女子がときめく言葉とは


「おはよう三郎。一晩悩んで、お手紙書けた?」
「おはよう雷蔵!あぁ書けたさ!」
「なんて書いたの?」


「一緒のお墓に入ってくださいって…!」


「はいアウトー」
「あああああああああ雷蔵さん!?!??!?」

自分自身でも顔に熱が貯まっているのは解った。想い人にラブレターを書くなんて少し前までの私に想像なんてできただろうか。いや、できるわけがない。百均で買ってきたクローバー柄が可愛らしい便箋に、震える手で文字を綴った。これで何枚失敗したことだろう。ボールペンで一発書きで彼女に渡したいがために、汚い字になってしまったら捨て、誤字をしてしまったら捨てを繰り返していた。だがどうだ。せっかく失敗せず綺麗に書けたと言うのに、雷蔵ときたら私の手紙を見るや否や速攻で粉々に破り捨ててしまった。

「なんてことするんだ雷蔵!折角綺麗に書けたというのに!」

「八左ヱ門、良い精神病院とか知らない?」
「ごめん俺動物病院専門だから」
「この際動物病院でもいい」
「おい!!お前らいい加減にしろ!!人の恋心をなんだと思ってんだ!!」

散らばった手紙をちまちまと集める私のなんと愚かな様か。桜井さんに、桜井さんのために手紙を書いたというのに。一人の親友は手紙を破き、一人の親友は『動物病院 人間』で検索を始めた。そもそもこいつらに恋愛の相談なんかしたのが間違いだったんだろうか。恋なんてものは人に相談してどうこうなるような問題じゃないっていうのは私自身が良く解っている事だったというのに。

桜井さんへ手紙を渡す。それを考えるだけで、私は彼女になんという言葉を贈るべきなのか、なんと贈れば喜んでもらえるのか。そればかりが脳を支配してしまう。少女漫画にあるような在り来たりな言葉じゃ、きっと彼女は振り向いてくれないだろう。だからこそ必死で言葉を選んで文字を綴ったと言うのに…。

「三郎、今一度君に聞くが、桜井さんと君は付き合っているのかい?」
「何をつまらない事を聞く雷蔵。付き合っているわけないだろう?」
「そう、君はこの間僕に桜井さんに一目惚れしたと言ったね」
「あぁ言ったさ」


「君は桜井さんに惚れたばっかり。付き合ってもいない。喋ってもいない。それなのに交際を吹っ飛ばし結婚をすっ飛ばし、あろうことか一緒に墓に入ろうなんて誘う馬鹿が何処にいるんだ?」


雷蔵の言葉に再び顔に猛烈な熱が集まったのがわかる。わ、私と桜井さんが交際…!?結婚…!?そんな先のことを考えるだなんて少し早すぎるんじゃないのか!?

「ちょ、雷蔵!け、結婚とか交際とか…!ま、まだ気が早いだろ…!」
「付き合う前から墓はいる事を前提にしてる馬鹿が言う台詞じゃねぇだろ!!」

ふざけんなとケータイを投げつけてくる八左ヱ門などシカトだ。貴様のケータイはそのまま地に落ちるのが末路よ。しかし私が一体何を間違ったことを言っていると言うんだ。愛するがゆえに先の事を見据えるのは当たり前だろう。例えそれが数々の順序を飛ばしたとしても、目的を見失わないためにも最終目的を定めておくのは大事な事だ。私は桜井さんが好き。つまり桜井さんと同じ墓に入りたい。何もおかしい事など無いだろう。その間の過程がちょっとテレるだけであって。

「兎に角!そんな文章の手紙送ったら間違いなくストーカーだと思われるから!」
「そうだぞ三郎。もう少し文体柔らかく、女子がときめくような言葉にしとけ」
「女子がときめくような言葉、か…」

「そうだなぁ、まずは落ち着いて告白からだろ」
「それだよ。好きですとか、付き合って下さいとかにするべきだよ」
「ずっと前から好きでした!なんて、少女マンガとかじゃ良く出る台詞なんじゃねえの?」

少女漫画の様な、心ときめく台詞とは一体なんだ。彼女の心動かす言葉とはなんだ。一体どうした鉢屋三郎。お前は尾浜勘右衛門と並ぶ百戦錬磨の恋愛マスターであり女泣かせと言われた男じゃないか。生徒会長代理の肩書もあるこの私に一人の女の心を動かすこともできないなんで言うんじゃないだろうな。否、そんなことがあってたまるか。この恋心を伝えるにはまだ早い。せめて、せめて私という存在を桜井さんの心のどこかにおいて貰いたいだけだ。今はそれだけ。それだけで、十分すぎるほどだ。

そして私は再びペンを握って便箋にそれを滑らせた。

「書けた…!」
「どれ見せて?」
「ダ、ダメ!今度は雷蔵にも見せないぞ!検閲はいらん!」

「お、言うねえ三郎」
「まぁ此処まで言うなら三郎も本気だろ」

まだ桜井さんの席に鞄はない。ということは、まだギリギリ学校には来ていないという事だ。やらんとしていることが解ったのか、まだ間に合うぞと八左ヱ門に背中を押されて私は下駄箱に走った。桜井さんの下駄箱の場所を間違えるわけがない。蓋をあけて手紙を入れて、私は物陰に隠れた。興味本位でついてきた雷蔵と八左ヱ門も私の背中に隠れて桜井さんが登校するのを待った。

すると雷蔵がきたきた!と興奮した様に私の背中を叩いた。見えた、彼女だ。別のクラスの友人と一緒に登校してきたのか、下駄箱で別れて今は一人。欠伸をしながら靴を拾って下駄箱のふたを開けた。そして、表情は一変した。靴を入れてから、上履きの上に置いてあった紙を手に取り、彼女は大きく目を見開いて、キョロキョロと周りをうかがい始めた。

「ちょ、桜井さん可愛い!絶対あれ書いた本人探してる!クソ!まじ可愛い!!」

桜井さんのあんな表情見たことない!!めっちゃ可愛い!!なにあのキョロキョロした感じは!!堪らん!動画で収めておきたいレベル!!


「…あのね八左ヱ門、僕には桜井さんが恐怖に怯えているようにしか見えないんだよ」
「奇遇だな雷蔵俺もだよ。三郎、一応聞くが、お前手紙になんて書いたんだ?」



「そりゃぁもちろん、『貴女をいつも見守っています』って…!!」



熱を帯びた頬を押さえてそう答えると、


「お前いい加減にしろよ!」


雷蔵さんが私の頬を思いっきり平手打ちした。

なぜ今私は怒られたのか。心の内でそう問いかけるが、知らんがなとでも言うかのように授業開始のHRが鳴り響いた。



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まさかリレー企画に誘っていただけるとは思っていなかった伊呂波ですうわぁーっ!!
喜んで参加させていただきますとももちろんじゃぁないですか!!

それととともにこんなクソ文で大丈夫かどうか緊張して夜しか眠れませんんん

好き放題やり始めるかもしれませんが何卒よろしくお願いいたしますキェエエエエ!!!!

伊呂波

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