あれから何度ため息をついたかはわからない。
教室に戻って席に着けば、どうやら斜め前の席だったエステルは私がため息を吐く度に心配そうにこちらを見ていた。
でもこんな事なんて言えばいいのよ!?と私は心中穏やかではなかった。
原因は一つ。

先ほどの入学式での担任、授業担当の発表で事件は起こった。
そして私の心中など察せることなどないだろう、件の男は今まさに教卓でヘラりの笑いながら自己紹介をするのだ。


「はい、今日から一年間1年C組の担任の先生になりました。レイヴンです。
まぁ難しい事は考えないで気楽に楽しく過ごしていきましょう〜
なんかあったらおっさんにいつでも相談するよーに!」


不幸中の幸いなのか私は一番後ろの席だ。
近距離で対峙せずに済んだとは言え、教卓からはどちらかというと一番後ろの席の方が目につく物だ。
それを察しざるを得ないほどに隣人のレイヴンはガッツリ目を合わせてくるのだ。
頼むからそんなにこっちを見ないでほしい。


「まぁ今日は入学式とHRだけだから、みんな気をつけて帰るよーに!」


そんじゃぁHRおしまい!と一度手を叩き、教卓からレイヴンは離れる。


「姫!良かったら一緒に帰りませんか?
せっかくなので姫ともっとお話ししてみたいです。」
「もちろん、だいじょ「あ、そうだ!姫ちゃーん」


エステルと帰路につこうとした時に、今一番話しかけて欲しくない男が私に話しかけてくる。


「ちょいーと特待制度のことでおっさんお話ししたい事あるから時間もらってもいい?」
「…え、…はあ」
「なにもそんないやそうな顔しなくったっていいでしょーに!」
「別にそう言う訳では…」
「そう言うことなら私は今日先に帰ることにします!
姫明日お茶しに行きましょうね」
「あ、エステル…!」


まって!という言葉はエステルには届かなかったようだ
唯一この状況から脱却出来そうな手札が私の元から自力でいなくなる。
頼む置いて行かないで…


△△△


「それで、私にどういった御用でしょうか」
「そんなに嫌そうな顔しないで頂戴よ!おっさん悲しい!」
「特待生の話って私入学前に何度か校長先生ともお話ししましたし、他に必要事項や書類があるのであればお預かりしますけど?」


特待生の書類はすべて入学前に提出済みで、以前校長や他の先生にも”もう揃ったから大丈夫だよ”と言われていたのだ。
それにその話をするならば職員室でいいはずだ。
目の前にいる男はなぜか職員室や各教室からも少し離れた理科準備室へ私を誘導した。
そして今、この現状である。
冷たく硬い表情の女と、はははと笑っている男の対峙とは何ともミスマッチだ。


「いやーね、おっさんもびっくりしてるのよー!
昨日久しぶりに学校に来てみたら名簿に姫ちゃんの名前あるし。
てっきり大学生だと思ってたんだけどもね」
「私は先生の事をヒモ男だと思ってました」
「なっ!ひどーい!おっさん泣いちゃうよー?」
「事実を述べたまでです」
「それにしてもなんでさっきからそんなに他人行儀なの?
急に先生ってわかっちゃったから??おっさんと姫ちゃんの仲じゃない!」


ああ、頭が痛い。このおっさんはなぜこんなにも能天気なのだろうか。
まだ越して来たばかりだというのに、レイヴンが複数の女性と逢瀬を交わしているのを何度か目撃している。
こともあろうか、その人物が自分の先生なのだ。こんなサプライズは御免被りたい。
そして、まだ高校一年生になりたての私にはその情報は刺激が強すぎる。
更に言えば、私は女ったらしが嫌いである。


「…学校であまり馴れ馴れしくしないでください。それと同じマンションて言うのも他言無用です!」
「そんな固いこと言わずに仲良くしよーよ姫ちゃん…」
「私先生みたいなタイプ苦手です」


そう切り捨てて準備室を後にした。


「ははっ…これは相当警戒されちゃってるわね…」



▽▽▽



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