1日10個限定のプリン


「仙蔵!頼みがある!」
「なんだ、手土産なんか持ってきて。嵐でも呼ぶつもりか」

暴君とさえ恐れられる七松小平太が、私のクラスに来たかと思いきや、あろうことか床に正座をして購買のプリンを2つ持って来た。周りの人間は目を疑うような顔をしているが、私はこの光景を見飽きていると言ってもいいぐらいだ。宿題が終わらない時、補習課題が終わらない時、夏休みの宿題が終わらない時、冬休みの宿題が終わらなかった時。全ては長次の監督不足だとは思うが、あ奴もこの犬を持て余しているのだろう。最近は放任主義になりつつあると私自身も感じて来ている。しかし今回は手土産付きの願い事ときたもんだ。みたところ勉強道具を持って来たというわけでもなさそうに見受けられる。ということは、珍しく勉強以外の頼みごとか。

「勉強か?」
「違う!私の後輩を助けてくれ!」

プリンを投げつけ机に叩きつけてきたのは、一枚の脅迫文。

「…これが一体どういう何なのか沢山説明しろ」
「仙蔵にしては言葉がおかしいな。ちょっと聞いてくれるか?」

今は昼休み。五限が始まるまではまだまだ時間がある。致し方あるまいと隣の文次郎の椅子を引っ張りそこに座らせると、小平太は例の「彼女」の事を話し始めた。実はちゃんとした彼女ではなく、用心棒として一緒にいるのだという事に驚いたが、その彼女がストーカー被害にあっているからさらに驚きだ。確かにあの桜井というヤツは可愛らしいとは思った。だが小平太のタイプの女ではないと思っていたのだ。思っていて正解だったらしい。あいつが雑誌をみて可愛いと言ってるモデルとは真逆のイメージだったからだ。伊作の委員会の後輩であり、伊作からボディーガードを頼まれ、手っ取り早くストーカーとの壁を作るために仮ではあるが「彼氏」という噂を流し、桜井に近寄らせないようにした、と。なるほど、駄犬にしては頭の回転はいい方向へいっているな。

「それで、私にどうしろと?」
「筆跡鑑定してくれないか?ケーサツみたいに」
「…お前私をなんだと思っているんだ」
「ケーシソーカンの息子。で、生徒会長で、私のだーいじな親友だ!」

ニカッと笑ったその笑顔に思わず私もふっと鼻で笑ってしまった。犬とはいえ親友。信頼されているのならば、応えねばなるまい。

「はは、解った。他ならぬお前の頼みだ。引き受けてやろう」
「あ、ありがとう仙蔵〜〜〜〜!!」
「じゃぁ私は早速手がかりを探そう。五限までは時間がある。お前は桜井の側にでもいてやれ」
「わかった!!」

本当の犬のように抱き着く小平太を引きはがし、私は受け取ったプリンを持ち小平太の頼み通りこの手紙の主を探すことにした。しかし筆跡鑑定をしてほしいとは中々面倒な事を頼んでくれたもんだ。しかし私は昼休みに可愛い後輩の勉強を見てやる約束をしていたので、それの断りを伝える為に、喜八郎を尋ねることにし、1年の階へ向かった。教室の戸に手をかけ中を覗いてみたが、その姿はなかった。その代りに「立花先輩!」と名を呼び駆け寄ってきたのは滝夜叉丸だった。

「滝夜叉丸。喜八郎はどこだ」
「そ、それが、あいつは今日休みで…」
「何?」

「今朝浦風から電話があって、聞いたのですが…昨夜喜八郎が通り魔にあったらしく」
「…なんだと?」

小声で話す滝夜叉丸に、少々こちらへと廊下へ連れ出され、詳しく話を聞かされた。喜八郎が通り魔に襲われた。そんな物騒な事が起こっているとは全く知らなかった。昨日の放課後、喜八郎に自転車を貸した藤内が喜八郎を探しに外へ出たとき、浦風神社からそう遠くない場所で倒れている喜八郎を見つけたらしい。頭から血を流している喜八郎を見て藤内はすぐさま救急車を呼び付き添ったが、命に別状はないと言われたのだという。喜八郎の両親は共働きで海外によく出るらしく、喜八郎ほぼ一人ぐらい状態。藤内一人で喜八郎の両親へ連絡や病院の手続きをしてくれたらしく、その疲労と事件のショックで今日は藤内も中等部で欠席扱いとされているらしい。学校へなんと連絡していいかも解らなかったので、とりあえずとクラスメイトの滝夜叉丸に連絡をし、滝夜叉丸が担任に上手い事ごまかし欠席としてもらったらしい。

「この事実を知っているのは、私と藤内、立花先輩と、念のため学園長先生にお伝えしておきました」
「…なるほどな」
「学園一、二を争う美しさをしている、他ならぬ私と立花先輩です。喜八郎の先輩でもありますし念のため、ご報告を…」
「……そうか。すまないな」

滝夜叉丸の肩を叩いて、私は別の方向へ歩き始めた。

伊作の後輩で小平太の彼女がストーカー被害に苦しんでいる。そしてその真っ只中で喜八郎が通り魔に襲われた。喜八郎は偶然にも、桜井と仲が良かったはずだ。今度パフェを食べに行くと嬉しそうに話してくれていたのはつい先日の事。…これは偶然か、それとも何処かに繋がりのある事件か。なんにせよ、私が生徒会会長。この学園生徒のトップだ。後輩たちの平和を脅かされている今、黙って見過ごすわけにはいかない。私は図書室の戸をあけ、貸出カウンターの中に入った。

「長次、頼みがある」
「……なんでも言え」

「全校生徒の名前が書かれた図書の貸出カードを全て見せてくれ」
「…?…何故…」
「それと、お前にも手を貸してほしい」

ポケットに入れていた脅迫文とプリンを差出し、

「貸出カードに記載された文字と、この脅迫文の文字。全校生徒と比べてほしい」
「…お安い御用だ」

それで全てを察したのか、交渉は成立した。









そしてその後、私は、二年の教室へ足を運んだ。



「鉢屋三郎、いるか」
「立花先輩」

「放課後、少し面を貸してほしい」



私の微笑みに、向こうも胡散臭い笑顔を張り付けるのであった。




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える しっているか
ちょうじは まかろんが にがて


伊呂波

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