サトミさんのお料理教室

―――良ければ家に来る?

そんなサトミさんからの誘いがあった。

最近料理を初めて 元より知識はあったから技術が追い付けば特に問題は無いのだが
折角なのでレパートリーを増やしたいと話したのが切っ掛けだ。
今まで読んだ本は簡単な洋食が多かったから 和食も作りたいと思った。
おにぎりなら未だしも弁当の時から洋食が多かったから。
"家に行く"と言うのは気が引けたが神父サマも行って良いと言われたので御願いすることにした。



「誰かの家に侵入するのは久し振りです」
「…イヤ…"侵入"じゃないですから。"訪問"ですから」
一般宅にお邪魔するのに神父サマを連れて行くのは間違えだったか。






「いらっしゃい まち君。神父さんも」
笑顔で出迎えてくれるサトミさん。

今は平日の昼頃だから旦那さんは会社へ 息子さんと娘さんは学校へ行っているらしい。

まさか子供が二人共 中学生だとは。
もっと小さい子だと思っていた。

それから毛足の長い小型犬。
オレを威嚇して神父サマに怯えていた。




「何作りましょうか?」
「何でも良いですよ」
「じゃあ"お袋の味"定番の肉じゃがにしましょうか」
「………定番なんですか?」
「家(うち)は違うけどよくそう聞くわ。真偽は何とも言えないけどね」
ニコニコとサトミさんが教えてくれた。

「じゃあ それでお願いします」

こうして怯えた犬に構う神父サマをしり目に料理教室は開始された。




それから数時間。
ついには震えさえ止め死んだように神父サマの膝の上に踞る犬。
サトミさんは「あらあら神父さんの事気に入ったのね」なんて悠長に言っているが そろそろ助けないと緊張で死ぬんじゃないか…?

「今日はこんなものかしらね」
肉じゃがを鍋にかけている間にも何品かの料理が出来た。
簡単なきんぴらや和え物も教えてもらった。
「神父サマー。ちょっと食べてみて下さい」
基本は神父サマの為に作るのだから味の最終確認は神父サマに聞いた方が良いだろう。
何より犬が解放される。

「じゃあ遠慮なく。いただきます」
ぱくりと一口肉じゃがを食べる神父サマ。
オレは味見で食べたから大丈夫だと思うのだが。
「どうですか?」
初めて料理した時並みに緊張して待つ。
「…」
ゆっくりと咀嚼しやっと飲み込む神父サマ。
「マチクン」
「な 何です?」

「美味しいです」

ちょうど良い濃さですよ。と言われ思わず心の中でガッツポーズしたものだ。
最近気付いたのだが どうやら神父サマは濃いめの味付けが好きらしい。
だからサトミさんに普段家で作るより濃いめの作り方で教えてもらったのだ。


「ごちそうさまでした」
綺麗に空になった皿を持って台所へ戻ると サトミさんに「良かったわね」と言われた。
顔に出ていたらしい。

食器を洗い終わるともう日が傾いていた。
アレンジの方法やオススメのドレッシング何かも丁寧に教えてくれるサトミさんは優しい人だ。

「じゃあそろそろ私たちは帰りますね」
「今日はありがとうございました。お邪魔しました」
子供達が帰って来ると言うので玄関まで行き挨拶すると
「これ お土産。説明は袋に書いて有るから」
そう言って何か重い物の入ったエコバックを渡してきた。
「このバックは返さなくて良いから。使って?」
本当に優しい人だ。
「何から何まで 本当にありがとうございます」
もう一度頭を下げる。
隣で神父サマもサトミさんにお礼を言っていた。

「良いのよ。また来てね」
「はい」

そう言ってサトミさんの家を後にした。






「袋の中身って何だったんですか?」
教会に帰ってきて夕食の準備に取り掛かると 神父サマが椅子に座って聞いてきた。
「ぬか漬け用の糠床とキュウリが入ってました」
「ほぉ。キュウリまで。流石はサトミさん」
「そうですね。さっき漬けたんで明日の朝には食べれますよ」
「では楽しみにしてます」
「えぇ。楽しみですね」


end

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