センパイと一日一頁
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その後、センパイは卒業してしまった。
あの日以来、ボクがセンパイと話す事は一度も無くて。学校で姿を見掛ける事は有っても、やっぱり目が会うことだって無かった。
何処の大学に行ったのか、はたまた就職したのか。それすらもボクは知らない。
街で見掛ける事も無かった。
ボクはあの日あった出来事は夢だったのか。もしや妖精にでも出逢い、先輩という幻想を抱いたのか。とすら幾度となく考えた。
でも確かに、センパイはあの学校に居たんだ。
時は経ち、ボクも高校を卒業した。大した出来事は無いが、決して悪くは無い大学生活を過ごし、運良く一流企業への就職をして、そこそこの地位まで行った。
そこで出逢った同僚の女性と生涯を誓い、慎ましやかな暮らしの中、孫の顔を見た彼女はボクよりも先に帰らぬ旅に出た。
今は遠くでボクを待ってくれているのだろう。
そして。
今日はあの日から丁度65年経ったその日。
気が付けばボクも、案外長く生きたんじゃ無いだろうか。
センパイはどうしているだろう。ゆったりとした、あの日の様な空気が世界を占める。
既に、少女の最後を知らぬまま彼女と同じ所へ行ったのかも知れない。
もし未だだとして、ならば明日からはどうするのだろう。
ボクは、今日がセンパイの誕生日だとは知ってるが名前も知らない。
どうやって生きているのかも、誰と出逢い、話すのかも。
ホントに他人なのだ。
ボクは物語の中の少女と共に終りを迎え、彼女に逢いに行く。
根拠は無いけれど、
ボクにははっきりと確信が有った。
きっとセンパイは今頃、少女の終りを知るのだろう。
そして、
また穏やかに笑ったのだろう、と。
end
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