「んー。まだ一時五分かぁ……昼休みはいつ終わんだよ。これじゃまるで身動きが取れない」
「なんだ秋、どっか出掛けるのか?」
「とりあえず公園の方まで。ミステリーサークル作ろうかな、って」
「やめなよ秋。この前なんか他人の田んぼに勝手に作ってたしすごいニュースになってたじゃん。まだネット上じゃ話題がやまないよ」


否見は携帯を弄りながら答える。こいつは俺達の中で唯一携帯を所持している人間だった。だから、否見が提供してくれる情報が俺達にはニュース代わりとなっている。俺が影で人間ラジオと呼んでいるのは言うまでもない。むしろ言う必要もない。


「それに、あの切り裂き魔事件のこともあるだろう?」
「まだ犯人は捕まってないのか」
「みたいだ」
「最近は生命を軽く見て踏みにじる輩が増えて困るな。小学校のころに総合の時間育てていたプチトマトを枯らしたタイプの人間に違いないぞ。命の大切さを身近に感じるのは、いつだってプチトマトの生長からだというのに」
「私、枯らしちゃいましたね」
「俺サボテン枯らしたことあるぜー」
「はあ……お気楽な冗談はほどほどにしてよ深夜。事件はこの近くで起きてるって否見も言ってたじゃない」
「なんだ遊馬。お前もプチトマトを枯らしたタイプの人間か」
「やっぱり。私と同じですね!」
「みくびってもらっちゃ困るな。僕はミニバラだってきちんと育て上げた人間だ。しかし、それはさておきだよ。流石にその切り裂き魔と僕らが遭遇する確率なんてそうないとはいえ、実際遭遇した人だって僕らと似たような心境だったに違いないよ」


――こんなことになるなんて思ってもみなかった――か。
やっとゴマ塩ショックから立ち直ったのだろうか、いつもの余裕のある流暢な調子で遊馬は言う。しかしな、遊馬。今のお前の顔面は手羽先よりもゴマ塩だ。


「それに、わかるかい? 僕、いや、僕らは、もし遭遇したところで、助かるようなすべがないんだよ」


それに関しては溜息をつくしかない。
俺や遊馬、秋に否見に新たに仲間として加わった朽崎など、摩訶不思議高校夜間部に通う連中は、ならず者と言っても過言ではない人間ばかりだ。もし切り裂き魔に襲われて運よく病院に搬送されたとしても、払えるだけの治療費を持ち合わせていないのだ。もし俺が、不運の事故で雀の嘴が降ってきて脳髄を貫通してしまっても、治療できる分の財産がない。もう殆ど無一文だ。正直に言おう。公園の鳩のほうが俺より飯食ってる。だってパンくれる人間がそっちから勝手にくるっくー。ぶわははは、なかなか面白く仕上がったな。流石は俺だ。


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