人の見分け方

神父サマの高校時代
僕は優等生だ。

「××。お前また学年一位だ」
先生が褒めてくる。

「××会長 これ今月の予算表です」
誰か 多分役員だろう奴が紙の束を寄越す。

「××君 いつもありがとう」
クラスメートであろう彼が流れ作業でお礼を言う。

「いいえ。大丈夫ですよ僕は――…」

何て言ったっけ?
機械的に繰り返してきたから 覚えてないや。
同じ笑顔で何かを言った。


いつからかも分からないくらい前からずっと
俺は"僕"と言うように言われた。
敬語を使うようにと言われた。
平等に聖人を演じ 人より優れるようにと言われた。

勉強 運動 気遣い 何でも。

平等にって言われ続けたら 人の見分けがつかなくなった。
瞳に映した顔は脳まで届かず拡散してしまう。
等しく接するんだから区別する必要がない。
それは親も同じ。
僕も同じ。

皆 名前も顔も判らないけど

どうせ 人 だ。

俺は僕の裏で息を潜めた。







近頃は夜になると俺が出てくる。
二重人格の副人格として。多分そんな感じ。

街を彷徨き 煙草を吹かす。

でも喧嘩はしたことがない。
いつも一方的な暴力で終わるから。

毎回痛いのは嫌だから拾ったナイフやパイプが専らのエモノだった。



僕は誰も区別が付かないないまま卒業した。
結局俺には誰も気付かなかった。



大学は親も卒業した有名な所だそうだ。

この頃には僕も大概おかしいらしくて 自分も人の一つだから自分の名前すら分からなくなっていた。
ただ聞き慣れているから人に呼ばれたり 用紙に書いたりする時は反射の様に十分反応出来た。


大学でも僕は優等生だった。
しかし俺が大きくなりだしていた。
僕を押し退けて 夕方には街にさ迷い出でる。

気付けば 殺人鬼の称号を得ていた。
僕の賞状やトロフィーの並ぶ部屋で 初めて俺が手にした称号だった。

初めてはいつか判らない。
高校時代の暴力の中に混ざっているかもしれない。

実際最後の暴力もいつかは知れない。


そして何人目かの被害者として


俺は僕を殺した。



大学を四年目に迎えた頃 俺は俺が一度も行ったことの無い大学を退学した。
出席日数はどうせ足りていなかった。

平等に。が好きな親たちは 今まで俺が人にそうしたように"平等に"殺した。


ぐちゃぐちゃな親たちは俺を生んでくれたお礼に火を付けた。
そしたら新聞上では僕までこの時に死んだ事になっていた。

今更僕の死は掘り起こされ 俺は浮き彫りにされた。

僕は被害者 俺は殺人鬼。
オシイけどハズレ。







俺は着実に変わっていた。

俺に残る僕の平等は揺らぎ 一度は態と見逃すこともあった。


そしていつからか未だ付きまとっていた僕の亡霊と統合し俺はやっと一つの人格

"私"になった。

私は初期の俺たちに最も似ていながらに掛け離れた 自由な殺人鬼だった。



私にも慣れ また気紛れを楽しんでいたその時 あの頃から平等から外れてた"特別"に再会した。

あの日から私を待っていたように。
彼は現れた。

いつかの記憶から
俺のか僕のか誰のか判らない寄せ集めの名前が私の名前になった。

彼 マチクンは始めて私の見分けられる人だった。


彼に逢ってから
正確には私自身も自分の名前を認識してから 私は自分の顔も始めて知った。
俺や僕もこんな目をしていたのかと始めて考えた。





最近は人の区別も付くようになっている。

私 マチクン 新倉サンに サトミさん…
名前も呼び分けている。


見分けられると面白いもので 笑う以外にも表情は多彩だと気付いた。




あぁ。
見分けられると玩具にしなくても 表情だけで随分と楽しめるものなんですねぇ。


end

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