安い願い

「願いを一つ叶えてやろう」

古物商から面白半分で買って来た魔法のランプから出てきた魔神はそう告げた。

まさか、本物だったなんて。

「願いを一つ叶えてやろう」

魔神が繰り返す。

この場合三つ程叶えてくれるのがセオリーな気もするが こんなお宝を比較的安く買い叩いたんだ。悪くはないだろう。


しかし、何を願うか…。
男は考えた。

願いに範囲は有るのだろうか。
例えば不老不死とか願いを三つに増やす、いっそ幾らでも願いを叶えてくれるとか。そんな願い事は可だろうか。

「願いを一つ叶えてやろう」

魔神が繰り返す。

別に急かしているわけでもないだろうが。

「……」

一つ、なのだから慎重にいきたい。
まさか身の回りに魔神について詳しいヤツなんて居ないし 相談を持ち掛けたら最後、折角のチャンスを掻っ拐われかねない。

あぁ駄目だ。棚ぼた話に欲が膨らんでいく。

考えれば考えるほど願いが纏まらない男。

……聞いてみるか。

「まず先に質問をしたい」

男は口を開く。

「勿論"お前が俺の質問に答える事"は願い事に含まずに、だ」

慎重に。慎重に。

「了解した」
「よし」

念を押して質問を開始する。
さっき浮かんだ疑問から事細かく聞いた。

曰く不老不死を含みかなり自然の摂理を無視した所まで願いは有効だと分かった。
その上願いを増やしたいと云うことが願い事ならばそれも構わないと言う。


予想以上に優れた魔神のようだ。
だからこそ提示される願いの数は大なり小なり一つ、なのかも知れない。



「よし分かった。願い事を決めたよ」

程無くして男は質問を終了した。

願いが無数にあり一つと言わず半永久的に願いを叶えさせる願い方がある、となればこの男に限らずともそれに飛び付くであろう。

「じゃあ―――」
「願い事は遂行した」
「―――は?」

たった一つの願い事を決め 今、口にしようとした男は魔神の言葉に疑問符を返した。

「"私がお前の質問に答える事を願い事に含ま無い事"を願ったお前の願い―――確かに叶えた」
「―――待っ、」

男の前から消えた魔神は二度と現れることはなかった。


end

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