誰かこの気持ちの意味を


「小波!一体これはどういう事だい?!」

「伊作先輩お顔が近い!!!」

本日は朝早くに七松先輩が「一緒に学校に行こう!」と自転車で迎えに来てくれたので僭越ながら青春の代名詞二人乗りで登校した私だが、教室に着くなり我が保健委員会の委員長である善法伊作先輩が血相を変えて飛び込んできた。何時もは朗らかで優しい人なのに今日は些か声も大きめだ。そんなに端正な顔を近付けられると困る。ていうか照れる。

両肩を掴まれガクガクとされるがままに揺らされていたら「コラ、いさっくん私の彼女に何してるんだ」と背後に居たらしい七松先輩が情け容赦ないチョップをお見舞いしてくれた。

「なはは、また会ったな」
「な、七松先輩」
「そうじゃないだろ小波」
「うぐ…っ…こ、こへ、っこ、小平太」

「あぁー!!!もう!それだよそれ!!!!!!」

暫く痛みで沈黙していたらしい伊作先輩が再び声を上げた。今度は七松先輩の肩を掴んで揺らしている。その鬼気迫ったような姿は伊作先輩朝から元気ですね、と声をかける事すら躊躇ってしまうくらいだ。どうやら私が七松先輩と付き合っているという事について言及したいようだ。ふわふわな栗色の髪の毛がまるで猫のように逆立っている。ように見える。

「小平太!僕はね!確かに小波に協力して欲しいとお願いしたけれどそれは手を出して良いという意味ではないよ!!」
「い、伊作先輩…!落ち着いてください!」
「落ち着いてなんか居られないよ!只でさえ僕の可愛い後輩がストーカーの被害に合っててこんなにも心を痛めているのに!まさか小平太の毒牙に掛かるなんて思ってもみなかったよ!!!後輩の大切な貞操一つ守れないなんて僕は最低な先輩だ!」
「はははは、いさっくんそれ以上言うと流石の私も怒るぞ」
「えっ?!小波の貞操無事なの?小平太なのに?!?!」

今までに類を見ないくらいに取り乱す伊作先輩に正直ドン引きしてる。どうして私にストーカーが居ると発覚した以上に憤慨してるんだろう。ていうか自分の友人に対してよくそこまで言えるなぁ。
ていうか今あの先輩貞操って言った?
私の彼氏(仮)に首ねじ切られろ。

それよりどうやってこの事態を収めようと思案していると、ふいに背後から軽やかな声が聞こえた。

「見ろ文次郎、これが小平太の彼女だそうだ」
「仙蔵お前失礼にも程があるぞ」

振り替えると其処にはあの言わずとしれた完璧超人立花仙蔵先輩と地獄の会計委員長という恐ろしいキャッチコピーで学園に君臨する潮江文次郎先輩。何だか立花先輩にジッと見られているが七松先輩の彼女がそんなに珍しいのだろうか。あの人なら今までに何人も彼女という存在が居たと思うんだけど…。
思わず首を傾げると私の気持ちを察したらしい立花先輩があぁ、と薄く綺麗な唇を開いた。

「小平太は今まで女に不自由した事ないが自分から率先して告白する、というのが初めてでな。奴が惚れた女がどんなものかと見に来たのだ」

「なっ…」

上手く声が出なかった。惚れた女だなんてそんな。立花先輩の言葉に目眩がする。私が思ってたよりも大変な事になってるじゃないですかー!!!やだー!!
これで「七松小平太が初めて惚れた女」として名を馳せたらどうしてくれるんだ!!!!あ、でもそんなキャッチコピーついたらストーカーも尻尾を巻いて逃げるかもしれない!!!いやでも待って、別に七松先輩と本当に付き合ってる訳じゃないんだからこの事件が解決したら当然別れる体を取る訳で…そしたら私は確実に「七松先輩を振った女」と認識される。されてしまう。されない訳がない。

…これは色んな人を敵に回しそうだ。
私は死んだ。すいーつ(笑)

「と、とにかく!先輩方!クラスメイトに激しく注目されているので!!早く教室に帰ってください!!!!!そしてななっ…小平太は伊作先輩を引き取ってください!」
「ああ、ではまたな!放課後は一緒に帰ろう!」
「とりあえず小平太があまりにも激しかったら私に言え。指導してやる。」
「仙ちゃんのそれ痛いから嫌だ!」
「小波!貞操は渡しちゃダメだよ!」
「バカタレ!お前ら朝からなんちゅうこと言ってやがる!!!!」


とりあえずゴチャゴチャ考えるのは後回しだ。今はストーカー対策の事だけを考えよう。手を振る七松先輩達を見送るとそれと入れ替わりで隣のクラスの尾浜くんが教室に入ってきた。とても社交的な人でこれまで何度も話した事がある。尾浜くんはキョロキョロと辺りを見回すと「小波さんおはよ、三郎いるー?」と微笑みかけてくれた。

「おはよう、鉢屋くんまだ来てないみたいだよ」
「あんにゃろ、体調でも崩したのかな」
「どうかしたの?」
「いや昨日ミラノ風ドリア処理させるためにファミレスに呼んだのに結局すっぽかされてさぁ」

なんと。鉢屋くんは約束を破る様な人ではないと思うからきっと体調でも崩したのだろう。それに何時もなら登校してる時間だ…。この前鉢屋くんにはたくさん迷惑を掛けてしまったので謝罪とお礼を改めて言おうと思っていたのに…。あと、七松先輩先輩が味方についたからもう私なんかに構う必要は無くなったんだよ、という事を。

(でも…)

私は今心のどこかで安堵した。
鉢屋くんに「七松先輩と付き合い始めたからもう私に構わなくて良いんだよ」と報告しなくて済んだ事に。



その理由は、私には分からない。



何故か胸の奥が僅かにチクリと痛んだ。



――――――
三木「なんか二年生の教室が朝から騒がしかった」
綾部「おやまぁ」
タカ丸「善法寺くんがハッスルしてたなぁ」
滝「喜八郎…お前何か知ってるのか?」
綾部「僕はただ立花先輩に話しただけだよ」
滝「あぁ…(察し)」

海苔千代



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