人魚のお仕事
こんにちは、はじめまして。
新しいお世話役さん。
わたしは人魚。
と言っても、首から上しかないこの姿では、区別なんてつかないわね。
でも大丈夫。
すぐに身体も生えてくるから、嘘じゃないってわかるわ。
それまでお話ししていましょう?
わたしのお仕事の話なんてどうかしら。
その分だと、まだ先輩から何も聞かされていないようだし。
人魚の肉が不老不死の秘薬だって話は聞いたことがあるかしら。
実際には不老不死ってほどの効果はないのだけど。
それでも全く効果がないってわけじゃないのよ?
だからわたしは毎日首から下を切り落とされ、身体を人の贅沢品、珍味として提供される。
わたしにもその内の一切れを与えられるわ。
咀嚼した肉は喉を通り首の断面から落ちる、なんて事はなく。
細胞が爆発的に増え、失った身体を形作るの。
だから毎日、いや、希少性を売りにしなければ休むことなく、この作業は繰り返すことが出来わ。
と言っても、希少と言うのは大事なことだから、一日に提供されるのは身体ひとつ分の肉までって決めているみたいだけど。
勿論、それ以外の時間も休んでいるわけじゃないのよ?
わたしはマグロ。
それでも人間たちは勝手にわたしを犯す。
快楽のために。
利益のために。
あなたは人と人魚が交わって、赤ちゃんてできると思う?
そう、できるのよ。
人工的に人魚を産み出せる可能性があるの。
ふふ、できるって言っておいて可能性って言ったのが気になる?
だって殆どの子供たちが、あなたたちの望む人魚ではないから。
産まれてきたのは五分五分で人魚のかたちをしたものと、人のかたちをしたもの。
でもどちらも不老不死の肉を持たない、ただの人間の肉だった。
だから殺してその子の肉を与えても死んでしまったの。
憐れな望まれない生をうけたわたしの子達。
でも、きっと廃棄なんて哀しいことにはなっていないわ。
まがりなりにも人魚の子。
その肉は嗜好品に、その姿は観賞用に。
きっとあの子達は死んでからだけど、人に必要としてもらってる。
あら、どうしたの?
そんなに哀しそうな顔をして。
嗚呼、いつからか泣けなくなってしまったわたしは、真珠の涙を産み出すことの出来ない欠陥品。
その事をなじられて申し訳なく思う日もあるけれど、泣けないと言うことは悲しくないと言うこと。
わたしは幸せなのよ。
だからあなたも泣かないで。
お世話役のお仕事も、すぐになれるわ。
わたしもずっと昔になれたわ。
首を切られ、自らの肉を嚥下し、異種族の蹂躙を受け入れる。
これがわたしのお仕事だから。
end
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