はじめまして注射

 ぎゅうぎゅう。
 しがみついてくるのが、本当にかわいくて、かわいそう。


「クラッカー」

 こればっかりはなァ、なんて。
 いつもは大人顔負けの余裕を見せるペロスペローくんも、困ったように眉尻を下げていった。俺はクラッカーの背中をぽんぽんと叩いて、ふう、と息をつく。
 クラッカー、今、俺の体にしがみついてます。
 供給過多すぎやしませんかねェ〜〜〜!! そんなしがみついてくれるなんて〜〜〜!!! しかも、しがみつかれただけでもうれしいのに、ぎゅうぎゅう、力入れちゃってさァ〜〜〜!!! あ〜〜〜可愛い〜〜〜!!! 尊さに召される〜〜!!
 そもそも。注射嫌いとか本気か?? 可愛いすぎないか???

「クラッカー様、痛くないですから、」
「うそつけよ! 絶対痛いだろ!!!」

 そう。俺にしがみついて、半分泣きながら船医に怒鳴り返すクラッカーは、注射するのが嫌でこんなことになっている。注射したくないと喚いて嫌がるのは毎度のことで、注射されると気づいた途端に逃げるような、大の注射嫌いらしい。
 俺のところまで逃亡してきたクラッカーに、勢いよく腹に飛びつかれた事情がよく分からない俺は、目を瞬くしかなかった。とりあえずペロスペローくんに促され、クラッカーをそのままに医務室のイスに座ったんだけど。

「クラッカー、注射くらいなんだ。お前はママの子だろ?」
「ママの子どもでも、痛いものは痛いんだ!」
「めんどくせェ。縛り上げてやっちまおうぜ」
「ダイフク兄のバカ!」

 船医に背を向けたまま、抵抗の姿勢を崩さないクラッカーは、いつもはちゃんということを聞いている兄の言葉にさえ反抗している。

「クラッカー」
「カッ、カタクリ兄が怒ってもやだ!」
「……クラッカー?」
「ペロス兄やだ!」

 あのカタクリくんがいってもこの有様だ。ペロスペローくんにさえ、やだやだと首を振る。普段あれだけ懐いてるのに。
 そんなご兄弟を前に、俺の脳内は今日も絶好調だ。
 あ〜〜〜可愛い〜!!! 注射嫌いとか子どもかよ〜!!! 子どもでしたね俺の〜〜〜!!! はァ〜〜可愛い〜〜〜!!!
 クラッカーの可愛い一面をまた知ることが出来た俺は、ご機嫌にへらへらした笑みを浮かべながら、クラッカーの背中をぽんぽんと叩いていた。
 オーブンくんやダイフクくんに、なんとかいえよって目で見られても、へらへら笑っていた。だって可愛くて、可愛くて。

「可愛いとかわいそうって、似てるっていうよね」
「やっとしゃべったかと思えばお前……」
「だって俺、クラッカーに嘘つきたくない。痛くないとか、そんなんわかんないじゃん」
「やっぱり痛いんだな?!」
「ナマエ!!」
「テメェ余計なこといってんじゃねェよ!」
「痛くても注射はちゃんとしろ」

 ペロスペローくんに呆れられ、オーブンくんとダイフクくんに怒鳴られて。カタクリくんは元から俺に何か出来ると思ってないのか、クラッカーに厳しいことをいうだけだ。
 こうやってクラッカーがぐずるのは毎回のことだから、注射の順番はいつも最後なんだとか。つまりどんだけ泣き喚いても、他の弟妹にはバレないようになっている。
 まぁそうだろな。小さくても、いや小さいからか。お兄ちゃんが泣いてたら、それだけでこわくて同じように泣き出してしまうに違いない。ただでさえクラッカーに手ェやいてるのに、他の弟妹まで泣きだしたら目も当てられない。
 だからいつもは小さくてもお兄ちゃんとして頑張っているクラッカーも、他の弟妹がこないとわかっているからこそ、いつも以上にわがままにぐずって、そして。

「いい加減にしろ!!」
「っぅ、……うえ、」
「ダイフク!」
「うぁああ〜〜〜!」
「ああああ……」

 とうとう泣き出してしまったわけなのだが。それでも、しっかり俺にしがみついたままだ。
 ひゃ〜〜〜泣き顔も可愛い〜〜!!! 注射がこわくて泣いちゃうとか!! 幼児か!!! まだ小さいけど、そんな歳でもないでしょうに!!!
 こういう、小さいときに苦手だったのって、大きくなっても苦手だっていうよね??? つまり大人になってもクラッカーは注射が嫌いなのかな??? はァ〜〜?? なにそれ??? 可愛いが天元突破してんですか???
 ぎゃん泣きのクラッカーには、本当に申し訳ないが。よしよしと背中を撫でながら、俺はそんなことを考えて顔が緩むのが止まらないのだ。
 それがご兄弟には、この状況で、泣いてる弟にしがみつかれて満更でもない、頭のおかしな男としか見えてないわけだが。その通りすぎてなんもいえねェっすわァ。

「ナマエ、その緩んだ顔をいい加減元に戻せ」
「おっと失礼。カタクリくんにお見苦しいものを見せました」
「お前本当、いい加減にしろよ……」
「ダイフクくんキレんの早すぎでは? もうちょっと心に余裕を持ちましょう?」
「煽るんじゃねェバカ」
「オーブンくん疲れました? お部屋に戻ってくれてよいですよ?」

 カタクリくんをはじめに、三つ子くんそれぞれに苦言を頂いて、にっこりと微笑み返せば、ペロスペローくんが呆れたため息と共に肩を竦める。
 本当に大人顔負けの子だな。肩を竦める、そのしぐさがなんと似合うことか。大家族、多すぎる兄弟姉妹の一番上に立つお兄ちゃんは、下の者すべての見本となる。それをよくわかってるだけある。
 俺の些細な煽りに血管びしびしいわせそうな三つ子くんとは違うわァ〜。いやカタクリくんはそうでもないけどね? どっちかっていわなくてもカタクリくんは、面倒なことされんのがいやってだけだからね。

「うううう、う〜」
「はァ〜。クラッカーが可愛くて今日も幸せ〜〜」
「……ともかくだ。そのままだとお前のシャツが涙と鼻水でびしょ濡れになってしまうし、お前の顔が溶けたままなのも弟妹の教育に悪い」
「別に服はどうでもいいんだけどね。ご褒美みたいなもんだよ」
「弟妹の、教育に悪い。お前みたいに頭がおかしくなったらどうする。それに何より、これ以上船医の手を煩わせるのもよろしくない。こいつにだって他の仕事があるんだ」
「つまり?」
「お前がクラッカーを説得しろ、ペロリン♪」

 そういったペロスペローくんが、とりあえず準備だけしてくれと船医にいえば、おいおいこいつに任せるのかよ、と三つ子くんが引いた顔で兄を見る。
 俺への負の信頼がハンパねェ〜。特に何した覚えもないんだけど?? 日々、クラッカーを愛でたり、カスタードを愛でたり、クラッカーを愛でたり、エンゼルを愛でたり、クラッカーを愛でたり、クラッカーを愛でたり、クラッカーを愛でてるだけなんですけど。
 まぁママがね、何度も俺のこと頭がおかしいっていうからね。子ども達も自然と、こいつは頭がおかしいんだ! って思ったのかもしれないね。教育って洗脳みたいなもんだから、しかたないね。
 ともかく。ペロスペローくんにそういわれてしまえば、俺にもクラッカーにも逃げ場はないわけで。

「クラッカー」
「う、うぅ、と、ぅさ、」
「そのままでいいから、俺のお話聞いてね?」
「う、う、」

 クラッカーをしがみつかせたまま、ぽんぽんと背中を叩いて体を丸め、小さな頭に顎を乗せる。
 この世界の『俺』はずいぶん身長が高いから、クラッカーを抱え込めるのがうれしい。というか、まだ抱え込めるくらいのときに会えてよかった。毎日抱き上げる度に、そう思ってる。だから。

「病気っていうのは、いろんなものがあるんだけど。こういう注射をしなきゃなんないものっていうのは、誰かに伝染したりする病気なんだ。だから病気になる前に、病気にならないようにするために注射をしないとならない。それはわかるね?」
「うー、う、」
「うん。ちゃんとわかってるね、クラッカーはかしこいから。でも、わかってても注射は痛いから、いやなんだよね?」
「う、ぅん、ん」
「注射をしないで病気になったらもっと苦しいことも、死んじゃうかもしれないこともわかるけど、でも、注射がいやなんだよね?」
「うううう」

 おいもっとちゃんと説得しろ。じゃあやんなくていいとかいうなよ。早くしろうぜぇ。三つ子くんの纏う空気が雄弁に語ってくれてるけど、でも気にせずクラッカーの背中をさすった。

「俺もね、注射嫌いなんだ。クラッカーも嫌いだって聞いて、やっぱ俺の子だなって思ったよ」
「っう、と、さんも?」
「うん。痛いの嫌い」

 いーっと顔を歪めてクラッカーを見下ろせば、驚いた顔で俺を見上げている。
 まだ丸みのある頬が赤くなって、涙が流れてきらきらしてるのが可愛くてしかたないけど、でも今はちゃんと父親してるところだからと、ぐっと堪える。
 何より、まだたっぷり涙を溜めた目が痛々しくて! ちょっと悶えてる場合じゃないなって冷静になった。

「でもね、俺は普段から痛いことになろうと戦うし、注射だって痛いけどちゃんとする。なんでかわかる?」
「んっ、わか、んない、」
「クラッカーと一緒にいたいからだよ」
「、」

 いえば、はっとした顔でクラッカーが俺を見た。
 そう。俺がいろんなことを我慢する理由なんて、ちょっと考えれば誰にでもわかることだ。病気になりたくないも、死にたくないも、全部全部、誰への気持ちに直結するかなんて。誰にでもわかる。

「戦って痛い思いして、それでもまだ戦うのは、死んだらクラッカーに会えないから。だから生きたくて戦うし、病気だって、しばらくクラッカーに会えなくなるし、下手したら死んじゃうことだってある」
「う、」
「万が一、俺のせいでクラッカーに病気がうつったりして、それでクラッカーが苦しくなったり痛くなったら、俺もうお父さんやってけない」
「っやだ! そんなのいやだぁ!」
「俺もいやだよ〜」

 なんか話してるだけで泣きたくなってきた!!! 俺、病気になりたくないよ〜。死にたくないよ〜。ずっとクラッカーのお父さんやってたいよ〜。
 ぎゅうぎゅうしがみつくクラッカーを、その上からぎゅうぎゅう抱きしめる。このバカ親子……というような蔑んだ三つ子くんの視線なんてスルーだ。意外と感心したようなペロスペローくんはどうしたのかな?? 頭がおかしくても、まじめな話くらいそこそこ出来るぞ? 多分。

「だから、だからね、俺は頑張って注射したんだよ。本当に痛かったけど、でもクラッカーのお父さんだし、カッコ良くいたかったから!」
「うう、とうさん、」
「俺も頑張ったから、クラッカーにも頑張ってほしいけど、…………クラッカー、頑張れる?」

 本当は、クラッカーも頑張ろうねっていおうと思ったんだけど、無理でした。
 俺はほら、クラッカーと一緒にいたいからなんでもやるし、なんでも出来るけど、それは俺の話で。クラッカーが出来ないのはしかたないし、俺が頑張ったからってクラッカーにもっていうのも違うし。
 俺と一緒にいたいなら頑張ってくれっていうのは、もっと違うし。
 そんなふうに内心で悶々としながら、おそるおそるクラッカーの顔を除き込めば、痛みを耐えるようにぎゅっと顔を強ばらせていた。注射したことを想像して、痛くなっちゃったんだろう。
 でもクラッカーは、きっと眼差しをきついものにして俺を見返して。

「頑張れる!」
「おっ」
「俺はママと、父さんの子どもだから! 俺も病気とかしないで、父さんと一緒にいたいから、頑張る!」
「あ〜〜! クラッカーがカッコイイよ〜!」

 可愛いと思ってた息子は、カッコ良くもありました!!! 全世界に聞いて欲しい重要なことだよこれは!!!
 そう思ってクラッカーを抱き締めれば、一瞬だけ俺を一際強く抱き締めたクラッカーが、腕の中で方向を変えて船医を正面から見る。
 俺に抱かれたままだし、体に回した俺の腕を片手で強く掴んでたし、がったがたに声も震えてたし、ちょっと泣いてたけど。
 でもクラッカーは腕を出して、大きな声でいった。

「はやくっ注射しろ!」
「おいすぐやれ。気が変わらないうちにやれ、ペロリン♪」
「は、はい」

 驚いた船医は、それでも手早くクラッカーの腕を消毒して、躊躇いなく針を刺す。
 その瞬間に強ばった体が痛々しくて俺も顔をしかめていると、いやなんでお前もそんな顔して……みたいに三つ子くんが見てくる。意外とリアクションが揃うところが多胎児の感じあるよ、君達。

「……はい、終わりましたクラッカー様」
「っ、……、」
「よく頑張ったねクラッカー! さっすが俺の子だ!!」
「〜〜っ! とうさん〜〜!!」
「カッコイイよ! 最高だよ!」

 終わった瞬間も泣くのを堪えていたクラッカーを全力で褒めてやれば、わあっと声を上げて腕を抱え込むようにしがみついて泣き始める。体をこちらに向ける余裕もなかったんだろう、うまく動かして正面から抱き締めてやれば、またぎゅうぎゅう俺にしがみついてくれた。
 クラッカー! カッコイイよクラッカー!! やれば出来る子なんだねクラッカー!!! じゃあ最初っからやれよって話かもしれないけど、それは違うよ!! やらないクラッカーは可愛いんだから、それはそれでいいんだよ!!!

「おいお前ら! さっさと医務室から出ていけ!!」
「かしこまり〜」
「ご苦労だったな、ペロリン♪」
「んーん。クラッカーのことならなんでもいって、ペロスペローくん」

 クラッカーを抱き締めて、どこにでもあるような回る診察椅子でくるくる回っていれば、ダイフクくんにめちゃめちゃ怒鳴られた。このままでは殴られそうな危険さえあったので、回ったテンションそのままに立ち上がって医務室を出ようとすれば、ペロスペローくんが労りのお言葉をくれる。
 別にクラッカーに関することなら、なんでもいってくれていいんですよ? もちろん、カスタードやエンゼルのこともね。そういって医務室から出て、船内を歩く。
 泣いてることを弟妹に知られたくないだろうクラッカーのことを考えて人気のないほうにいけば、船尾の辺りについた。今日は釣りを楽しむやつもいないようなので、足を投げ出して座る。ちょっとだけ日が当たってあったかい。

「う、うう、う」
「いい子いい子。クラッカーは本当にいい子だな」
「う〜」
「可愛いしカッコイイし、俺の息子は本当にすごい」

 来る途中に寄ったキッチンで拝借した水を飲ませて、ぽんぽん背中を叩く。しばらく泣いていたクラッカーも、注射が終わった安堵感からか、すぐに泣き止みはじめていた。
 ぽんぽん、なでなでを繰り返す。あんまりいわれてもうるさいだろうから、途中、ちょっとだけクラッカーを褒めながら、を繰り返して。

「、父さん」
「ん?」
「本当に、痛いの嫌いなのか?」
「うん? 本当だけど?」

 しばらくして、すっきりしてきたらしいクラッカーの質問に、俺はきょとんとした顔を返してしまった。
 それって、何か気になることだろうか。クラッカーに注射をさせるためについた嘘だと思われてるのだろうか? 嘘じゃないけど。

「……本当に?」
「てゆーか、痛いのが嫌いじゃないひとっているの? 俺は無理だなー、出来るだけ痛くないほうがいい。痛いのやだ」
「それって、かっこ悪くないか?」
「え? 痛いのが嫌いなのって、かっこ悪いの?」
「……兄さん達が、」
「ああ……」

 クラッカーのいう兄さんというのは、俺がまだ馴染んでない五つ子くんのことだろう。兄弟の歳が近いと喧嘩しやすいとはよくいったもので、あの五つ子くん達はクラッカー達とあまり仲がよろしくない。悪いってほどじゃないけど、よく喧嘩してるのを見る。
 おそらく、注射がこわいとぐずったクラッカーを、いいネタだといわんばかりにからかったりしたんだろう。思って聞けば、その通りだと頷かれた。

「んー、そういう、何がカッコイイかかっこ悪いかって、人それぞれだから。だから、どっちが良いとか、どっちが悪いとかはないんだけど。でも俺は、痛いのが嫌いで、こわいほうがいいなって思うよ」
「、そうか?」
「俺は根っからの海賊じゃないから、そう思うのかもしれないけどね」

 ねェ、クラッカー。

「痛いことがこわくなくなったら、そうなった人から死んでくよ」
「、」
「痛いのがいやだから、こわいから、痛くないように攻撃だって避ける。痛いのがへいきになると、攻撃くらっても避けなかったりするから。そうやって鈍くなってって、死んじゃうんだ」
「鈍く、」
「危機感っていうのかな。痛いこと、こわいこと、全部の危ないことを感じる気持ちが、鈍くなっちゃう」

 真剣に話を聞くクラッカーが、口の中で、危機感、と言葉を転がした。
 そう。海賊やってると、それが足りないなって思うことが多々ある。基本的に襲う奪う戦うみたいな感じの海賊は、危機感が足りず行動が短絡的で、自分の命を大事に出来ない。
 海賊が命を惜しんでどうするっていうのもわかるけど、でも、じゃあそう簡単に犬死して恥ずかしくないのっても思う。

「それが鈍くなると、死ぬ、」
「必ず死ぬってわけじゃないけどね。クラッカーだって、危ないなって思ったことは、自分からやろうとは思わないだろ?」
「うん」
「それがそもそもわかんないっていうのが、危機感が鈍くなってる証拠かな」
「へー」

 そうなんだ、と新しく得た知識を忘れないように馴染ませていく様は、本当に、ただの子どもだ。
 でもクラッカーは海賊の子だから。

「ねェクラッカー。お前は海賊の子どもだから、いっぱい無茶をするんだろうね」
「? わかんねェけど、そうかな?」
「うん。きっとね。でもね、そんときに、少しだけいいから、思い出してね」
「何を?」
「お前に、死んで欲しくないなって思ってる人がいること」

 そういって、膝の上のクラッカーを優しく抱き締めた。
 痛い思いをしてほしくない。苦しい思いをしてほしくない。死んでほしくない。たくさん思うことはあっても、それを押し付けるのは俺のワガママだから。
 だから、せめて俺が、クラッカーに生きててほしいって思ってることはわかってほしくて。

「これからね、俺が戦闘訓練したりもするけど。そんとき、痛くなるかもしれないけど。痛いのが嫌いとか、注射がこわいとか、そういうの、ちゃんと覚えててね」
「……わかった」
「俺も、あんま痛くしないように頑張るから」
「父さんになら痛くされても平気だから、別に痛くしないようには頑張らなくてもいいぞ」
「え」

 あんだけ痛いのが嫌なクラッカーから出た言葉とは思えずに目を瞬けば、思ったよりもしっかりした、強い光を込めた目でクラッカーが俺を見上げていた。

「だって、そのときの父さんは、俺に痛いことするのも頑張ってるだろ? 本当は痛くしたくねェのに」
「へ」
「俺の嫌なことをしねェとって頑張ってくれてるんだから、俺だって痛いのくらい、頑張って我慢するさ」
「う」
「だって俺、父さんの子どもだしな! それくらいは頑張れるぞ!」

 そういって、任せろ、と拳を握ったクラッカーが、本当に、本当にカッコ良くて。

「〜〜〜クラッカー!!!」
「うわっなんだよ父さん!」
「お前、お前〜本当にカッコイイな〜! 俺の子ども最高かよ〜!!!」
「父さんちょっとうるせェ!」

 あああああ〜〜〜!!! 俺の息子が天使〜〜〜!! いや神〜〜〜!!! 神様〜〜〜!!!
 悶えてぎゅうぎゅうと抱き締めれば、少し怒ったような声でクラッカーがそういうけど、でもそれが照れ隠しだってのは、赤く染まった耳でわかる。
 いつまで経っても褒められ慣れしない子め〜〜!! 最近じゃあカスタードやエンゼルは、またなのって顔するようになったんだぞ!! その顔もかわいくていうことなしなんだけどな!!!
 ひゃあああ〜〜〜可愛い〜! クラッカーが可愛くて尊い〜〜〜!!! 世界がキレイ〜〜〜!!

「クラッカーのお父さんとして、俺も毎日頑張るからね!!!」
「父さんは毎日頑張ってる」
「褒められた〜はァ〜〜幸せ〜〜〜」

 俺、お父さん頑張る!!!







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