聞きたい言葉は


「さて、鉢屋三郎話を聞かせてもらおうか」

シン、と静かな生徒会室。目の前には我々生徒達の長たる立花仙蔵先輩。背後の出入り口には仁王のごとく腕組みをした犬猿こと潮江文次郎先輩と食満留三郎先輩。どうやらどうあっても私を此処から逃がすつもりはないらしい。私は腹の底から沸き上がってくる怒りを何とか抑えながら、立花先輩を見据える。こんな事をしている内に小波さんが七松先輩の毒牙にかかっているかもしれないのだ。一体用事はなんだ。


「…そう苛立つな。

お前最近同じクラスの桜井小波に手紙を出してないか?」

「手紙?」

言いながら立花先輩が懐から取り出したのは二枚の紙。それを私の目の前に突きだすと小さくため息をついた。いつ見ても美しい端正な顔が僅かに歪む。その鋭い視線はまるで獲物を捕らえる蛇の如きである。

しかし何故私が彼女に出した恋文を先輩達が持っているというのだ。まさか七松先輩だけでなく他の先輩方もグルなのか。小波さんを苦しめているのは、ここにいる、全員なのか。



「一枚目、これは伊作から預かったものだ。二枚目は昼に小平太から預かったもの。ヤツに頼まれて筆跡鑑定をかけてみた。」
「…つまり、何が仰りたいのですか」


吐き捨てるように呟いた私の言葉に背後の二人が俄に殺気立つ。ああ、一体何なんだ。この人たちは一体何がしたいんだ。まさか私がストーカーだとでも言いたいのか。濡れ衣を被せようだなんて、どこまで卑劣な人たちなのだろう!怒りに任せて立ち上がると、あっという間に先輩二人に抑え込まれソファに逆戻り。流石に二人の力には敵わない。


「一枚目は確かに鉢屋…お前の筆跡で間違いないが問題は二枚目だ」



立花先輩が細い指を伸ばし、二つ折りにされた紙を捲る。私もそれを追うように机に視線を落とし、気が付いた。乱暴に殴り書きされたそれ。




しかし、違う。




「この手紙の筆跡だけは学園の生徒の誰にも該当しなかった。」





「しかし、変装名人と呼ばれる鉢屋三郎。確か筆跡を変える事も可能だったな…この手紙も、お前が出したのか?」





『七松小平太なんかと付き合っていると聞いて君が脅されてるのではないかとひどく心配していたのに、他の男とも二人きりで会うなんて一体どういうことなんだ。そんなに僕の愛を試したいのかい?』





「これは、私じゃない
…私が彼女を怖がらせるような文章を書く筈がない!どうして私がこんな事を書くと思ったのですか?!」




驚いたようにそれは、と言いかけた立花先輩。その瞬間背後の扉がバタンと乱暴に勢いよく開かれた。何とも言えない雰囲気の部屋に飛び込んできたのは善法寺伊作先輩。


「仙蔵!うちの病院に入院している綾部に会ってきたよ!彼から通り魔の話を聞けたんだ!」
「っ…伊作、喜八郎は、」
「来週には登校できるだろうってさ、それより」



通り魔?綾部?
次々と聞こえる不穏な単語に、ざわりと胸騒ぎがした。綾部が、どうしたって?




『確かに鉢屋先輩は頭がおかしいですけど、あの人じゃないと思いますよ』




汗が一筋、背中を伝った。



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そういや本編に食満さん一度も出てきてないと思って出してみたけど一度も喋らなかったので反省してます。

海苔千代

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