※不思議な列車に乗った獏良くんのお話



かたたん、かたたん
ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ

僕は今見たこともない列車に乗っている。
外には特に何があるというわけでもなく、
空とくっつくまで海が広がっていた。
水上列車というやつだろうか。

「あなたが逢いたい人がいるならば、この切符をお使いください」

見知らぬ男からそう言われこの現状に至る。
特に逢いたい人は、いない、はず。
それでも何気なく乗ってみたくなったのだ。

列車内にいるのはきっと人ではない。
黒くて赤い瞳が2つついた影のようなもので、
それでも多分心はヒトと同じなのだろう。
驚かなかったのかって?僕は知っての通りオカルト好きだし、
あまりびっくりはしなかったよ。

『フォーマルハウト。フォーマルハウトに到着です』

車内アナウンスが鳴った。
黒い影がぞろぞろぞろぞろ、降りては乗って。
その中で少年が飛び乗ってきた。
身長こそ小学校高学年ぐらいなものの、
それ以外の外見は薄い布のぼろぼろの服に
髪の色は銀髪と今の日本では見られない格好だった。
肌も褐色だからおそらく向こうの暑い地域の子だろうか?
少年はその手に小さな花束を持って自分の隣に
すとん、と腰を下ろした。

『列車が、発車いたします。ご注意ください』


かたたん、かたたん。
ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ。

あまり駅には止まらないみたいで、
このあとひとつ止まったら終点のようだった。
せっかく人が乗ってきたのだし少し話しかけてみようか。
「ねえ、君はどこに行くの?」
隣で俯いていた少年に声をかける。
すると彼はこちらへ顔をあげて、へにゃっと笑ってみせた。
「わからない」
わからない。ただそれだけ言った。
自分だってどこに行くのかわからないのだ。
だからこれ以上深く訊く必要はないのだろう。
「そっか」
自分たちだけじゃない、
もしかしたらこの列車に乗っているヒトは
自分の目的地なんか分かっちゃいないのかもしれない。

『アルタイル。アルタイルに到着です』

何回目かの停車アナウンスだ。
すると少年はぴょん、と席から飛び降りて
ドアの方へと走って行った。
そのドアを通る瞬間。
彼の体はたちまち成長し銀髪の青年になり、
花束があったその手には短剣が握られていた。
一体どういうことなんだろうか。
でも確かに分かったのは
彼はこの後暗闇に進むということだった。




彼岸列車 1

2013/10/03

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