救いの祈り



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   それが2人の決まりごと





  ひゅんっブォン、ヒュッ

日本家屋と洋館が並び建つ広く大きな屋敷で薙刀を振るう少女がいた。

武家華族である家の屋敷の娘、名前は赤い括り袴に上は洋花があしらわらた着物を襷掛けにし、日本人としては透けるような白さの細腕を晒していた。

武家の娘の教養である薙刀は、今や本質的な武器としてより護身術としての意味合いが強く、名前も例外なく嗜んでいる。

しかし、それは嗜みという度合いを超えていたのは素人でも分かることだろう。

まず、素人の目では名前の動きが目に追えない。
その場から一歩も動いてるようには見えず、ただじっと構えているようにしか見えないのだ。

武術を嗜むものならば、この動きを追えるものも居るだろう。
しかし、その速さとなによりその細腕からは計り知れない力強さに驚くことだろう。
そして当の本人といえばこれが日が高くなる前の毎朝の日課であり、息一つ乱さずに終える。

華族の令嬢としての嗜みは多く、薙刀のほかに華道や茶道、日本舞踊に琴、三味線に書道にピアノやヴァイオリン、刺繍に社交ダンス…と数え出したらキリがない。

名前はさっと髪を整えるように撫でつけると、高くなってきた日の光を避けるように屋敷へと戻る。
透けるような白さのこの肌は、長い時間強い日の光に当たると火傷のように真っ赤になってしまう。
その度に母上からお小言を頂戴するので参ってしまう。

自室に戻ると女中に申しつけることなく着物を脱ぎ、洋服を手に取った。

名前はお洒落が好きで拘りがあるため、女中はドレスでもない限り着替えは手伝わない。
脱ぎ捨てられた着物を手に取ると下がった。

洋服用の下着身に纏い白いレエスのワンピースを手に取る。ウエストがきゅっと絞るように、赤いベルトをつけ、細いストラップのついたパンプスを履く。
鍛錬のため一括りにしていた髪をほどき、慣れた手つきで三つ編みを作るとラジオ巻きにして赤いリボンを飾る。

足の動きにあわせ揺蕩うワンピースに満足し姿見から目を外すと朝食をとるために食堂へ向かう。

すでにそこには背広をしっかりと着た父上が新聞を広げ珈琲を飲んでいた。

挨拶を交わし席に着くと父上が新聞から目を離しこちらをついと見ると威厳のある声で静かに告げた。

「今日は正一君が夕食をとりにくる。お前なら大丈夫だろうが、めかし込んでおくように。」

一般庶民からすると珍しい洋装だが、華族は近代化のため常に最先端にいなければならない。当然夕食も洋服だろう。

『お任せください父上。華族として恥じない服装をいたしますわ。』

しかと頷くと朝食が運ばれてくる。
母上は病を患っておりこの場に来ることが叶わないので食事はいつも2人で摂る。

父上はどんなに忙しくとも朝食だけは私と共にとる。

私は夕食に向けてどの服を着ようか、と思案を巡らせる。

この時私はこれが最後の家族との朝食になろうとは考えもしなかった。











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