クラッカー達のお父さんをはじめて半年。
早くも俺の手配書が出たようです。
「お父さん見て!」
「お父さんカッコイイ!」
「ありがと〜」
あ〜〜カスタードもエンゼルも天使〜〜〜申し訳ないくらい俺の娘達が可愛い〜〜〜。
手配書を掲げる二人にしゃがみこんで頭を撫でれば、お父さん聞いてるの?! と声を合わせて怒られる。
聞いてる聞いてる。今日も君達が可愛いくてお父さん幸せですよ。
手配書の写真も中々盛れてて、自分でいうのもなんだけどカッコ良さげだし、いうことなしです。
「しかし懸賞金五千万か。結構高いな」
「ママは安いっていってたよ!」
「お父さんならもうちょっと高くてもいいくらいだって!」
「ママが?」
マジで? と首を傾げれば、うん! と二人揃って大きく頷かれる。
ふーん? 確かに俺は元海兵で元賞金稼ぎだから、そこらの海賊よりは少し高めに懸賞金がかけられるのではと予想はしてたけど。
でも五千万だよ? 俺の実力より高くないか? なのにママはもう少し高くてもいいって? ふーん???
いや不満はないけどね?
「まあでも。五千万なら、お前らの父親として恥ずかしくない額かな?」
「すごいよ!」
「ペロス兄さんもカタクリ兄さんもすごいっていってたよ!」
「そりゃ光栄だ」
他の兄弟から一目も二目も置かれてる二人がそういってくれたなら、ちょっとは自信も出るし箔も付くってもんだ。
いきなり現れた俺を、三つ子達はお父さんと呼んで懐いてくれたけど。でもまだまだ信用してない船員も多いし、何よりご兄弟でも不信がってる子は多いはずだ。
他人はどうでもいいけど、三つ子達が俺のせいで兄弟に何かいわれてしまったら、謝っても謝り足りない。
お父さんになりたいってだけで海賊になったんだから、父親として恥じない働きをせねばと手配書を見ながら決意を新たにする。
いやしかし……見事に盛れてんなこの写真。
「あれ。そういやクラッカーは?」
「手配書探してる」
「これ、新聞に一枚しか入ってないの」
「あ、そうか。よく二枚もあったな」
「泣いたらくれた」
「泣くよっていったらくれた」
「誰を脅したのかお父さんに教えなさい」
さすがは海賊の子。この歳で自分の我儘を通す効果的な方法をよく知ってやがる。
いや海賊っていうより、兄弟が多い子の特性っていったらいいのかね。泣き落としに屈する兄弟が何人いるかはわからんけども、てゆーか新聞取ってそうな兄弟なんて長男くんくらいだろうけども。
船員達だって、ママの子どもを泣かせたってなるくらいなら、手配書の一つや二つ喜んで差し出すだろうけどね。
「お父さんの手配書、部屋に飾ってくる!」
「私も!」
「そう? じゃあハイ」
だから返して、と手を伸ばしてくるカスタードに手配書を返せば、二人揃って駆けていく。
結局、誰を脅したのか教えてくれなかったな。まあ誰に貰ったかなんて覚えちゃいないんだろうけど。
思って立ち上がり、仕事の続きをするかと船員達が集まる部屋に行けば、何人かの船員に手配書デビューおめでとうと声をかけられる。
それなりに仲良い船員達には祝いにと酒を貰ったりビスケットを貰ったりしたので、丁重にお礼をいって受け取った。特にビスケットをくれた奴にはもう何回も礼をいっておく。ありがとう、ウチの息子が好きなんだこれ。
それと、とっておけと手配書も貰った。自分の手配書なんか貰ってもと思ったけど、結構、記念に持ってる奴が多いらしい。しかもはじめての手配書だから、感動も一際あるだろうと。ないけど、じゃあ貰っとくかとそれも受け取った。
しかしクラッカーどこ行った。
そんなふうに、ちょっと遅くなった新聞に入ってた手配書のおかげで、色んな人にお祝いされた一日だったんだけど。
ママにも直接お褒めの言葉を頂いて、ご褒美までくれるっていうから、三つ子の好きなお菓子をそれぞれ頼んでおいたんだけど。
肝心のクラッカーに会えてなくて、お父さん死にそう。
「クラッカー知らない?」
「その質問は、これでもう五回目だぞ? ペロリン♪」
「これももう五回目だけど、絶対知ってるでしょって。ねェ、ペロスペローくん?」
「ん?」
「君が弟妹のこと、知らないわけないんだから。クラッカーどこ?」
ぺろりと舌を出した長男くん、ペロスペローくんが面白そうに笑う。誇らしげにも見える笑顔に、やっぱり知ってんじゃんと口を尖らせれば、まあなァと頷かれた。
さすがに、仕事中に会えないことをウダウダいう気はないけど、仕事が終わったなら話は別だ。
だって今日、朝のおはようとそんときのちょっとした会話以外で、クラッカーと会話してない!! むしろクラッカーに会ってない!!!
「ご飯のときもおやつのときも、クラッカーに会えてないんだけど!」
「食べてはいるんだがね」
「え、食欲ないの? 病気?」
「それはそうと、手配書が出たらしいな。おめでとう」
「……ありがとう」
ペロスペローくんは、兄弟の中で一番早くに生まれた子だ。
あのママの元で、あの母親として失格な女性の元で、長男として兄弟を守って来た立派な兄だ。
その兄は、弟が懐いた見ず知らずの父親に対しても優しい。
つまり、関係ないことをいきなりいわないってことで。
「クラッカーに、俺の手配書、俺からあげたいんだけど。貰ってくれるか聞いて貰ってもいい?」
「ああ、いいぜ。ペロリン♪」
いえば、どうやら当たりだったらしく満足げに笑ったペロスペローくんが自分の部屋に入っていく。
そっかそっかー。俺の手配書がなくて、探してて、でもなくて引きこもっちゃったのかー。
俺の息子可愛いすぎでは???
「なんだテメェ、手配書持ってたのかよ」
「最初からナマエに聞けばよかったんじゃねェか」
「やあご兄弟。ご心配おかけしました」
クラッカーの可愛いさに悶えていれば、ダイフクくんとオーブンくんが揃って出てくる。口では面倒臭そうに悪態をついてるけど、ほっとしましたって、顔に大きく書いてあった。
長男くんだけでなく三つ子くんまでクラッカーを慰めてくれてたのか。俺の息子愛されてんな。思ってれば、カタクリくんも部屋から出てくる。
じっと俺を見てくるので、小脇に抱えてた書類から手配書を抜いて見せた。四つ折りとか二つ折りしなくて良かった。
「……クラッカー。ナマエが手配書持って待ってるぞ」
「早く出てこいよ」
「いつまでもペロス兄に迷惑かけてんじゃねェよ」
三つ子の兄弟それぞれに促されたクラッカーが、ペロスペローくんの後ろに隠れながら、おずおずと部屋から出てくる。
やれやれ、という顔をしたペロスペローくんに目で謝ってしゃがみこむと、目元を赤くしたクラッカーが俺を見上げた。
不安そうな顔に、にっこりと笑ってやる。
「クラッカー。俺のはじめての手配書だよ。受け取って?」
「……と、さんは、」
「ん?」
「父さんは、持ってなくていいのか?」
「俺はいらないかな。記念にって貰っただけだし」
本当に? と驚いた顔で俺を伺うクラッカーに、本当にいらないんだよ、と頷けば、ご兄弟も同じ顔で俺を見てくる。
いやマジで、みんな自分の手配書持ってんの? なんで? 何に使うの?? いらなくない???
いえば、えええ、と引いた顔をされたので、こほん、と咳払いを一つ落とす。
理解した。俺の価値観がズレてることは十分理解した。
そんなことはどうでもいいんだよ!
「俺は自分が持ってるよりも、クラッカーが持っててくれたほうがうれしいよ」
「っほんとうか?」
「本当。なので、貰ってやってください」
「、わかった!」
差し出した手配書は、今度はちゃんと受け取って貰えた。
うれしそうに手配書を手にしたクラッカーが、頬を赤く染めてにぱっと笑う。
はァ〜〜〜可愛いがすぎるんだってば〜〜〜。
「クラッカー。お祝いだって、ビスケットもたくさん貰ったんだよ。一緒に食べよう?」
「いいぜ!」
「じゃあ、お兄ちゃん達にありがとうしてね。いっぱい助けて貰ったんだろ?」
「ペロス兄、カタクリ兄、オーブン兄、ダイフク兄! ありがと!」
「フフ、気にするな、ペロリン♪」
「よかったなクラッカー」
「ほどほどにしろよ」
「もうこんなくだらねェことで騒ぐんじゃねェぞ」
優しいペロスペローくんに喜んでくれるカタクリくん、呆れたようなオーブンくんに厳しいダイフクくん。
それぞれに違う言葉を返してくれるご兄弟は、それでもみんな、クラッカーを見て目を細めていた。
ママはああだけど、その分ご兄弟の仲が良いのが救いだ。
俺が、その仲の良さに少しでも貢献出来る日がくればいいねェ。
「ありがとうございましたご兄弟。お詫びはいずれまた」
「お前も気にしなくていいぜ」
「ああ」
「フン」
「迷惑かけんじゃねェぞ」
まだまだ、キツめにお言葉を頂くようだから、まだまだだけども。
でも手配書も出たことだし、なんか懸賞金が海賊にとってのステータスの一つみたいだし、今度はもっと高額の賞金首になるように頑張りますか!
思いながらクラッカーを抱き上げて、一礼をしてからご兄弟と別れた。
バイバイって手を振るクラッカーは、ご兄弟が見えなくなるとすぐ、手配書に目を落としている。
「俺の手配書出たの、そんなにうれしいの?」
「ああ! 当然だろ!」
「当然なのか」
「父さんが海賊として、一人前になったってことだからな!」
「あっそういう意味」
なるほど、と頷けば、なんで父さんはうれしくないんだ? と不思議そうに首を傾げられる。
うれしいかうれしくないかと聞かれれば、まあ、うれしいかな。
「クラッカーより先に手配書が出たし、うれしいよ」
「俺?」
「クラッカーは強いから。俺より先に手配書が出ちゃうんじゃないかって、ヒヤヒヤしてた」
これは本当に本音だ。
まだご兄弟の中で、ペロスペローくんしか手配書出てないし、そんなに気にする必要無いのかもしれないけど。
ママだって幼くして賞金首になってる。賞金首になるのは、強さだけじゃなく、周りに与える影響だって関係するから。
クラッカーが俺より先に賞金首になる可能性だって、十分にあった。
……そんなの、父親として情けなさすぎるじゃないか!
「俺、お父さんだし。クラッカーより先に手配書出て良かった」
「……そっか!」
「大人はバカみたいな意地張るもんだよ、クラッカー」
「バカになんてしてねェよ!」
「そうかい」
ぷりぷりと怒るクラッカーに、暴れると落ちるぞ、なんて声をかければ、片手がしっかりと首に回される。
あ〜〜可愛い。正直、子どもの中でクラッカーが一番可愛い。一番最初に会った子だからかもしれないけど、息子っていうのもあって俺はクラッカーが可愛くてしかたない。
だから本当に、クラッカーより先に手配書が出て良かった。
クラッカーはあのママの子だから、将来、絶対俺より強くなる。それこそ下手したら、十代のうちに抜かれることだってありえる。こんなふうに俺に懐いてくれるのも、今のうちだけかもしれないって、悲しい不安もあるんだよ。
いやそう簡単には嫌われませんけど。嫌われてもしぶとく縋りつくくらいしますけど。でもそれってカッコ悪いじゃないか!!
だから今のうちに、父さんだって強かったんだぞ的な過去作って、昔はまあまあやれた父親くらいのところに落ち着きたいのだ。
本当、カッコ悪すぎて口に出せない話だけど。
「五千万は安いなァ〜」
「クラッカーもそう思う?」
「もっと高くていいと思うぞ」
「そっか。……ちなみに、クラッカーが俺に懸賞金つけるなら、どのくらいにする?」
ん〜、と考えるクラッカーが、キラキラした目で、本当にそう思ってるんだよっていう目で俺を見るから。
「三億!」
「高額だな!」
「そのくらいはしねェと!」
「そっか〜〜〜無理だろ〜〜」
「無理じゃねェ!」
父さんはそのくらいいける! なんて根拠もなくいうから、オイオイそりゃ無理でしょって思ったけど。
でもお父さん頑張るよ。クラッカーがそういうなら、頑張ってみる。
「んじゃまァ、三億の首になってみるか」
だって俺、クラッカーのお父さんだから!
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