禁殺週間解禁

オレが住まわしてもらっている教会の神父サマは 禁欲週間ならぬ禁殺週間を実施しているらしい。
実際は欲を抑えているわけだから禁欲のままの言い方で問題はないと思うんだが。

「お休みなさい。マチクン」
笑顔で言ってくるこの神父サマが殺人鬼と呼ばれる程 人を殺してきているとは正直驚きだ。

だが事実 オレの母親も殺している。

神父サマの昔なんてオレの知るところではないが 多分今が一番楽しいのだろうと思う。
それほどに神父サマの笑顔には嘘がなかった。







カツ………

カツ………

眠りに落ちようとしていたオレの耳に微かな音が届いた。
一階からだ。
神父サマのと違う

足音。

―――侵入者だろうか?

音の主は第三者なのだから必然的に答えはそうなってしまう。

―――確認するか。

何の用かは知らないが放って置くわけにも行かない。
泥棒の類いならば少し手荒になっても帰ってもらおう。


音を最小限に押さえて部屋の扉を開ける。

「おや。マチクンも起きてしまいましたか」
不意に聞こえた声に振り向くと神父サマが丁度目の前にいた。

侵入者とは違う 限りなく無音の動作。
「…まったく。こんな夜中に無粋な人ですねぇ。煩くて眠れません」
決して大きくはない足音の主に階段越しの一階を見ながら呆れた様に溜め息を吐く。

「ちょっと注意して来ますね。私にも我慢の限界って有るものですから期待は出来ませんが」
「は?それってどうゆう…」
「音便に済ませたいんですが 相手の対応次第って事ですよ」

そう言った神父サマは何処と無く楽しそうだった。





―――マチクンは寝てて良いですよ。

神父サマにはそう言われたが 神父サマがどうするのか気になったオレはそっと後を追った。

「―――何の用ですか?」
丁度神父サマが侵入者に話し掛けたところだった。
急に真後ろに現れた神父サマに驚いた侵入者が振り返ってきた。
月明かりに浮かぶ姿は身形の悪い猫背の男だった。

「………何だお前は」
無理もないが自分より若い私服姿の神父サマを見て よもや神父だとは思わなかったようだ。

「ここで神父をやっています」

「へぇ…神父さんかい」

男の確実に馬鹿にした声が響く。
「じゃあ神父さんよ。俺にもお恵み下さいよ」
どうやら金や食料を盗みに来たらしい。
最近は人の出入りも有るからその噂でも聞き付けて来たのだろう。

「そうですねぇ…」
さっさと追い出しでもするだろうと思ったのだが 違うみたいだ。

「じゃあ……」

嫌な予感がする。

「神様の元へ送って差し上げましょう」




ほらね。







…………

どうやったかは判らないが手ぶらだった筈の神父サマは 男の首に手刀を落とし

後は千切っては投げ千切っては投げ状態。

初期段階で見るのをやめて部屋へ戻ったのだが 眼を瞑れなかった。

寝不足のまま一階へ降りると男の形跡は何処にもなかった。
コンビニへ二人分の弁当を買いに行き戻って来ると 神父服に着替えた神父サマが満面の笑みで出迎えてくれた。

食事中
「普段はあそこまで細かくなるまで遊びません」
安心して下さい。と言われ何の気の間違いが買ってきてしまったハンバーグが食べれなくなった。



あの人は不法侵入したけど ちゃんと神様の元へ行けただろうか。


end

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