救いの祈り
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君と禁忌の密約を
血まみれの父上を見た時、全身の血が燃えたぎるようだった。
これは何の感情か。
恐怖か、怒りか。
華族である以上、どこかで恨みでも買ったか?それとも金目当ての賊か?
すぐに客間を出て玄関の横の部屋へ入り、薙刀を取る。
自室へ向かおうとした時だった。
『賊が!!』
名前は見逃さなかった。
鍛錬だけですでに達人の域に達している名前は薙刀を素早く横へ突き上げる。
「グァッ…」
賊は悲鳴をあげると床を転げた。
ぴしゃりと賊の血が赤い絨毯を汚してドス黒く染めていく。
『ここを名字家と知っての狼藉か!』
気高き咆哮。薙刀を賊へ向けると、ふわりとドレスの裾を広げた。
『!』
賊は人とは思えぬ速さで肉薄するとその鋭い爪で襲いかかる。
しかし名前の懐には入れない。名前はその賊の特徴的な爪と肌の白さを見ると眉を顰めた。
父上の仇の顔を見てやろうと先程は見えなかった顔を見やると、驚きで瞬く。
『正一様…?なぜ…かようなモノノ怪に……それではまるで…鬼ではありませんか…!』
黒く染まった眼球に赤い虹彩、青白い肌に不可解な刺青のような痣。
正一は聡明な青年だった。その瞳にはいつも深い知性が宿っていた。体は丈夫ではなかったが、歳を重ねると共に人並みの生活ができるようになった。
しかし、いまの正一の瞳には理性のかけらもない。
あるのは獣のような
「ニンゲン……食わせろォ…!!!」
食に対する本能だけだった。
私は見たことある、この景色を。確かにどこかで…
霞がかかったような感覚に沸騰していた血が冷めて体の力が抜けてしまう。
なぜ、なんだと言うのだ、目の前に鬼が…
「炎の呼吸壱ノ型 不知火」
勢いよく炎が飛び出した。そのまま鬼を…正一を、その頸を袈裟斬りする。
名前は薙刀を手から取りこぼした。
普段ならこんなことは絶対にしないのに、目の前の光景が頭から離れない。
わたし、絶対にこれをどこかで見たことある…
ばさりと翻った羽織からのぞく黒い詰襟には"滅"の一文字。
鬼殺隊
炎柱 煉獄杏寿郎
頭を巡るその情報に、とうとう私は意識を手放した。