はじめましてスイーツ

 ところでさァ、メタい話になるんだけど、手配書の話のとき、時間の進み方速くね? って思わなかった??
 誰よりも、俺が!! 思ってるから!!!

 いや〜、時間の進みがマジ速ぇわ。学生から社会人になったときも思ったんだけど、海賊になってからも実感するとは。
 最初のうちはね、入団三日目にして襲撃かよ〜、いやでもクラッカーに強かったっていって貰えたし、カスタードとエンゼルと話せたし、結果オーライだなァって思ってた。
 でも、それから二日もしないうちにまた襲撃があって。それが終わったら今度は五日後に襲撃。その後はその翌日に襲撃。
 もう本当、襲撃、襲撃、襲撃、襲撃、襲撃……襲撃多すぎだろふざけんなよ!!!
 そりゃ海賊だけじゃなくてたまに海軍や賞金稼ぎも挟んでたけど!! それがなんかの慰めになるか!! 飽きがこないように海軍や賞金首挟んどきますね〜的な気遣いなんぞいらねェわ!!!
 忙しいし、何より子どもの教育に悪いよ〜〜!! 襲撃のたびに船の一室でちっちゃくなってるカスタードやエンゼルがかわいそうだし、気を張って弟妹を守ってるクラッカーがいじらしいしで!!
 お父さんも頑張ってるけど!! でもビッグマムの戦闘員として、ちょっとばかり顔が売れてからは名指しでケンカ売られることも多くて!!! 船内にいるより敵船で迎撃してることのほうが多かったんだよ!!!
 それでもクラッカーを気遣いながら迎撃したりしてたら、軽〜く半年過ぎてった。これが現実。
 まあ悪いことばっかじゃなかったよ? 度重なる襲撃で、出来る限り子ども達を優先して守ってたおかげで、手配書出る頃にはあんなふうに気安く話が出来るくらい、仲良くなってたわけだし。
 俺がケガしたらさ〜、カスタードやエンゼルも気遣ってくれてさ〜! もちろんクラッカーも〜!! たいした傷じゃなかったんだけど〜〜〜!! うれしい〜〜!!! 俺の子ども達が可愛くてお父さん頑張れる〜〜!!
 で。
 そんな感じにいっぱい働いてた俺に、ご褒美が与えられることが決定したらしい。
 個室くれるんだってさ。……個室??
 前にママが俺を隔離できる部屋用意しろっていってたけど、今まで普通に集合部屋だったから、それが個室になるのはまあわかる。
 今いる役職持ちは全員個室持ちだから、使い勝手の良い戦闘員の俺を優遇してくれるらしいのもわかる。
 襲撃のときいっぱい活躍したから、まあまあ認めてやらんこともない。ただ入団してまだ半年だし、実力があるとはいえ、まだ信用出来ない部分もあるし、あれこれごにょごにょ……で、役職を与えることは出来ない。だけど優遇して個室を与えてやる、と。まあ、もろもろわかるけども。
 ほー…………え? で?? 個室?? は???  なんで個室??? ご褒美って普通、宝とかじゃないの?? いや欲しいわけじゃないんだけども。
 と、不思議がったのは俺だけで、周りは良かったなって感じだったので、とりあえずありがたく受け取ることにした。多分、俺だけがよく理解できてないやつだこれ。手配書のときと同じやつ。
 しかし個室か。一人の時間とか久しぶりだな。海兵時代は『俺』の経験したことだったから、俺には集団生活より個人生活のほうが馴染みがある。賞金稼ぎやってたときも、基本的には陸上で生活してて一人だったし。誰かと一緒の生活なんて、金稼ぎしたいときにだけ乗ってた船以外でしたことなかった。
 そう考えると、よく半年も集団生活出来てたな俺。兄弟姉妹の多いクラッカー達には、一人のほうが馴染みないんだろうけど。ま、なんでもいいか。

「お、らァ、よっ」
「やぁー!」
「きゃー!」
「くっそ! 捕まった!!」

 朝日の差し込む甲板をちょろちょろと走る子ども達を追いかける。俺がでかいから、数歩足を動かすだけで三人とも捕まえることが出来て、小さな頭にぐりぐりと自分のを押し当てた。
 朝の挨拶に子ども達を抱き寄せるのがいつもの遣り取りになって、お父さんうれしい。クラッカーに至ってはかいくぐってすり抜けようとするので、それを逃さいよう腕を回して捕まえるのが毎回楽しくて!
 きゃあきゃあ笑うカスタードとエンゼルを左に、じたばた暴れて笑うクラッカーを右に抱いて、頬を擦り寄せる。

「おはようお父さん!」
「お父さんおはよ!」
「おはよう父さん離せェ!」
「おーはーよー」

 はァ〜今日も子ども達が可愛い〜〜〜!! 暴れるクラッカーも可愛い〜〜〜!!!
 最初のうちは、慣れないスキンシップに固まってたのに。今じゃふざけて逃げようって考えるくらい、慣れてくれた。本当にうれしいなァ。
 そのまま、挨拶を終えたら、いつもは名残り惜しく離すとこだけど、今日はちょっと違う。

「さて子ども達」

 まとめて呼べば、キョトンとした顔が三つ、俺を見る。それに笑みを返した。
 お父さん、君達に個室貰ったよーって報告があります。遊びに来てほしいな!


 粉、粉、卵、よくわからん器具。それらを上手く使って、タネ、なんて呼ばれたりするどろどろが出来た。
 カスタードとエンゼルが真剣に、だま? が出来ないように作ったそれを、お玉みたいなので掬ったクラッカーが、熱したフライパンに流す。
 そんなに少しでいいの? って思ってたどろどろを、クラッカーがフライパンをくるくる斜めに回して広げてく。
 ほァ〜〜?? 何その技術! クラッカーすごすぎないか??? そんなこと出来んの??? 可愛い〜〜!!

「父さんうるせェ」
「ごめん」
「お父さんって、何にも知らないんだね」
「ごめんて」
「今まで何食べて生きてきたの、お父さん」
「米と味噌汁と魚?」

 口に出てんだよ、と頬を赤くしたクラッカーに睨まれて素直に謝れば、カスタードには呆れられ、エンゼルには不思議そうな顔をされる。
 一般的な和食というものを食ってました、とやんわりいえば、スイーツは? と三人の目が俺を見た。

「スイーツ……スイーツ??」
「甘いもの食べなかったの?」
「板チョコとか? なんか、粒のチョコとか?」
「粒のはともかく、板チョコなんて料理の材料みたいなものよ?」
「えっ。普通にかじってましたが」
「好きなケーキとかねェっていってたけど、他のは?」

 他のねェ、と顎に手をあてて考えれば、それすら考えないとならないのか、と三人が驚愕の顔で俺を凝視してくる。
 そうかそうか。三人は俺の子どもだけど、ママの子どもでもありましたね。普通の子どもより甘いものが好きだし、他の船員だって、そういうのを好む人が多いんだろう。
 対して俺は、普通の、一般的な成人男性だ。どっちかっていわなくても、普段から甘いものを口にするタイプじゃない。なんかちょっと、甘いもの食べたいなってなったときに食べるくらいで。
 それを告げれば、嘘でしょ、という顔でカスタードやエンゼルが驚いていたけど、本当なんだなぁ。ご飯に甘いもの、ご飯の代わりにスイーツを食べるような、そんなことは俺にはないんだよ。
 クラッカーはちょっと視線を落として、何かを振り切るようにフライパンを回した。どうしたのかな、なんかあった?? 聞いても、なんでもない、と首を振る。
 話してる間にも、ヘラみたいなのを上手く使って、焼けたどろどろをひっくり返したりしてたのはさすがだ。コンロの近くに置いた大皿には、クラッカーが作り上げた、白い、薄焼き卵みたいなのがぺらりと乗せられている。

「ところで、これは何を作ってるんだ?」
「クレープだよ」
「クレープって……あのクレープ? 甘い、いろんなの入ってる??」
「そうよ」
「え、クレープって、お店以外で作れるの??」
「今、作ってんだろ」

 うへぇァ。変な声でた。
 なんてことないようにいう子ども達に、俺は、驚きと衝撃に交互に打たれてる。
 クレープなんて、俺の知識じゃ店で作るものだ。薄く、なんか棒とか使ってなかったか?? そんなの使って、薄く焼いた膜みたいなのに、店員さんがいろんなのを乗せてくれるやつ。もちろん、頼んだものをだけど。
 とにかく、店で、ある種のプロが作るものだと思っていた俺には、クラッカー達がクレープを作れるなんて、衝撃的すぎた。
 え〜〜?? 天才か??? 俺の子達天才すぎないか??? こんな、まだそんなに歳もいってないのにクレープ作れるとか!!! いやクレープに限らず、料理出来るとか!!

「生クリームはね、時間がかかるから、料理長から貰ってくるの」
「貰える約束したから」
「あたし達が貰ってくる間に、お父さんはフルーツの皮とか剥いてて」
「ヘタも取るのよ、できる?」
「それくらいは出来ますとも」

 ほうほう。生クリームは時間がかかるのか。何で時間がかかるのか知らんけども。
 カスタードとエンゼルに、俺でもできる仕事を貰って、クラッカーから少し離れたところにナイフなどを用意すれば、手を切らないでね、と注意された。
 クラッカーに、ちゃんと焼いておいてよ、いっぱい焼くのよ、といった二人は、俺のものになったばかりの扉をくぐって出て行った。生クリームを取りに、料理長のところへ行くのだろう。
 ちなみに今、料理してるのは俺の部屋だ。なんとミニキッチン付きで驚いたが、この船の個室はどこもそうなっているらしい。
 クラッカーは、ああ、とだけ返してた。

「クラッカー。火傷しないでね」
「父さんよりは問題ねェよ」
「そっか。クラッカーもカスタードもエンゼルも、よくこんなこと出来るな」
「別に普通だろ」
「普通はできないよ〜すごすぎない?」
「これくらい誰でもできる」

 そういって、クラッカーは黙々とクレープを焼き続ける。その態度に、さっきから感じていた引っかかりを確信した俺は、横目でクラッカーを見たが、ちょっと難しい顔があるだけだ。
 う〜ん? なんだろうね? 俺が引っかかりを感じたのは、好きなスイーツのくだりだったような気がするんだけど。そういうのがないとか、甘いものをあまり食べないとか、そんなに気になることかな。
 首を傾げながらフルーツの皮を剥いていれば、大量のクレープを焼いてたクラッカーが、小さく笑った。
 えっ何、可愛い。

「ハハッ、父さんって、意外と顔に出るよなァ」
「えっ何が??」
「考えてることとか。素直に顔に出てる」
「そう?」
「ああ。だから、疑ったことは、あんまりねェけど」
「ん?」
「……父さんの、前の嫁は、甘いもの嫌いだったのか?」

 前の嫁。その単語に驚いてクラッカーを見れば、しっかりコンロの火まで止めたクラッカーが、じっと俺を見ていた。
 疑ったことはあんまりないって、なんだろう。

「んー……普通に、好きだったよ。ケーキとか食べてるの見たし、『俺』が買ってあげたこともあるし」
「……ふーん」
「でも、どんなスイーツが好きかって聞かれると、ケーキってしか答えられないな。たぶん、好きなケーキもあったと思うんだけど、『俺』がそういうの興味なくて、覚えてない」
「そう、か」
「ママのとこでは、プレゼントの定番はスイーツみたいだけど。『俺』のプレゼントの定番は、食べ物よりアクセとかだったよ」
「……」

 フルーツをいじった手を軽く洗って拭いて。
 俯いてしまった小さな頭に、ぽん、と手を置いた。
 クラッカー、可愛いなあ。そんで、かわいそうだなあ。そんなに傷つくなら、聞かなくてもよかったのに。目を逸らしたって、誰も責めやしないのにね。

「『俺』の昔のこと。気になってたの?」
「……ちょっとだけ」
「そっか。聞いてくれて構わないよ」
「……いやだろ」
「クラッカーが悲しい顔するのはいやだけど、そうじゃないなら、別に」

 手を乗せたまま、目線を合わせるようにしゃがむ。俯いたままのクラッカーは、汚れないように付けたエプロンの裾をぎゅうっと握ったままだ。
 そういえば、料理ができる子ども達が衝撃的すぎて、エプロン姿を愛でてなかったなァ。後でちゃんと、可愛いっていおう。
 ああ、こんなにクラッカーが悲しんでるのに俺は。

「ごめんな、クラッカー」
「、」
「俺、頭おかしいんだ」
「……え?」
「頭おかしいし、性格もよくねェし」
「え、と、」
「だからもう、どうでもいいんだよなァ」

 前の嫁とか子どもとかさ。
 本当に、心の底からどうでもいい。
 それは俺が、やっぱり『俺』じゃないからってことでもあるんだろうけど。でも、もうちょっと優しくて、もっとまともな人だったら、どうでもいいなんて思わないと思う。
 ましてやどう否定しても、ママがいったように、遠因といえるクラッカー達が可愛いとか、たぶん思わない。思っても、もっと複雑な気持ちになったはずなんだ。
 俺は、この世界に生きてた『俺』に入り込んだはずなのに。体も普通に俺のもので、心も普通に俺のもので、『俺』が過ごした日々は俺の過去なはずなのに。
 大切な人達を失っても、悲しくない。

「なんで、俺はあいつらが死んだこと、悲しくねェんだろな。時間が経ちすぎたっていうなら、もっと前に悲しんだはずだろ?」
「それは……、」
「大切じゃなかったかって聞かれたら、『俺』にとっては間違いなく大切だったのに」
「……」
「俺…………クラッカー達に、もしものことがあっても、悲しくねェのかなァ」

 クラッカー達が、なんて。考えただけでも胸がひやっとして、ぎゅってなって、息がしにくくなるのに。
 『俺』の家族がなくなったことのように、遠くから眺めてるみたいに、そっかって思うのだろうか。ざんねんだねって、思うのだろうか。

「俺、クラッカー達が、こんなに大切なのに」

 前の嫁も子どものことも本当にどうでもよくて、気になるのはやっぱり、それだけなんだ。クラッカーが、クラッカー達がって。そればっかり。
 なのに、悲しくないんだろうか。
 ああ、本当に、頭おかしいと思うよ。
 でも。

「っそれでいいからな!」
「、クラッカー?」
「悲しくなくていい! 父さんが悲しくないなら、それでいいんだ!」

 クラッカーは、そんな、頭のおかしな俺にすごく優しいから。
 そういって、慌てて俺の頭に腕を回して抱きしめてくれた。

「父さんが今、俺たちを大切ならそれでいいよ! 死んだ後のことなんて、俺にはわからねェし、気にしねェよ! 前のことは、その、ちょっと気になっただけだから! 前のガキのことも、すげぇ、可愛いって思ってたのかなって思っただけだから!」
「クラッカー達のほうが可愛いよ」
「〜〜、当たり前みてェに答えんなよ……。なら、それでいいから」
「うん」
「聞いといて、あれだけど。あんま、悲しくないとか、気にすんなよ」

 何年経っても癒えないこともあるんだ、とか。しどろもどろにクラッカーが慰めてくれるから、俺より何倍も小さくて薄っぺらな体に、縋るように腕を回した。
 ちょっと位置をずらして胸に耳を当てれば、しっかりと、ちょっとだけ速い鼓動が聞こえる。

「これ。安心するだろ」
「ん、そうだね」
「父さんが、ぎゅってしてくれるときもそうだ」
「、そっかァ」
「俺だって、前の嫁とか、父さんが悲しくないなら、別にどうでもいいんだからな」

 カスタードだってエンゼルだって同じだぞ、というクラッカーに、うんうん頷く。
 そっか〜、俺が悲しくないか気になってただけか〜〜。天使だな。
 ちょっといつもの調子に戻ってきて、ぐりぐりと頭を動かせば、くすぐってェ、とクラッカーが笑う。

「ねェ、クラッカー」
「ん?」
「俺、いつか、お前に話したいことがあるんだ」
「話?」
「うん。俺が経験した、嘘みたいな、本当の話。たぶん、聞いても信じられないことばっかだと思うけど、でも聞いてほしいんだ」

 きっと、大人になればなるほど、信じられない話だと思うけど。でもクラッカーだけにはいっておきたいから、聞いてほしい。
 それまでには『俺』のことも、俺のこともぜんぶ、ちゃんと話せるように、心の整理をつけておくから。

「信じてくれなくてもいいけど、聞いてほしい」
「聞くし、信じるぞ」
「いや、たぶん信じられないと思う……」
「父さんは、俺に嘘つかないだろ」
「つかないけども」
「じゃあ信じる。だから、安心して話せよ」

 いつになってもいいから、なんて。
 いってくれるクラッカーが本当にカッコよくて、可愛くて。
 ああ、本当に好きだなって思ったよ。

「あ〜! クラッカーがカッコイイよ〜〜」
「まァな」
「何その余裕〜! はァ〜本当にカッコイイ〜!!」
「ハハッ」
「ただい……クラッカー!! お父さん!」
「こら! ちゃんとやってたの?!」
「あっおかえり〜」

 カッコよさに打ちのめされながら抱きついていれば、クラッカーがわしわしと頭を撫でてくれた。大きな余裕と、小さな笑い声つきでとか。本当にすごすぎないか?
 あァ〜クラッカーがカッコイイ!! カッコよくて召される!!! だめだ! 俺はフルーツを準備しなければならないのに!!! この包容力から抜け出せない〜〜〜!!!
 そう思っていれば、帰ってきたカスタードとエンゼルにめっちゃ怒られた。生クリームをボウルいっぱいに貰ってきた二人が、ぷりぷりと俺とクラッカーを叱る。

「クラッカーの邪魔しちゃダメ!」
「クラッカーも、お父さん甘やかさないで!」
「俺が全面的に悪いの? なんで??」
「どうせお父さんがまた、クラッカーが可愛いとかいいはじめて、そうなってたんでしょ」
「クラッカーはお父さんに甘いから」
「事実すぎてウケる。はい、すみませんでした。完全に俺が悪いわ」
「甘くねェし!」
「クラッカー、そこ怒るんだ?」

 怒ることでもないのでは?? と俺は思うが、クラッカーには不服なんだろう。ぷりぷり怒る二人に、同じようにぷりぷり怒って返してた。
 あ〜俺の子ども達が可愛い〜〜!!

「あっそうだ! 大事なこといい忘れてたんだけど、三人ともエプロン姿可愛いね!」
「今そういう時間じゃない!」
「生クリームが溶けちゃう!」
「アッハイ」
「父さん貸せよ。俺も切る」
「アッハイ」

 俺の子ども達、頼りになりすぎる〜〜。俺、頼りにならなすぎぃ。不甲斐ない父親でごめん。
 思いながら手際よくフルーツを切るクラッカーに悶え、はやくしろ、手を動かせ、と殴られること数回。なんとか具材もぜんぶ揃った、らしい。テーブルに移動して、各自クレープを作る。

「じゃあ、いただきます」
「いただきます!」
「いただきます!」
「いただきます」

 作ったそばから食べていけ、とのことなので、先に食事前の挨拶をして、クレープを作り出した。
 何にしようかな。せっかく持って来てくれたんだし、生クリーム入れようかな。
 子ども達を見てみれば、それぞれにフルーツや生クリーム、チョコ、イチゴのソースなどを手にしている。
 ちなみに、親子四人で囲んでも余裕のあるテーブルは、前にこの部屋を使っていたやつの残りらしい。食器はこないだ上陸したときに買っておいた。子ども達をイメージしたやつそれぞれをね。こんなにはやく出番が来てくれるとは思わなかったけども。
 てゆーか。聞いてなかったけど、なんでクレープ???

「今更なんだけども」
「なんだよ」
「なんでクレープ??」
「はァ?」

 聞けば、隣に座ったクラッカーが俺を見上げて目を見開いた後で、すっと細めた。
 何も知らないでここまでやってたのかコイツ……みたいな顔、嫌いじゃないよ?? 引くほどじゃないけど、でもやっぱりちょっと引く、みたいな顔してる。
 向かいを見れば、あっいい忘れてた! みたいな顔で慌てるカスタードとエンゼルがいた。

「父さんが個室貰ったから、そのお祝いだよ。カスタードとエンゼルが、クレープ作ってお祝いしようって」
「え」
「クラッカー!」
「余計なこというな!」
「余計なことじゃねェだろ」

 えっ何なに? 俺にはよくわかんないけど、個室貰えたのはすごいって三人ともいってくれたけど、それのお祝い???
 俺のお祝い???
 俺のためのお祝い???

「カスタード〜〜! エンゼル〜〜!」
「ほら!」
「お父さんが溶けた!」
「いや、父さんはいつも溶けてるだろ」
「あ〜〜可愛いよ〜〜〜ありがと〜〜〜」
「ちゃんとしてお父さん!」
「お父さんはちゃんとしてたらカッコイイのに!!」
「無理〜〜無理すぎる〜〜うれしい〜〜!」
「よかったな」

 赤くなって照れてるカスタードもエンゼルも、得意げなクラッカーも可愛くて。本当に、この子達のお父さんになれてよかったなって思った。
 なんかお祝いごとあるたびに、クレープ作ってくれるようになってくれたりしちゃうのかな?? もしそうなったらうれしすぎてもっと溶けちゃうよ〜〜。

「お父さん! いいからこれ食べて!」
「おっ」
「あたしのも!」
「俺のも」
「尊さに潰されそう」
「いいからはやく食え」
「はい」

 クラッカーにどつかれながら、カスタードとエンゼル、クラッカー、三人が作ってくれたクレープを順番に食べた。
 どれも美味しかったけど、クラッカーのだけはサラダが入ってるようなクレープで、甘くなかった。甘いものをあまり食べなかったといった、俺の好みを考えてくれたのだろう。
 こういうところで差をつけるのが本当に、カッコイイなクラッカー!!!

「ぜんぶ美味しい〜〜。うれしい〜。ありがと〜〜〜」

 俺、本当にしあわせ。







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