あれから数週間、学校でもマンションでもなんとか接触せずに事を経ている。
私の嫌悪感が伝わったのか向こうからアクションをかけてくる事もなく平和に学園生活に順応していた。
心配していた学園での交友関係もクラスのみんなは暖かく、特にエステルとはほぼ毎日のように過ごしている。


以前入学式の時に在校生代表として挨拶していた金髪の爽やかな先輩は、エステルの幼馴染ともあって接触もあり頼れそうな先輩との関係もゲットした。
最初はどうなることかと思ったけれど、幸先が良い。
今日はフレン達とお茶に行きましょう。と誘ってくれるエステルに二つ返事で言葉を返す。


「やあ、姫。久しぶりだね。」
「フレン先輩、お久しぶりです」
「お、こいつが噂の編入して来た特待生か」


聞き馴染みのない声がフレン先輩の背後から聞こえた。
フレン先輩と同じくらいの身長で黒髪長髪の男がひょこっと現れた。


「ユーリ!一緒だったんですね!」


心なしかエステルが嬉しそうに現れた男の名を呼んだ。


「えーっと…?」
「ああ、姫すまないね。彼はユーリ。僕と同じクラスで僕の幼馴染なんだ」
「そういうこと、よろしくな」
「あ、はい。高瀬姫です!よろしくお願いします」
「自己紹介もすんだところで、さ!入りましょう!!」


エステルがにこにこ笑いながらカフェへと入って行く。
それを追いかけるように学校からそう離れていないカフェへと足を運んだ。


△△△


「そういえば、さっき噂の編入生って言ってましたけど、どういうことですか?」
「ほら、前にも言ったじゃないですか!編入してくる人っていないので珍しいんです!
「ましてや成績トップの特待生様。ときたら他の学年でも少しばかりは噂になるわけだ」
「な、なるほど…」


ユーリ先輩に出会い頭に言われたことが気になりパフェを頬張りながら話していた。
編入にプラスで特待生ともなると多少は噂の的になってしまうのか。静かに過ごしたいものである。


「あ、エステリーゼ様。口元にケーキが…」


ん??エステリーゼ様?様??


「フレン!外ではエステル、と!と何度言えばわかるんですか!」
「す、すみません。エステル…」
「様…?」
「なんだエステル、説明してなかったのか?姫が困ってるぞ」


元々、エステルとフレン先輩には何かありそうとは思っていたがまさかの家系的主従関係というなんとも現実離れした設定である。
そしてエステルのお屋敷で一緒に暮らしている。とまできた。
まだまだ謎が深い。


「フレン先輩がユーリ先輩と幼馴染ってことはエステルとユーリ先輩も?」
「いえ、それは違うんです」
「俺とフレンは地元が同じなんだけど、フレンは中学入るちょっと前からエステルの家に住むようになってな。
俺は中学入ってしばらくしてからエステルと知り合ったんだ」
「なるほど、そういうことでしたか」
「もう私の話はいいじゃないですか!私は姫の話も聞きたいのですが…」


なんだか少し恥ずかしそうにいうエステルとは裏腹に、私の話は特別面白い物ではないし、編入して来た理由や何から何まで両親が亡くなった事に話が繋がってしまう。
まだ知り合ってそこまで経っていないと言うのに、こんな重たい話をしてどうするのだ。と頭を抱えたくなった。


「あ、そう言えば週末林間学校あるよな」


私の空気が一瞬重くなったのを感じ取ったのかユーリ先輩は全く別の話題を振ってくれた。
ヴェスペリア学園は新学期が始まってすぐに在校生全員参加の1泊2日の林間学校がある。
なにやらイベント好きな学校らしくほぼ毎月のように行事がある。
中学の頃も林間学校って合った気がするけど全校生徒とかじゃなかった気がする。


「ああ、そうだね。今年は江ノ島だよね」
「まだ少し寒いし海には入れないだろうけど楽しみ」
「そうです!この4人で回りましょうよ!」
「いいね、一緒に回りましょう!」


しかたないな。と満更でもなさそうにユーリ先輩が肩をすくめた。
江ノ島か…と影で私も少し肩を落とした。


△△△


「別にユーリ先輩わざわざ送ってくれなくてもいいんですよ?」
「んなこと言ったって同じ方向なんだしいいだろ?」


まあ、そうなんだけど…と小さく呟きながら家路に向かい2人で歩く。
あの後も他愛もない話で4人で盛り上がり、エステルはバイオリンの習い事がある。という事で解散になった。
エステルとフレン先輩はもちろん家が同じなので別れたがどうやらユーリ先輩は私のマンションの割とすぐ近くに住んでいるようだ。
しかもエステルは”ユーリはちゃんと姫を送り届けてくださいね!!!”と強めに押していた。
特に送ってもらっても問題はないのだが、なにせそのマンションに問題がある。
あのレイヴンと隣同士で住んでいる訳であって、それはもちろんエステルにも言っていない。
ましてや今日知り合ったユーリ先輩には尚の事知らせたくないと思うのが本心だ。
まあまだ夕方だし、きっとあの不良教師はまだ学校にいるだろうしバッティングはしないだろう。


「お前たまに話してる間もなんかずっと考えてるときあるよな」
「え、そう見えますか…?」
「たまに心ここに在らずじゃないけど、雰囲気が重くなる時がある」


図星だ。うまく隠せていると思っていたのだが思い違いだったようだ。
なにせ今日知り合ったばかりの人物にバレてしまうのだから。


「俺は別に気にしないけど、もしも感づかれたときエステルは打ち明けないとうるさいぜ?」
「あーそうですよね…まあでも追々話せるようになったら話します!」
「ま、ならいいけどよ」


ユーリ先輩は観察眼に長けているようだ。
私の抱えた得体の知れない不安感を少し軽くするように、けれども気を使わせないようになのかぶっきらぼうに頭に手をぽん、と乗せて一度だけ撫でてくれた。


「ふふふ、ありがとうございます」
「…お前笑ってた方がいいぞ」


この人はこの人で、人たらしなのでは、と一瞬頭をよぎったが振り払って笑った。
ユーリ先輩にそうされるのはなぜだか嫌ではなかった。


「あ、ここで大丈夫です!」
「お前ここに住んでるのか?」
「はい、そうですけど」


少し苦笑いのユーリ先輩、?と首を傾げれば
私はユーリ先輩に絆されて一瞬忘れていたのだ。
このマンションは…


「ここおっさんも住んでるよな」


知り合って初日に先輩にバレました。
私はさっきと違う意味で笑うしかなかった。




▽▽▽



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