私の顔を見て、誰もが誰も、みんながみんな、私のことを恐怖していた。あの有名な映画に出てくる、仮面を被ったチェーンソーの怪物・ジェイソンを見たときの役者の反応だって、もっと穏やかで鈍かったはずだ。私を相手にしたときの彼ら彼女らの反応はそれよりも烈しく鋭い。私が一歩近づくだけで、優に五歩は後退する。口を開くたび――開いた拍子にぱっくりと開く傷口を見るたび――甲高い悲鳴をあげて目を覆うのだ。
私は辛かった。辛い、という言葉では追いつけないくらいの辛苦だった。
鏡を見るたびにその顔を呪った。窓硝子や消したテレビ画面に映るたびにその傷を呪った。
毎朝毎夕毎晩泣いていたような気がする。周りの冷酷な視線に慣れることなどありはしなかった。まるでノコギリかカッターナイフのように私の心を傷つけて。きっと胸を開けたのなら私のそれは血まみれだったに違いない。痂を作る暇も無くザクザクと突き刺され続ける――今にも壊れそうな脆い自我。冷たく硬質な宝石のような痛み。あの頃の私は悲哀を極め、息をするだけで傷つくことが出来た。
いつの日か傷口を晒すのを辞め、マスクで口元を隠すようになった。髪を長く伸ばしなるべく頬を隠せるように努めた。私の傷が消えたわけではないが、見えなくなることにより周りの目は緩和された。マスクは息苦しく、夏は暑い。でも、あの残酷な扱いを受けるには、私の心は弱すぎた。私にはもう、あの視線に立ち向かうだけの勇気がなかったのだ。

ある日――――好きな人が出来た。

彼は明るく優しくいつも元気で、所謂クラスの中心人物。顔は特別整っているわけではないけれど、女子ウケのいい精悍な容貌をしている。そして何より、傷やニキビ一つ無い健康的で綺麗な頬に、私は憧れを抱いた。

そして、私は告白した。

別に付き合えるとは思っていなかった。駄目元もいいところだ。玉砕覚悟。百発百中でフラれるという確信すらあった。彼はきっと申し訳なさそうに謝るんだ。ごめんなさい、と。それでもよかった。この気持ちを伝えられるのだ。後悔はない。大人になったとき、彼の記憶の中に“告白してくれた女の子”として私が残っているのなら、それだけで十分だった。それだけが、充足だった。
しかしそれは、愚かで馬鹿な私の、ただの甚だしい思い上がりなのだと知る。

やめろ、と言われたのだ。
勘弁してくれ、と言われたのだ。
ふざけるな、と言われたのだ。
気持ち悪い、と言われたのだ。

私が告白した途端――彼はこの世の不幸を一身に受けたような――そんな、怒気まで孕んだような悲惨な顔を、したのだ。


*prev|next#



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -