はじめましてモヤモヤ

 あの後。
 泣きまくった俺は糸が切れたように意識を飛ばし、丸一日爆睡してた。
 意識が飛ぶ前にかろうじて部屋のベッドに入ったから、その辺で倒れて運ばれたー、みたいなことはなかったけど。
 子ども達は目覚めない俺をずっと心配しててくれて、俺が起きた途端、安心したクラッカーが泣き、カスタードも泣き、エンゼルも泣き……俺もうれしくて泣き……収集がつかない有様になっちゃったんだよね。
 みんなしてぐちゃぐちゃになるまで、気が済むまで泣いて、そんでちゃんとカスタードとエンゼルにも大好きだよっていって、ぎゅうぎゅう抱きしめて、それでやっと落ち着いた。
 人は寝てる間に色々な記憶の整理をつけるっていうけど、例に漏れず俺も整理をつけて『俺』と上手く重なったから、すっごくしっくりきてる感ある。
 今の俺は胸を張って、大好きなクラッカー達のお父さんっていえるよ。
 まァそんなこんなを経て、心がより強くなった俺ですが……。

「父さんは外出禁止だからな!!!」
「なぜ?」

 クラッカーがなんかたぎってますよ???




 ビッグマム海賊団の海軍支部襲撃からまだ一週間。細々としたケガがまだ治ってない俺は、しばらくの療養をいいつけられている。本当に軽いケガばかりなんだけど、一番の功労者だからね。療養という名目で休暇を頂いてるわけだ。
 母船もあの海軍支部から離れた島に停泊していて、食料やら燃料やらを補給してる。
 襲撃したばっかの、話題の海賊団に来られたら島も迷惑すると思ったんだけど。観光船やら海賊船やらを相手に商売してる島の人達は、とても度胸があって商売魂たくましいので、うちは大歓迎されてるらしい。
 こないだの襲撃でたくさん金品を略奪できて、懐もあったかい。支払いをケチらずに金を落としてくれるなら、海軍でも海賊団でもどっちでもいい、とのことだ。マジでたくましいな。
 略奪した金品は俺の取り分もあったけど、今まで通りに少しだけ手元に残して、あとは子ども達に分配しておいた。クラッカー達と、クラッカーの兄姉達にね。いつも弟妹のお世話頑張ってるから。
 中でも、いつもお世話になってるペロスペローくんや三つ子くんには、毎回少しだけ多めに渡してるのはここだけの話だ。
 特にペロスペローくん。頼りになる長男くんにはこれからも頑張って欲しい。キャンディもキロで積んどきますね。だから兄セコムは緩めにお願いしますよ……マジで!!!
 だってもう、最近のペロスペローくんは厳しすぎっていうか?? 厳しいなんてもんじゃなかったっていうか?? 元海兵だからっていびんなくてもよくない??? って感じなんだよ!!!
 そういえば、いや全然関係なく、そろそろお前の奇行を許せなくなっただけだ、とかいうし……ペロリン♪じゃねェっすマジで!!
 許してよ! ペロスペローくんに迷惑かけてないじゃん!!! いやペロスペローくんからしたら、弟であるクラッカーが俺の奇行に慣れてくのは見てていやなんだろうけども!! でも許して!!!
 思えど、そんなことは兄弟想いの長男ペロスペローくんには死んでもいえず……。てかいったらたぶん死にかけるのでいえず……兄セコムこわぃ……。
 ちなみにカタクリくんは、前みたいに俺に無関心に戻りました。とりあえずは裏切らないだろっていう曖昧な確信さえあれば、俺がクラッカー達といても気にならないみたいです。まる。
 話戻すけど。
 絶賛停泊中の我が海賊団船員達は、見張り番以外は基本的に上島して、思い思いに陸地を楽しんでいるわけだ。
 たくましい島の皆さんのおかげでかなり楽めているらしいね。たまーにどこぞの海賊団と揉めたって話は聞くけど、それもチンピラの肩ぶつかった云々程度のもので大きな揉め事にはなってない。
 その程度ならむしろ荒事が大好きな船員達は大歓迎って感じだし、やれ酒場だー、やれ女買うわー、と大変お楽しみのようだ。
 治安もよい、敵もいない、久しぶりの陸地となれば、船では出来ないことをたくさんしたい。そう思うのは誰でも同じなんだけど。
 なぜか俺は、たぎってるクラッカーに外出禁止をいいつけられてしまった。

「えーと、クラッカー、」
「絶対ダメだからな!!!」
「声デカすぎ意思強すぎぃ……ええ、何が君をそうさせてるの……」
「ぜったい!! 島に行っちゃダメ!!!」
「だからなんでって」
「っ、なんでも!!!」
「なんでもかー」

 お父さんのケガが心配だから、とか。そんな嘘つけないクラッカー可愛すぎか?? 嘘つくって選択肢がないのか? それとも嘘いくないって嘘つかないのか?? どっちでも可愛いな???
 可愛いけども、本当に何が君をそうさせてるの??? それが気になるんですけど。
 しゃがんで目線を合わせていると、ふんすと息を荒くしているクラッカーの背後で、そりゃヒデェ、と船員達が笑っている。
 久しぶりの陸地だぜ?
 羽を伸ばさせりゃいいのに。
 女だって上物がたくさんいるぞ。
 こんなときまで子ども優先すんなよ。
 口々にはやし立てては、島のいいところを指折り上げていく船員達を、クラッカーはぎっと睨みつけて怒鳴った。

「行かない! 父さんは島に行かないからな!! 誘うな!!!」
「クラッカーが行かせないんでしょーが。はァ可愛い」
「っ父さんは島に行きたいのかよ!」
「クラッカー達と買い物行きたいよね」
「、……ちょっと考える!」
「考えてー」

 ヘラヘラ笑いながら膨れた頬をつつけば、触んな! といわんばかりに払われる。
 あァ〜〜!! 気に入らないことゆう奴らの前だからって強気なんですね〜〜!! 強気のクラッカーも可愛いですねェ〜〜〜!!! そういうのもお父さん大好きだよ!!! クラッカーならなんでもいいんだろとはいわないでね!!!
 溶けた俺に、とにかく島には行かせないからな、とクラッカーが怒るので、わかりました今日は大人しくしてます、と頷いた。

「いったな?! 約束だからな?!」
「今日は、ね。部屋で大人しくしてるよ」
「ぜったいだぞ! 俺はやることがあるから行くけど、父さんはちゃんと部屋に戻れよ?!」
「うん。でさァ、クラッカーはご飯どこで食べるの? 船で食べるなら、ご飯のときにクラッカーが迎えに来てよ。そしたら俺、その時間まで部屋から一歩も出ないんだけどなァ〜?」
「わかった! 迎えに行ってやるから大人しくしてろ!!」

 あァ〜〜〜!! クラッカー可愛いぃ〜〜!!! しかも夕飯をクラッカーと一緒に食べれることが確約されましたァ〜〜!!! 完・全・勝・利!!!
 そりゃね、時間を合わせて食堂に行けば、同じ時間にクラッカーの近くでご飯を食べることはできるけど。クラッカーは食堂でも弟妹の面倒を見てるから、一緒にご飯っていうのはあんまりできないんだよね〜。
 そんなときまで面倒見てんのかってちょっと心配になるけど、あくまでクラッカーは自主的に弟妹の面倒を見てるから。なんだかんだいうより、陰ながら応援したほうがよいと思うんだ。
 何より、お兄ちゃんなクラッカーを堂々と見れるよい機会だしね?? 自主的に弟妹の面倒見るクラッカー、カッコよすぎか??? 俺の息子イイコすぎでは??? はァ〜〜最高!!!

「ありがと〜〜。クラッカーは、これから何かお仕事があるのかな?? 頑張ってね!」
「……うん!!」

 溶けた顔で励ましと一緒にひらひらと手を降れば、途端に機嫌を直して、クラッカーが廊下を走っていく。
 島にいる間、クラッカーにはクラッカーのやるべき事があるんだろう。手伝いたかったけど、なーんかピリピリしてるクラッカーにそれをいうのもなァ、とちょっと遠慮した。
 クラッカーの背中が見えなくなるまで手を振ってから立ち上がると、やれやれ、と船員達が肩を竦める。
 ガキのお守りは大変だなぁ、なんて暢気にいわれて、俺の子をガキ呼ばわりとはいい度胸じゃねェかと睨めば、悪い悪いと口先だけで返された。
 ふーん? こいつ、なんかの機会にボコボコにしてやりてェな。たぶんクラッカー達の為にならない。いつかボコす奴メモにリストアップしとこう。
 思っていれば、やれこの島の女は最高だ、顔もよくて具合いがいい、と何人かで騒ぎ始める。こういうネタをクラッカー達の前で躊躇いもせず口にしたら、その場でぶちのめしてやるのに。
 しかし。肩を組まれてアレコレ女の話を聞かされ、心底どうでもいいなと無関心に流し聞いてると、ひとつ気になる単語が聞こえて、思わず聞き返した。

「桜? この島、桜咲いてんの?」

 あァ、サクラナミキっていうんだっけ?
 何本ものサクラが道を囲んでてよ。
 幻想的っつーので、女にも人気らしいぜ!
 女買って連れてってやれよ色男!
 俺が反応したのに調子を良くして、そいつらはこの島の桜について次々に話し出す。
 まァ最終的には女を連れてったらコロッといい雰囲気になって、自分から擦り寄って来るんだとか、そういう話になるんだけど。
 桜のある場所は島の半分以上を埋めるので、穴場スポットとやらもたくさんあって、しっぽり楽しむのに最高だとそいつらは下品に笑った。
 俺の部屋は船の向きのせいで海を向いていたので、そんな大量に桜が咲いてるなんて思わなかった。島の半分……はァ〜そんなにか。そりゃすげェな。
 感心すれば、お前も外に出てみろよ! 一緒に行くか? と肩を強く寄せられたが、うざい、と振り払う。
 クラッカーとの約束がある。とりあえず今日は、大人しく部屋に戻るよ。いえば、不満そうな顔を一瞬だけ見せたが、今日は、の辺りを強くいえば、笑って見送られた。
 うん……うん。あいつら良くねェわ、ぜったいクラッカーの邪魔になる。出来るだけはやく消さなきゃ。ボコすメモにじゃなくて、殺すリストに顔と名前を書くと、ニコリと笑って部屋に戻る。
 しかし桜。元日本人として無視できない花が、こんな近くにあるとは。別に好きってわけじゃないし、探してまで見たいわけでもないんだけど。近くで咲いてるって聞いてしまえば、見てみようかなって思わせる花。それが桜なんだよなァ。
 つまり、クラッカー達とお花見したいなァってことだ。ビスケットとあったかい紅茶持って、パンとかあってもいいな、ちょっとしたお出かけ気分でさァ。
 それはとても楽しそうで、想像しただけでクスクスと笑いが込み上げてしまった。いかんいかん、部屋で一人笑ってるとか、頭おかしすぎる。
 まァその想像を現実にするには、クラッカーから外出許可をもぎ取らなければならないのだが。
 本当に、クラッカーに何があったんだろう。一方的にああいわれたのは正直どうでもいいけど、なんであんなに必死だったのかな。俺がクラッカーの望む通りにしないわけないんだから、あそこまで必死になって俺を説得する必要なんてないのに。
 考えても考えても、クラッカーの考えることがわからない。察してあげられないなんて、お父さんとしては情けない限りだ。しかし情けなくても理由を聞かなければ、たぶんクラッカーはずっとあんな、不安なままなんだろう。
 俺が情けないことは一旦置いといて。クラッカーが迎えに来てくれて、ご飯を食べたら理由を聞くか、と。そう思ってたんだけど。
 クラッカーが来てくれたのは、ご飯の時間よりもずっと前だった。

「父さん!!!」
「んぁ?」

 ガンガチャッ! みたいな、飾り程度で強さは飾りじゃないノック音の後に、すぐ扉を開けられた俺は、変な声を出してクラッカーを出迎えてしまった。
 部屋のテーブルの上に紙を出して色々書いてた俺を見て、ホッと息をつくクラッカーは、ちょっとだけ顔色が悪い。
 何かあったのだろうかとイスから立ち上がって近づけば、安堵の後で、ぎゅうっと唇を噛んだクラッカーが立っていた。

「どうしたの、クラッカー」
「……部屋にいた?」
「ん、ずっと部屋にいたよ」
「どこも行ってない?」
「あの後、周りにいた奴らとちょっとだけ話し込んでたけど。その後はちゃんと部屋に帰って、今の今まで大人しくしてたよ?」
「……そっか」

 体を強ばらせるクラッカーを抱き上げて、イスに座り直す。
 俺の膝の上で、向かい合った形に座らせたクラッカーは、俺の胸の辺りの服を掴んで顔を押しつけた。
 涙を滲ませることが多いけど泣かないクラッカーの、泣きそうのサインに背中に手を回した。落ち着くまでしばらく待つことにして、ポンポンと宥めるように叩く。
 クラッカーは喜怒哀楽が激しくてよい。そういう、情緒の豊かさってのは、大人になってからだと育たないものだ。クラッカー本人は大変だろうし、いやなこともあるだろうけど、出来るだけ感情を殺さずに大人になってほしいな。
 思いながら黙っていれば、落ち着いたらしいクラッカーが顔を上げた。
 目元は赤らんでるけど涙はなかったので、丸い頭のラインにそって滑るように撫でる。一本一本の指に巻かれたテーピングを、クラッカーの目が見ていた。

「……父さん。指、痛い?」
「あぁ爪? まだ生えてないから地味に痛いよ」
「じゃあ、…………じゃあやっぱり、外には出ないほうがいいと思う……」
「うん。クラッカーがそんなにいやなら、みんなで買い物するのも諦める」
「…………」
「でもね、クラッカー。俺が外に出ないことで、クラッカーの不安なことがなくなるなら、いくらでもそうするけど。でも、俺が外に出ないとダメな日だって、いつかは来るよ?」
「……うん」
「そのときは我慢できる?」
「、我慢できるけど、……それでいいって、そういうことじゃないと、思う」
「うん」

 ぽつぽつと自分の気持ちを話してくれるクラッカーは、俺を外出させないことは解決にならないとちゃんとわかっている。
 でもどうしたらいいか、問題の解決策がよくわからないようで、とにかく外出させないようにしなければ、と思ったらしい。
 俺を外出させないことが何の解決になりかけたのか。まずはそこを聞くのが大切か。

「ねェクラッカー。なんで俺は外に行っちゃダメなの?」
「…………」
「何がいやだから、外に行ってほしくないの?」
「……俺達より大切な人ができるのがイヤだから」
「ん?」
「だから外に行ってほしくない」
「んん??」

 ちょっと待って。本気でよくわからない。わからなすぎて、頭フリーズしそう。してる。

「クラッカー達より?? 大切な人???」
「今はいねェけど、できるかも知れないだろ」
「外に行くと??」
「……外にっていうか、島にっていうか…………」
「…………ごめん、全然わかんない。クラッカー達より大切な人ができるとかいう、有り得ない話に頭が固まって、クラッカーが何をいいたいかわかんない」

 本当にごめん。マジでわかんない。
 こんな、クラッカーや子ども達の可愛さに日々溶けては怒られる生活を送ってる俺に、クラッカー達より大切な人ができる??? とは?? なんだそれ、哲学の問題か??? 大切な人(概念)みたいな話か??? 哲学はよく知らないんだが勉強するべきか???
 顔には出さずに混乱していると、さらなる爆弾がクラッカーから落とされた。

「父さんに新しい奥さんや子どもができたら、そっちが大切になるだろ」
「できないしならないだろ」

 思わず、スンッとした顔をしてしまう。
 あまり見せたことない俺の顔にクラッカーがびっくりした顔をしてから、まァ、そうなんだけど、と視線をさ迷わせた。
 ……なるほど…………なるほど。
 今のでいいたいことはなんとなくわかった。クラッカーの不安も、なんであんないい方しかできなかったのかも。
 俺が不安にさせてたのかァ。

「クラッカー、ごめんね。クラッカーが抱えたそのモヤモヤは、俺のせいだ」
「父さんのせい?」
「そう。俺がクラッカーを大好きだよ〜って思ってる気持ちを伝えるのが足りないから、そういうことでクラッカーが迷っちゃうの。俺がちゃんと、クラッカーが大好きだよ〜って伝えられてれば、そんなことをクラッカーは悩まないの」
「そう、なのか……?」
「そうなの。だからね、俺が悪いんだよ。モヤモヤして、不安になっちゃうのは、俺が、ちゃんと気持ちを伝えられてないから」
「でも父さんは、いっつも好きだっていってくれるだろ? あんなにいわれて、伝わらないとか、ないと思うけど……」
「何回好きだっていっても、それがちゃんと伝わらないことだってあるんだよ」
「そう、か……」
「うん、そう。だから、ごめんねクラッカー。お前が俺のことで悩んじゃうのは、大体が俺のせいだよ。だから気にしないで、怒っていいんだよ」

 不安にさせやがって! ってさ。怒ってくれていいんだ。
 こういう、親子の気持ちのやり取りは、親子の数だけ形があって、俺とクラッカーの形はそれでいいと思う。
 俺が今どれだけクラッカーを好きでも。どんな正当な理由があっても。俺はクラッカーが生まれてからずっと、クラッカーを愛してたわけじゃない。
 俺に愛されてない時間がクラッカーにはあって、複雑なアレコレが俺にはあって、それがきっとクラッカーを不安にさせてる。そう思うと、やっぱり俺が悪い。
 でも俺はこれから死ぬまでの間ずっと、いついかなるときだってそれを責められたら、クラッカーにごめんねっていい続けるつもりがある。それを引け目に感じて、クラッカーと距離を取ったりは絶対しないけどね。

「……父さんは、好きだっていってくれる」
「うん」

 クラッカーはそういう俺を見て、自分の気持ちを整理するように話し出した。

「今までいってくれなかったけど、いろいろ、こころの整理がついたからか、いってくれるようになった」
「うん。俺が落ち着くまで、待っててくれてありがとうね」
「ん。……それが、他の人にもいってたらイヤだって思ったんだ。カスタードやエンゼルはいいけど、他にはいわないでほしい」
「クラッカーがそういうなら、三人以外にはいいませんとも」

 というかね、俺の好きは、クラッカー達には雨のように降り注ぐけど。他にやる分は元々ないんだよね。俺、クラッカー達以外に好きな人いないし。……ママも含めて、ね。まァそれはいわないけど。

「今の島、父さんは行ってねェから知らねェだろうけど、イイ女がいっぱいいるんだって」
「へぇ」
「気の強い女もいて、船に乗りたいっていってる奴もいるんだって」
「ふーん???」
「好きな人と一緒にいたいからって」
「あ、そういう……ふーん」

 これもいわなかったけど。
 クラッカーには、いわなかったけども。
 うっっっざ!!! 俺そういうの無理!!!
 好きな人と一緒にいたいのはわかる。けど、俺らがこの島に来てから一週間しか経ってねェのよ?? 一週間で何がわかるの? 何が好き?? いや一目惚れとかもあるけどさ???
 でもさァ、これは完全な偏見だけど。
 そういうこという女はイイ女かもしんないけど、強い女ではなくない?? そんな女を船に乗せたら、足でまとい増えるだけでない??? 強い女ならいいのかっていわれると、強い女がそんなこといってたらうざすぎて殺したいと思うって答えるけども。
 たかだか恋愛感情で海賊団に入るような、そういうのは俺は好きじゃないし理解できない。たかだか子どもを理由に入った俺が、どの口でいってんだって思うかもだけどさ。
 しかし、そうか。
 色々と、心の整理がついた俺が、今度は恋愛にシフトチェンジする可能性をクラッカーは不安に思ったのか。

「……好きな子と一緒にいれてる俺は勝ち組だね!!!」
「、びっくりした……父さんなんて?」
「ええ〜〜〜クラッカー好きぃ〜〜」
「あぁうん」
「ふふふ〜〜〜。あのねェ、クラッカー」
「何?」
「俺はこの先、誰とも付き合わないし結婚もしないよ。新しい奥さんなんていりません」

 ましてや。

「クラッカーとカスタードとエンゼル。俺の子どもは、三人だけがいいな」
「、そっか」
「うん。だから安心して。クラッカーのママはあの人だけだよ」
「ん」
「それに、本当に俺の頭がおかしくなって、他に子どもがほしいなって思ったとしてもさァ。元からいっぱいいるじゃん。おつよいクラッカーのお兄さんや、可愛いクラッカーの弟妹がさァ」
「…………そうだな!」

 まァ、その子らに俺の好きは降り注がないんだけど。それは許してね、やっぱり俺は、クラッカー達が特別だから。
 いいながら頭を撫でれば、クラッカーがちょっとだけ考えるような顔をして。何かを振り切ったように、にかっと笑ってくれた。

「クラッカーは、可愛いねェ」

 大人と子どもを行ったり来たりしてるような、そんな顔を、クラッカーはよくするようになった。子どもの成長ははやくて、うれしいけどさびしい。それをかなり痛感してるよ。
 だからさァ、クラッカー。
 今はまだ、嫉妬しても理不尽に、父さんのせいだっていっちゃうような子どものままでいてよ。きっといつか、嫉妬してる俺が悪いっていう日が来ちゃうんだから。
 クラッカーは可愛くて、カッコイイから。俺が甘やかしてあげられる時間はきっと短いから。

「でさァ。俺は外に出てもいいの?」
「……俺が一緒ならいいぜ!」
「やったァ〜〜! クラッカーとお出かけできる〜〜〜! あとお花見したいんだけどどうでしょう?」
「は? お花見? って何?」
「しらねェか。桜の花見ながらご飯食べるやつをだいたいそういうの。シートに座って、サンドイッチとか作って、桜きれいだな〜っていいながら食べる」
「楽しそう!」
「ぜったい楽しいよ〜!」

 じゃあ俺がビスケット出してやる、と息巻くクラッカーは、本当に楽しみだなって顔をしていて。不安な顔じゃなくなったから、よかったなって思った。

「でもさァ、俺、普段から溶けまくってるじゃん? 自分でいうのも悲しいけど、あれじゃ女にはモテないと思うよ?」
「違ェよ、あの顔だからだよ。あの顔で可愛い、大好きだよっていわれたら、コロッと好きになる女がぜったいいる」
「何その自信」

 クラッカーの頬でふにふにと遊びながらいえば、クラッカーは呆れたようにため息をつく。

「だって父さん、いつも可愛いとかカッコイイとかいってても、すっげェ大好きだよって顔するんだぞ? 好き好き大好き〜って、いってる顔」
「え……はずかしい」
「子どもの俺でもわかるけど、あんなしあわせそうな顔で可愛いとか、大好きっていわれることって、生きててそうないぞ」
「ん!」
「いわれたら、こっちだってうれしくて、しあわせになる」
「んん?!」
「そんな気持ちになった女が、父さんを好きにならないはずないだろ」

 よく考えろよ、なんてクラッカーはいうけど。俺はうれしいやらはずかしいやらでそれどころじゃない。
 俺の好きや大好きは、俺が思うよりももっと前から、ちゃんと伝わってたのか。
 はずかしい。でも、うれしい。

「んんァァァ〜〜! クラッカー!!!」
「うるさい!」
「クラッカー好き!!!」
「俺も好きだよ!」
「あああ〜〜〜可愛いよ〜〜〜!」
「うれしいけどうるせェって!」

 ごめんね! この衝動は正直抑えきれません!!!

「クラッカー大好き!!!」

 昨日も今日も明日も。
 ずっと大好きだよクラッカー!!






お父さんは恋愛不信ではありません。人間不信なだけです。




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