思い知る。
私の自己満足だったのだと。
自己満足であり、罪だったのだと。
彼は、私の好意なんて、これっぽっちも欲しくなかったのだ。ほんの少しだって嬉しくなかったのだ。私の好意は、彼にとって一生の恥にしかならにかったのだ。

宇宙空間に取り残されたように精神と意識と思考がユラユラと浮遊する。
――――私の想いは、そんな、顔を歪めるまで拒絶されなければいけないほど、忌ま忌ましいものなのか――――。

勘違いをしていた。
いくら失恋しようと――彼の自尊心くらいは満たしてあげられるのではないかと、一人の人間に恋情を抱かれたという、裕福感や優越感に似た心地を抱いてもらえるのではないかと。そんな醜くも汚らわしい打算を立てていたことが本当に恥ずかしい。身が焼けるように恥ずかしい。
馬鹿な思い上がりだ。
痛々しくて目も当てられない。
少し考えればわかるだろうに。
こんな昔話に出てくる鬼女や醜女のような顔をした女の好意を、誰が喜ぶことがあるというのだ。
彼は心底傷ついたような、それでいて悪夢を見ているかのような、そんな顔をして――――その場を去る。

泣き方が、わからなかった。

どうやって泣けば、いいんだろう。
そもそも私に泣く権利などあるのかすらわからない。
泣いても――いいのかな――?
柔らかい花びらで彼の心臓を切り刻んだ私に、そんな我が儘が、許されるのか、どうか。
しかし、私はそこで気づく。
失恋しても――――こんな惨めなフられ方をしても、悍ましい私には泣くことも許されないのか。私は、そこまで気持ち悪い存在なのか。
そう思うと、息ができないほど胸が苦しくなる。思わず両手で胸を押さえて体を丸めた。ダイヤモンドのように硬質なものに殴られているみたいだ。嬲りものにされて――それでも悲鳴もあげられず、泣くことも許されない。
汗がこぼれ落ちて髪や床を濡らす。目に汗が入ったせいで眼球がキリキリと痛んだ。
でも私は彼のことで泣くことはなかった。

告白現場を見ていた生徒がそれを周りに広めて、告白した彼が人気者だったことから素早く学校中に広まり、それから彼が――――いや、私が――――どんな扱いを受けることになったのかは、語らないほうがいいだろう。

泣くことさえ出来ない私が、唯一自分の為にしてやれる、最大の慈悲だろうから。





A

「あっれー、今日も朽崎ちゃん来てないんだ?」


秋がハの字に眉を歪めてあたりを見回しながら行った。
ズボンの裾は何やら泥まみれで、手も僅かながら汚れている。この調子じゃ、またミステリーサークルを作っていたのだろうと伺える。というかミステリーサークル作るってなんだ、ずっと疑問だったんだが、お前がミステリーサークルを作っているのを知ってから俺達にとっては全然ミステリーじゃないんだが。


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