まあ、予想以上に謝礼の商品券が高額だったのはそういうことだったのか、なんてまた答え合わせだ


「おーい、姫一回も手挙げてないけど、残ってる競技でいいのか?」
「えっ!?嘘!」
「そんな嘘つかないわ!…って言っても余ってる競技、玉入れと借り物競走だけなんだけどな。」
「…はい?」
「今回は1人2つ以上だから、姫はこの2つよろしく!」


山田くん、そりゃないよ。
せめてもっと早くに教えてよ…
もう絶対に借り物競走はやらないと決めたのにまたしても私は借り物競走に出場が決まってしまった。

今日は絶対厄日だ!!!


▽▽▽



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