ユーリ先輩に送ってもらった時に、バレてしまった。
決してやましい事はないが、気まずさはある。
まあユーリ先輩は苦笑いしながらも、気をつけろよ。と言われて手を振って帰って行った。
気をつけろよって、何を!?って話ですがね。
さすがに節操ない人だとしても早々生徒に手を出すような人間ではないでしょう。いやそんなことしたら問題だ。免許剥奪よ。
それに私はあの人が苦手だから家は隣でも好んで近づこうとは思わない。


「さて、明日からバイトも始まる事だし林間学校の準備を済ませておかないと」


気持ちを切り替えてまだ荷解きも完全には終わっていない部屋で更に荷造りを始めた。



△△△



本日ハ晴天ナリ。
まだ5月だというのに今日の天気予報は夏日だそうだ。
目的地は江ノ島、海辺で晴れの日なんて絶好の林間学校日和だ。


「あつーい…こんなことなら水着持ってくるべきだったかな…」
「いや、さすがに5月の海は冷たいだろ。風邪引くぞ」


エステルとフレン先輩は、どこに行くかを二人で考えて来たらしく気合いを入れて2人は前で先導してくれている。
にしてもこの学校は全校生徒が行動しているというのになかなか自由だ。
クラス学年が違くても自由にグループを組んで散策していいそうで、もちろん団体行動する時はそれに従えばほとんど無法地帯である。
いいのか悪いのか…。まあ問題を起こす生徒も早々いないからこその先生と生徒の信頼関係の賜物なのかもしれない。


「…おい姫。その後おっさんからは何もされてないか?」
「なっ、ちょっと語弊が生まれますよ先輩!
別に私は先生には何もされてませんし。ほとんど接触もしてませんもん」
「まぁ、何もないならそれでいい」

肩をすくめるユーリ先輩がレイヴン先生とマンションが一緒の私を気遣うのはきっとなにか心当たりがあるからなのだろう。
あのおっさん生徒に勘づかれるくらい、やっぱり女ったらしなのね。


「ほら!姫、ユーリ置いて行きますよー!」
「あー待ってエステル」


話し込んでいる間に気がつけばエステル達はかなり先を歩いていたようで、置いて行かれないように2人で追いかけた。



△△△


いろんなところを散策して休憩する事にした私たちは、海沿いのカフェでジェラートを買って海を見ながら味わっていた。


「おいしいねー」
「そうですね!それにしても今日一日はあっという間でした!
明日には終わってしまうのがなんだか寂しいです…」
「まあ、江ノ島だったらそんなに遠くもないんだしまた来ればいいんじゃねーの?」
「ユーリいいこと言うね。僕も賛成だよ」
「本当に楽しかったなぁ…」


江ノ島には何度か来たことがある。
それはもちろん両親と遊びに来ていたのだけれど。
エステルとフレン先輩が計画してくれた散策コースはまさに思い出の地巡りのようで、苦しくなるかと思いきや、3人のおかげで楽しく過ごせた。
ずっと動いていればいいけど、こう休憩してしまうとふと考えてしまって胸が痛む。


「おやおや〜、青春だねー
Wデート中かしら!?」


少し感傷に浸りかけたところで、接触したくない人物からの久しぶりの接触である。


「あーもう!姫ちゃんはどうしてそんなにおっさんの顔見た瞬間に冷たい表情になるのよ!
おっさんにも笑ってちょーだいよ!」
「あんた今日ちゃんと生徒の見回りしてたのか?あんただけ全く見当たらなかったけど?」
「ぎくっ」
「レイヴン先生またですか…いい加減デューク先生に言いますよ?」
「うっ、それはやめて!!」


私が口を開く前にユーリ先輩とフレン先輩がレイヴン先生を攻撃し始める。
というかこの人サボってたのか…。


「そ、そんなことよりみんな何食べてるのよ?」
「見ればわかる通り、ジェラートですが…」
「姫ちゃんのだけなんだか見てくれがちがくなあい?」
「…私のはしらすジェラートですけど」
「へー!おっさん甘いもの苦手なんだけどそれならおっさんにも食べれるかしら?」


一口ちょーだい!と私の断りも聞かずにレイヴン先生は私の手を引いてジェラートにかじり付いた。


「なっ!!!」
「…あーうーーーん…やっぱちょっち甘いかしらね…普通のよりはまだイケるけど…うーん…」
「ひっ人のもの勝手に食べておいてなに言ってるんですか!!」
「姫ちゃん顔真っ赤よ〜かわいいー!」
「おっさんからかうのもいい加減にしとけ」
「そうです!姫をいじめないで下さい!!」


ああ、この男やはり油断ならない。さっきまで純粋に楽しんでいたのに一気に打ち壊しだ…。


△△△


1日目の催しが終わり、夕食までの間に少しの空き時間ができた。
ホテルの部屋はエステルと同じで、エステルははしゃぎつかれたのかベッドで仮眠を取っている。
窓の外はすぐ海岸で、夕日なんかもあってでとても幻想的な景色になっている。
私はフラッと外に出かけた。


「今日は楽しかったなぁ」


両親との思い出の詰まった江ノ島にくるのは少しためらいが合った。
みんなでいたからか辛くはなかったが、今は一人だ。
ああ、なんだか無性に泣きそう。
両親が亡くなってまだ1年も経っていないのだ。
今にも両親が出て来そうなそんな黄昏時だ。


「…あらちょっとおセンチ?」


振り返らずともわかる声だが、振り向いて姿を確認する。
今は何か言う気力もない。とても泣きそうなのだ。


「みんなは置いて来てよかったの?」
「…ちょっと一人になりたくて。」
「そう…」


先生は静かに隣に座った。
なんで隣に座ったのか言及したいが、もう涙はすぐそこまで来ている。
堪えるので精一杯だ。


「なにがあったとかはおっさん聞かないけど、そんなに泣きそうなら泣いちゃえばいいんじゃないの?」


そんな言葉と一緒に頭に大きな手がぽん、と落ちて来た。
決壊だ。


「…うっ…くっ…わたしに、かまわない、でくださっ…」
「生徒を放っておく先生がどこにいるのよ。
青年は多分気づいてたと思うけど、姫ちゃん今日ずっとなんか無理してそうな、辛そうな顔してたからね、おっさんちょいと心配してたんだわ」
「なんっ…」
「おっさん生徒大事にするわよ?」


その後はなにもお互いに言わなかった。
先生は黙って頭に手をおいて撫でてくれた。



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