嘘つき狼と隣のきみ

「嘘つき!」
「またバレたか」

 自慢じゃないが、俺は嘘が上手い。
 そんな俺に自信満々で指摘するこいつ。
 俺はこいつの大げさな台詞に負けないくらい白々しく両手を挙げて降参して見せた。

 この指摘は正しい。
 俺は嘘をついた。
 だからバレて白状した。

 だが俺は嘘が上手い。

「ほい、弁償分」
「…相変わらず用意がいいなぁ」

 あらかじめ用意しておいたプリンを買い物袋から取り出して渡せば、感心した風のこいつは満足げに受け取って早速開封する。
 しょうがないからおまけでスプーンもくれてやろう。

「サンキュー」
「どいたま」

 この展開もいつものことなので、そのまますんなりとおやつの時間が開始された。
 そんな他愛ない幼馴染みとの屋上での昼食タイム。

 改めて言おう。

 俺は嘘つきだ。
 なんならクラス全員に周知されている。
 と言っても別に嫌われてはいない。
 俺の嘘は毎回、誰々のプリンを食った食わない程度のお粗末なものだからだ。
 しかも今みたいなフォロー付き。
 更に言うならば、コンビニで適当に買ったいつものプリンが、お詫びの名のもと気になっていた新発売に化けるわけだから、嘘をつかれて気を悪くしない奴はまずいない。
 むしろ嘘じゃなかった時の方が残念がられる謎仕様になりつつある今日この頃である。

 最終的には、俺が嘘をついているから皆も「嘘つき」と認めてくれてはいるものの、その正体はサプライズ好きのツンデレだ。という認識をされつつあったりする。

 普通に恥ずかしいからやめて欲しい。
 せめて暖かい目で見守らずに、大っぴらに言ってくれた方がましだ。

「おぉマジうま!この味気になる?気になるよな。よし、一口分けてやろう」
「いや気にならない」
「てのが嘘なんだな。はいはいあーん」

 ことある事に嘘をつき続けた結果がこれである。
 俺は狼少年が本当のことを言っても信じてもらえないって証明したぞ。

「めちゃくそ恥ずかしい件」
「そう言いつつ口を開くあたり、やっぱ気になってたんじゃないか」
「…」

 どこのバカップルに感化されたのか、自分の使っていたスプーンに一匙掬ったプリンをダイレクトに俺に食わせてくる猛者。

 だからプリンに興味はないって。

「旨い?旨いよな?」
「どーかな」

 嘘つき本当は美味しいくせにー。となおも隣からつつかれてはいるが、俺はそれどころじゃない。

 こいつ、既に自分の口に運んだスプーンを事も無げに使いやがっぞ。
 間接キスだぞ。間接キス。
 しかも野郎同士の!
 友達が極まっていれば回し飲み程度の些事なのか?
 俺は回し飲みも気になるぞ。

「…」

 顔には出さないが、内心で盛大にあせくり回っているのは何もキモいからではない。
 寧ろ「そう」だったらどれだけ良かったか。

 俺が嘘つき呼ばわりされるようになった原因。
 詰まるところ好意を寄せちゃっているのだ。
 誰であろう隣の幼馴染みに。
 初めて食べるプリンの味なんか感じている余裕も無いくらいに。

 鈍感じゃない俺はそれを自覚してしまい、素直になれなかった。
 と言うか、こうして「お詫び」なんて建前にでもしないとプレゼント一つ渡せなかった。
 そう言う意味ではクラスの認識であるツンデレかはさておき、サプライズ好きとやらは強ち間違ってはいないかも知れない。

 更には「こいつにだけ渡していると浮くな」とか「幼馴染みでも距離近すぎるか?」とか深読みした結果、「幼馴染みに特別な感情を抱いているわけではない」と体現するために、誰彼構わず嘘をつくようになったのだ。

 嘘を隠すには嘘の中、である。

 幸いにしてこの「好意」なんていう一番隠したい嘘は見せかけの嘘達に隠れて見付かっていない。

 この一々距離の近い幼馴染みのせいで日々心臓がバクバク言っているにも拘らずここまでこの想いを隠してきたのだ。

 故に俺は嘘が上手いと自称する。

「俺が食ったスプーンだぞ?美味しくないシュチエーションなわけ無いね」
「なんのことだ?」

 プリンが最後の一口まで美味しくいただかれた空の容器を覗き込みながら、事も無げに言ってきた幼馴染みにどもらず返した俺偉い。
 たまに洒落にならない冗談を突っ込んでくるから、俺の心臓はかなり早く活動限界を迎えそうになる。

「いやいや、その反応はおかしいっしょ。お前、友達の回し飲み無理な人じゃん」
「っ…」

 普段なら「そう?」程度で流すくせに、今日は違った。

 だが指摘されてみれば確かに。

 こいつのだから間接キスだ何だ言って騒いでいるが、これが他の奴の口を付けたものだったら。
 結構ガチで口を拭きにかかるわ。
 眉間に隠せないくらいのシワなら寄っているだろうな。
 気にしない奴は気にしないから、そのシュチエーション結構あるんだよ。

 正直考えただけでも不快だ。

「お前、俺のこと好きっしょ。ラブっしょ」
「…そんなこと、ないし」
「はい嘘ー」

 本当に見破ったのか、俺の言葉=嘘のノリか。
 嘘ばかりついている俺には真意が掴めない。

「安心しなよ。俺はお前より前から好きだし。このキャラだと自然にラブハプニングに持っていけるっしょ?」

 そしたら更に真意の掴めない言葉が続いてきた。

 目をスッ、と細めたこいつはいつもの軽いやつとは別人みたいで。
 それはそれでカッコいいとか思った俺は末期だな。とか他人事のように考えたりして。

「嘘つき」
「ついにバレたな」

 いつも言われている言葉を呟いたらあっけら返された。

 俺が嘘が上手いなんてとんだ嘘だ。勘違いだ。妄言だ。
 こいつは俺という幼馴染み相手に性格まで嘘をついていたなんて。

 なんて嘘つき。

「俺ねー、友達付き合いで大満足。これからも全然余裕ー。だから本当はすっかり騙されているお前にこんな暴露する必要なんかなかったんだー。だから」

 すごい棒読み。
 一瞬俺の心の代弁かと暢気に思ったけれど、違うな、と頭を振った。

 振ろうとした。

「これからも変わらぬ友情、"お友達"。宜しくな?…な。このプリン、旨いっしょ?」

 頭を押さえて差し込まれた熱の中に混ざったプリンの味は生暖かくて、これ、本来より甘味が増しているんじゃないかとか考えたり。

「…別に」
「嘘つき」

 嘘じゃない。
 美味しく思ったのはプリンじゃなくて──。


end

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