青白い顔の奴の目の前の低いテーブルの上には、ばらりと広げられた青い折り紙。そしてその紙上にこんもりと乗せられたゴマ塩。しかも乗せられたゴマ塩とは別で小さな山が二つほど出来ていて、その山の片方はゴマしかなく、片方は塩しかない。傍らの明らかに非売品っぽい、企業がチラシと一緒に配るような淡い色のポストイット。そこには“ゴマ”と“塩”の字が丁寧な字で記されており、その下には夥しいまでの“正”の字が羅列していた。
なんと健気な……こいつわざわざ数えてるぞ。健気すぎて打ち震える。次から遊馬のことを“オスシンデレラ”と呼ぶことも吝かではないな。健気そうだし。顔色は全く健やかじゃないが。


「どうせ僕が数えてるの終わったら答え写す気なんだろう? 絶対に見せてあげないからね」
「あ。ちなみに遊馬。ゴマ塩の比率だったら大体8:2だよ」
「なんだって」


否見の軽薄な呟きに遊馬は狂ったように反応した。遊馬には笑いが滲み出ているがそこに嬉々としたものは感じられず、むしろその性質としては鬼気に近い。もうすぐ崩れ落ちてしまいそうなジェンガが如く不安定さ。遊馬は口角を引き攣らせて、うたぐり深そうに否見の言葉に耳を傾ける。


「え? だから。ゴマ塩の比率は8:2…………どこも大体こんな比率だと思うよ。実際公開された一般常識の部類だし」
「……………な、に……」
「あっ。もしかして、びっくりした?」


悪戯っぽく、それでも軽快かつ平淡に、否見は包帯で見えない口角を吊り上げて怪しげに首を傾げる。


「え、びっくりした? びっくりした?」
「……否見……なんでそれを最初に僕に言わなかった……」
「数えたいのかな、と思って」
「そんなわけないでしょ!」


張り詰めていた糸がプツンと切れたかのように遊馬はその場で崩れ落ちる。今まで懸命に勘定していたゴマ塩に頭から突っ込んで「ゔ……痛……」と鈍る声を漏らしていた。そこから、電池を切れたかのように動かない遊馬に、秋は「大丈夫かー?」と聞きながらゴマ塩を啄む。俺も一つ摘んで舐めてみた。今日の昼食はゴマ塩に決定だな。


「でも、それを知ったなら宿題はもう極めたも同然ですね」
「あー……でも朽崎ちゃん。どうレポートにするかも問題じゃねぇのかな」
「遊馬瀬さんがいるじゃないですか」
「“ゴマ塩の比率を手勘定した人間の精神状態について”」
「それだ!」
「それじゃない」


じょり、と音を立てて、遊馬が顔をこちらに向けた。案の定塩まみれだった。焼いたらうまそうだな。馬肉ステーキソルト! じゅるじゅる。


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