私達は今幸せです。
「ねぇ。結婚式くらいは挙げたかったわね」
彼女はポツリと呟いた。
「君が早とちりするからだよ」
彼は慰めるように言う。
「ごめんなさい。だけど貴方にウェディングドレスは見せたかったわ」
彼女は落ち込む。
「あぁ…そうだね。僕も見たかったよ」
彼も同調した。
「ねぇごめんなさい」
彼女が徐に謝る。
「どうしたんだい?」
彼は尋ねる。
「だって今の貴方は私に触ってくれないから」
彼女が泣き出す。
「そうだね」
彼が同意する。
「でも」
彼は続ける。
「今の僕はいつでもどこでも君と居られる」
「あの日、電車が止まってしまって良かったよ」
「おかしいと思ったわ。貴方が電話に出ないなんて」
「地下だったからね」
「私は馬鹿だったわ。貴方に限って浮気だなんて」
「怒った君は帰って来た僕を刺した」
「動転していたの」
「話も聞かずに何度も何度も」
「そんな私を恨まないでくれてありがとう」
お陰で私は今も貴方と居られるわ。
「あの時は恨んでくれてありがとう」
だから僕は君とずっと居られる。
「僕が見える目で良かった」
「貴方が見える目で良かった」
「天国になんか行かないわよね?」
「勿論。君と行けるようになるまで待つよ」
「でも私は地獄に落ちるかもしれないわ」
「だったら僕が呪い殺してあげる。そうすれば僕も人殺しだ」
「嬉しいわ」
「君が出所したら結婚式を挙げようか」
「でも」
「別に君の晴れ姿が見たいだけだよ」
「良いわね。それは」
「ねぇ」
「なんだい?」
「貴方と話しているのを誰かが聞いていたみたい」
「それがどうかしたの」
「私、精神病棟に移されるかもって」
「僕は周りに見えないものね」
「教会にはいつ行けるのかしら」
年をとらない貴方の隣。
私には寿命があるのよ。
「大丈夫。君が望めばいつでも殺してあげる」
「ねぇ」
「ん?」
「貴方に触れたいわ」
結婚式を挙げるまで待てない。
「今すぐに」
「いいよ」
地獄で一緒に暮らそうか。
end
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