39

付き合ってすぐのクリスマス。
昨日は先生からのサプライズもあって、先生とやっとキスまでの関係にも至った。
家に帰ってから、先生は甘いものが苦手なはずなのに更にケーキを用意してくれていたみたいで家で小振りなケーキを頬張って少しだけ夜更かしなんかもした。
部活も出勤もない日だからか、家に帰るように促さないもんだから私はその日はずっと先生の家にいる事にして、明日は少し遠出でもしてみようか。なんて特に行く当ても決まっていないのに行きたい所をお互いに言い合った。

ところが。


「ありがとうございましたー…」
「姫ちゃん悪いね…母さんが風邪引いちゃって…」
「いえ…大丈夫ですよ〜…」


私はバイト先にいた。
ランチ営業で来ていた最後のお客さんを見送ると、普段ドリンカーをしている店長の息子の裕樹さんが慌ただしく厨房で夜用の仕込みと開いた皿の洗いをするべく動き回りながら私に謝罪の言葉を述べた。
元々クリスマスなんて忙しい時期2日間に渡って気を利かして店長は休みにしてくれていたのだ。
そんな優しい店長が風邪を引いてしまってはお店が回らない。
実際の所大丈夫か、と言われればそうでもない。お昼過ぎ頃出かける準備をゆっくり始めた時にバイト先から電話がかかって来た時点でシフトの確認を慌ててした。
確かに入っていなかったはずなのに休みの日に連絡が来るのはきっとただ事ではないのだろう。と恐る恐る電話に出て今の現状に至っている。
家から慌てて出る時に見た先生の顔は少し寂しそうな顔をしていた。
折角どこかに行けるかもしれなかったのになぁ…
それでも家族経営でやっているお店でパートさん達はいてもバー営業に切り替わってしまうと家族のいるパートさん達は家へと仕事を終えて帰ってしまう人が多い。
私しか頼めないとなってしまえばこの場所に私は足を運ぶ選択肢しか残されていなかった。


「ごめんね…今日何か予定とかあったよね!?彼氏とか…」
「ま、まあ…でも理解ある人なので…」
「そう…?この埋め合わせは必ずするから!ち、ちなみにさずっと気になってたんだけど…」
「はい?」


先程まではパートさんが他にもいたが夜の営業に切り替わる準備をしている間に帰宅してしまい、今は裕樹さんと2人きりだ。
せかせかとお互いに手を動かしながら器用に雑談をこなしていたが、裕樹さんの手の動きが止まるのが見えて私は裕樹さんの方へと視線を向けると目が合った。


「違ったらごめんなんだけど…姫ちゃんの彼氏さんって常連のレイヴンさん…?」
「…えぇ!」


思わず拭いていた皿を落としてしまいそうになってギリギリの所でキャッチするとクスクスと厨房の方で笑っている声が聞こえた。
どうやら裕樹さんに勘づかれてしまっていたらしい。こんな反応を更に見せてしまったものだからもう取り返しはつかないだろう。


「あ、やっぱり?大丈夫だよ、母さん達は気が付いてなかったし…俺も言いふらしたりしないよ」
「はあ…それだと助かります…」
「それにしても大変だよね…なかなか遊びになんていけないだろうし。今日だって…レイヴンさんにもなにかお詫びをしないとなぁ…」
「…多分今日もここに来ると思いますよ」
「それなら話が早いね!元々今日は21時には店を閉めるから2人にご馳走するよ!」


なんとも理解力のある裕樹さんに逆に私は頭が上がらない気がしたのは言うまでもなかった。



△△△


「レイヴンさん今日はごめんねー姫ちゃん借りちゃって」
「いーっていーって…仕方ないでしょーよって…なんで知ってるの?」


サーッと先生の顔から血の気が引いていくのをマジマジと見てしまった。
1週間でバレてしまうなんて前途多難じゃないか、と多分先生も思っている気がする。
あははーと笑う私の顔と裕樹さんの顔を交互に見ると先生は小さくため息をついた。
そして裕樹さんは私に言ったことをそのまま伝えて先生を安心させるように笑っていた。
まあバレちったらしょうがないよねぇ!とお酒の力も手伝ってか私の肩を少しだけ抱いてすぐ離した先生にドキリとしたけれども、もう既に店内には私たち3人しかいないのでそっと胸を撫で下ろした。


「ま、そういうことだから姫ちゃんのことよろしくね」
「わかってますって。レイヴンさんが来ない日もちゃんと虫除けしときますね!」
「む、虫除けって…」


ケラケラと2人が笑って、先生はエールを煽りながら裕樹さんが驕りだと言って出してくれた少し豪華なクリスマスメニューを頬張った。
エステルの家のご馳走とはまたちょっと雰囲気は違うけれども慣れ親しんだお店の味は疲れた体に滲みた。
1時間ほどゆっくりご飯を食べて、片付けはゆっくりやるから帰るように言ってくれた裕樹さんに甘えて私と先生はお店を出た。
店内が温かかったのもあって扉を出た瞬間に先生の体が小さく縮こまって暖をとる為にか自然と繋がれた手に顔を綻ばせると先生が照れ笑いをする。


「にしても寒いわーおっさん凍えちゃうよ」
「そしたら私が温めてあげます!」
「あら、可愛い事いってくれるじゃないの」
「あ、そうだった!レイヴンさん、ちょっと止まって下さい」


そう言って私が手をゆっくり離すと温もりを失った手がかじかまないように先生は口元に手をやって息を吹きかけていた。
ゴソゴソと手持ちのバッグとは別に持っていた紙袋からリボンがついた所謂クリスマスプレゼントを取り出して手渡した。
驚いたような顔をする先生はここで開けるの?と首を傾げていたけれど、私が黙ってソレを見つめているのを察して少し震えながらリボンを解いていった。
中から出て来たのは地厚のシンプルな黒いマフラーでワンポイント刺繍がされているものだ。寒がりなくせにマフラーをしない先生にぴったりだと思ったからだった。


「これって…」
「クリスマスプレゼントです、そんなに高いものじゃないけど…」


えい!と先生の手からマフラーを奪って少し背伸びをしながら先生の首に巻いていく。
されるがままになっている先生は目の前で必死にマフラーを巻く私の顔を目を細めながら見ていた。


「どうですか…?」
「ん、あったかい。ありがとね」
「私がいない所でレイヴンさんが凍っちゃったら大変ですからね!」


渡したかったものも渡せたし、先生の手を取り直して家路を進もうとするが引っ張っても先生の体は動かなくて、むしろ私の体が先生の方に引き込まれてしまった。
背中が先生の体にピタリとくっ付いていて一向に力が緩む気配がなく今度は私が先生にされるがままになっていると、肩に重みを感じた。
重みを感じた方を見れば先生の頭が私の肩の上に預けられていた。


「ずっと、大事にするよ。」
「…はい。」
「大事にする」


ぎゅっと抱きしめられて身体から熱が離れていくのを感じると、先生が私の手を取って前をズンズン歩き始めた。
マンションのエレベーターについても尚先生は無口で、後ろから先生の様子を伺っていると、マフラーの隙間から見えた耳が赤くなっているのが見えた。
聞こえないように少しだけ笑ったつもりが先生は私が笑った事に気が付いたみたいで、ゆっくりと私の方に照れ隠し出来てない顔だけ一瞬向けて家の鍵をすぐに開けて私を中に引き込んだ。


「ほんと、可愛い事されすぎるとおっさん我慢出来なくなるからやめて…」


玄関の扉に背中を押し付けられて、先生の顔が近づいてキスをされた。
屈んで届く位置にある先生の頭を抱き込もうとした時に触った耳は熱かった。



▽▽▽



39 / 86


←前へ  次へ→



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -