エプロン

マチクンが料理を始めた頃の話。
「マチクンは料理とか出来ます?」
始まりは神父サマのそんな一言。
「…いえ 作ったこと無いですね。あんな生活だったし」
「あぁ。そう言えばそうですね」
礼拝堂で椅子に足を上げて座るマチクンに後ろから近付いて来た神父サマが苦笑する。
少し残念そう。
「一応知識は有りますから…作ってみましょうか?」
マチクンが提案してみる。
台所には度々人から貰うのか食材や調味料が意外と揃っているから直ぐに始められる状態だった。
「良んですかっ!?」
何やらお楽しみ中位の高いテンションで言われてしまい やっぱ無しとは言えない雰囲気が漂う。
「…努力します」

普段は基本的に散歩&ケンカのついでにマチクンが弁当を買ってくる。
しかし毎食コンビニだと収入が無いと言っても過言ではない二人の状況ではキツイ。かもしれない。

何よりも飽きた。

マチクンに至っては名前と値段が空で言える位お馴染みとなっている。

「お待たせしました」
あれから一時間。
味噌汁や玉子焼きなど数品の料理がテーブルに並んだ。
「見た目はそれっぽく出来ましたけど味見はまだですんで期待しないで下さい」
台所からマチクンが声をかける。
言ったとおり昔読んだ料理本をもとにしたらしい料理は見本のように綺麗に盛り付けられている。
「初めてとは思えませんね」
神父サマも予想以上のクオリティに驚いたらしい。
「…もし毒味役買ってくれるんでしたら先に食べてて良いですよ」
「え?毒入れたんですか?」
「イヤ…味見って意味ですから。本気で聞き返さないで下さいよ」
まさか本気で毒を入れたと思われるとは思っていなかったマチクンは呆れた様に返す。
「何よりここには毒なんて置いてないじゃないか」
フライパンを洗いながらの呟きは神父サマには聞こえなかった。

マチクンが洗い物をする中 神父サマは料理に近付いて行きそのままヒョイと玉子焼きを摘まんで口に放り込んだ。
「…」
椅子に手をかけたまま口だけを動かし続ける。
ゴクン。

「マチクーンっ!」
次の瞬間には台所にいるマチクンに後ろから抱き付いていた。
「何ですか!?」
「スゴいじゃないですか!私としてはもうちょっと濃くしてくれると嬉しいのですがこれでも上出来じゃないですかっ。誰も初めてとは思いませんよ!」
目を輝かせ力説する神父サマ。
「あ…ありがとうございます」
突然の慣れない褒め殺しに少し赤くなるマチクン。
「…アレ?マチクン濡れてます?」
少し落ち着いてきた神父サマは服が濡れている事に気付いた。
「えぇまあ初めてなんでてこずってる内に色々飛ばしたようで」
服自体は目立ってないが水だけでなく醤油とかも飛ばしたようだ。
「まぁ良いじゃないですか。取敢えず洗い物も終わったんで食べましょ」
そう言って引き剥がした神父サマを連れ マチクンはテーブルへ歩き出した。

「いただきます」
「意外にちゃんと言うんですねぇ。じゃあ私も。いただきます」
今度は箸を使って食べ始める。
「あっ本当だ。もう少し濃くても良いかも」
「これって本に載ってたんですか?」
「そうですね。拾った本の中の一つに載ってたのを参考にしました」
「分量も?」
「はい。ある程度覚えてたんで」
「凄いですね」
「記憶力は良い方みたいです」
そんな会話をしながら料理は着実に減っていた。
「マチクン 今度からも料理作ってくださいよ」
「そうですね…結構楽しそうですし こんなので良ければ」
「わぁ。ありがとうございます」
「いえ」
「じゃあ明日は楽しみにしてて下さいね」
「? わかりました」

次の日。
「マチクン マチクン」
礼拝堂にいたマチクンに声を掛けながら入ってきた神父サマは
「はいコレ」
そう言って紙袋を渡してきた。
「何ですか?」
「エプロンです。洋服汚れちゃわないように買って来たんですよ」
…いつの間に。マチクンはそう思いつつも袋を開ける。
「…コレは」
「エプロンです」
その手に持っていたエプロンは真っ白で肩や裾にフリルの付いたものだった。
「おかしいですかね?付いて来た女子学生が一緒に選んでくれたんです」
その女子学生が誰が着けるか判ってて選んだかは謎だ。
「いえ。白って汚れが目立っちゃうでしょうから…なんか申し訳ないです」
「良いんですよ。そんな事気にしなくて」
「そうですか?ありがとうごさいます」
そう言ってマチクンはエプロンを着けて台所に向かった。

そしてマチクンは 前に読んだ料理本に載っていた料理研究家が同じフリル付きエプロンを着けていたためそのデザインに疑問を持つことはなかった。


end

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