ウシロヘススメ。
俺はしがないサラリーマンで
特に真面目な恋もしたことの無い八方美人。
付き合いは浅く広く
安全第一がモットー。
そんな俺がある日
女の子を拾った。
◆ウシロヘススメ。◆
「ねぇねぇおじさんー」
どうしてこうなった。
「おじさんてばぁー」
何がどうなった。
「おじ…「聞こえてるからっ!先を言え先を。後"おじさん"じゃなくて せめて"おにいさん"と呼べ」…………………おにぃさん」
そんなにおにいさんは不満か。
まだおじさんと呼ばれる歳じゃないと思いたい。
特に今後ろを着いてくる
この女子高生には。
例えこいつが高一だとしても大学を卒業して直ぐに就職したから十以上は離れてはいない筈だ。
寧ろ制服に不釣り合いとも言えるバッチリメイクのこいつの方が私服なら歳上に見られてもおかしくは無いだろう。
始まりは些細なもので会社帰りにいつもの道を通った時の事だ。
人通りの少ない薄暗いその道に人が倒れていた。近付いて確認すればこの町にあるとある高校の制服でカバンや生徒手帳も無く 果ては靴下姿で靴を履いてなかった。
まさか事件にでも巻き込まれたのかとも思ったが目立った外傷はなく幸いレイプの類いでも無いようだった。
しかしながら流石に放って置くなんて事は出来ず後数分の自宅に連れ帰った。
彼女の目が覚めたら今度は俺がヤバイ気もしたが其については追い追い考える事にした。
如何せん寒かったのだ。
ベッドに寝かせ電話を手に取る。
平々凡々な俺には何故か医者になった友人がいたもんだから 都合良く使わせて貰うことにした。
友人は丁度仕事あがりで文句を言いつつも家まで来てくれた。
よし。今度酒でも奢ろう。なんて考えながら未だ眠る女子高生を伺って見たがまるで人形の様に動かない。
友人は脈やら何やら確認する素振りを見せたが 数分も経たない内にこっちを向いた。
「取り敢えず大丈夫そうだけど詳しいことはちゃんと検査しないと判らないからな」
この子の目が覚めたらで良いから病院に来るように伝えてね。後身元不明なら警察も電話しないと。
頑張れ〜。と異様な笑顔で軽く言ったかと思えばさっさと帰ってしまった。
幾ら信用されていたとしても 女子高生を部屋に寝かせているこの状況は打開したかったと云うのが本心で。
数分前連れ帰った俺を呪いたいが無意味なので止めた。
手を出す気はないがが世の中勘違いが一番怖い濡れ衣だ。
冤罪で犯罪者とかいたたまれないじゃないか。
と 頭を抱えるのは早々に切り上げて携帯を取りに行く事にした。
警察に連絡は避けられないだろう。
目覚めた彼女が有ること無いこと話す前にちゃんと疑惑は晴らしときたいし。
…
結果から言うと電話をすることは叶わなかった。
原因は例の女子高生。
寝惚けたのか俺の袖を握って離さなかったのだ。
しかも携帯は手を伸ばしても届かないクセに目の前に鎮座していた。
結局無下に出来なかった俺は電話を諦めた。
「―――ん――さん」
そんな知らぬ声と肩への振動で目を覚ました俺。
そこには昨日眠り続けていた奴がいた。
ぱっちりと目は開いており 意外とあどけなさの残る声だった。
「おじさん」
彼女は其を繰り返して俺を叩き起こしたようだ。
「………何だ?」
疑問は多いだろうし何言われるか判ったもんじゃない。
俺は妙にスキンシップの多い女子高生に少し身構えた。
「おなかすいた」
ホント
何言われるか判ったもんじゃない。
しょうがないから二人分の冷食を解凍してだせば彼女は何の疑いも無く其を食べた。
順応性が早すぎると思うのは俺だけじゃないだろう。そして俺は会社を休んだ。
やはり原因はこいつで 異常になつかれていた。
後から抱き着いては首を絞められ 興味を示せば其を壊して回られた。
子供の相手をするような 数分で随分歳を取った様な疲労感に襲われながらもこれ以上部屋が惨状になる前に外へ連れ出すことにした。
丁度良いから病院に連れていくことにしたのだ。
今の俺からしたら託児所代わり。警察への電話も医者に預けてからでいいだろう。
と思っていた。
離してくれなかった。
端から見たらせめて兄妹に見えてることを望みつつ友人の勤める病院に行くも何やら怯えた彼女は離れるのを断固として拒否した。
診察中もずっとよく判らない質問が他人の俺に回された。
知るか。
やっと診察から解放され待合室にいたら友人が深刻な顔をしてやって来た。
彼女は俺の肩を枕にまた眠っている。
この無防備さは逆に怖くなる。
友人が言うには彼女は幼児化しているらしい。
その為に警戒心が薄くなっているんだとか。
少しの間どうにか説得して俺が一人で煙草を吸いに行った間にした質問に彼女は至極真面目に"小学3年生"と答えたそうだ。
しかしそれが道端で倒れていたのと関係が有るのかは判らないらしい。
「にしてもお前なつかれてんな」
友人が他人事宜しく言ってくる。
「刷り込みでもしたか?」
冗談めかしてるが親認識とか哀しすぎるから。
強ち否定出来ない現状に溜め息も出てこなかった。
警察へは友人が連絡してくれることになった。
今のこいつの状態と行方不明者についての確認を取るのに医者の方が都合が良いと纏まったからだ。
決して俺が未だに電話できていないグズだからではない。
そして恐ろしいことに落ち着くまでこいつの世話は俺が見ることで決定した。
本当は然るべき場所に引き渡すべきだが 当のこいつがそれを拒んだ。
今になってみると"おじさん"でも"お父さん"よりはましだと思える。
気付けばこいつが爆睡したお陰で傾いた陽を背に浴びながら帰る時間となっていた。
黙らせる為スーパーで買った板チョコに酷くご執心な様子の少女がはぐれないように注意しながら 俺達は帰路に着いた。
俺はしがないサラリーマンで
特に真面目な恋もしたことの無い八方美人。
付き合いは浅く広く
安全第一がモットー。
そんな俺は結婚もしない内に煩くてなつこい子供が出来ましたとさ。
相変わらずの寒空の下 埋まった俺の右手はほんのり暖かかった。
end
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