涼をとるなら腕の中

「暑い」

 その一言が切っ掛けだった。

「胆試ししようぜ!」

 とクラスの誰かが言ったのを皮切りに、あれよあれよと言う間に旧校舎を舞台にした胆試しが決定されたのだ。

 イジメなにそれ美味しいの?な仲良しクラスに行動力凄まじいクラス委員長、それにその行動力を推奨する熱血先生が居てこその実現だろう。

 その数日後の深夜…では流石に無いが、八時も回った頃、俺等クラスメイトは旧校舎前に集まっていた。

 何気に怖いのが苦手だと言う女子も含めて皆集まっているんだから、本当に仲好しクラスだよな。

「じゃあクジを引いてペア作れー」

 進行役の委員長がてきぱきと指示を出す。
 このペア作りの間に脅かし役は準備をしているそうだ。

「あー、なんだ男かよ。…まーいいや。宜しく」
「宜しく」

 友達同士の女子がペアになって喜ぶ反面、男子同士が組むと異性が良かったと嘆く声が多々聞こえてくる。
 ご多分に漏れず、彼もそのタイプらしかった。
 否、見た目がもう女の子大好き!と行って憚らないチャラ男っぽいし、その落胆は他の奴等より大きいのかな?

 でもハブられている分けじゃないが、比較的ぼっちの俺と組んだのに思ったより嫌そうな反応がなくて意外と言うか、案外嬉しかったり。

 チャラそうな見た目のわりに良い奴じゃないか、とちょろい俺の好感度は上がったのだった。

 まぁ、女子じゃないから好かれてもそんな嬉しくないだろうけど。

「…」
「…」

 順番が来て、懐中電灯ひとつとゴールに置いてくる献花一輪を受け取り俺等も校舎に入る。

 そしたらこれまた意外にも適当に参加しているのかと思ったら、それなりに緊張した空気が彼から伝わって来た。

 隣の俺も緊張…は校舎自体にはしてないけど、別の意味でしていたり。

 何を隠そう俺は、人間じゃなかったりする。妖怪、その類いだ。

 しかも流れ流れてこの学園の、この旧校舎に住み着いていたりする。
 俺が来た時点で先住民はいっぱいいたし、皆気さくな奴等だから、我が家で自分の同類を見付けて怖がることはない。

 ただ、

「きゃー!」
「わー!」
「痛っ!なに叫んでんだよ、お前お化け役じゃねーか!」

 先行く奴等の悲鳴に脅かし役も混ざっている辺り、本当になんちゃっておばけに驚いているだけかと考えると肝が冷える。
 皆、人を化かすのが大好きだからなぁ。

「ばぁーっ!」
「っ!?」

 そんなことばかり考えていたせいで突然真横から出て来た影、知らない顔のおばけに俺は飛び上がった。

「アハハハハハ!怖がりすぎ、脅かし甲斐あんなー」

 おばけかケタケタ笑って元の位置に帰っていく。
 なんだ人間のほうか。

「…お前な、」
「?あ、ごめっ!」

 ふう、と一息吐いたら横からも呆れたような声。
 驚いた拍子に隣の彼の腕にがっつり抱き着いていた。ハズい。

「こーゆーの苦手なんだ?」
「そんなつもりはないんどけど…」
「クス、どこが」

 腕から離れてまた歩き出す。
 さっきのおばけのお陰で話題ができてぽつぽつ話ながら一本道を進んでいく。

 と、

「うーらーめーしーやー」
「っ!!」

 今度は頭上から逆さまに落ちてきたおばけに彼の方が硬直した。

「クスクスクス、怖がりだぁねぇ」

 お化けはそう笑って消えていく。

「大丈夫?」
「っ、…に見えるか?つかお前、今のは怖くないのかよ?」

 今のは俺の知り合いだった。血糊ベッタリの人間より怖くないと思うけど。
 まぁ、よく見ると半透明だから"視えちゃった"感も想定すると中々かもしれないな。

「マジで出るのかよココ…帰る頃には呪われてたりしないよな…」
「献花有るし平気じゃない?」

 ここの皆はいたずら好きではあるが、そんな悪質なことはしないし。

 それにしても本物を見た自覚が有りそうなのに思ったより取り乱さないな。
 元から視える人だったのだろうか。

「ふぅ。…お前の手ぇ冷たいな。一瞬こっちからも幽霊が出たのかと思ったぞ」
「やだなぁ、俺はおばけじゃないよ」

 妖怪だよ。とまでは続けない。

 その後も作り物に俺が驚き、本物に彼が驚きを繰り返してなんとかゴールが見えてきた。

 途中でギミックが「凍ったように」動かなくなった事もあるけど、今のところそれ無しでも充分背後の悲鳴は途切れていないな。

「帰るまでが胆試しだな」
「勘弁してくれ…」

 戻りは適当に出口への案内だけ書かれたルートなわけだけど、「本物」にはそんなの関係ない。
 現に先行く奴等の悲鳴はまだ聞こえる。否、油断していた分悪化しているな。

「…手、握っててやろうか?」
「…………要らね」

 本物は怖くない俺が、まだ胆試しの続く彼に手を差し出せば不貞腐れたようにそっぽを向かれた。
 口許の堪えられない笑いが気に障っただろうか。

「充分冷えたっつの。だから陽の出てる時間に頼むわ」
「え」

 今度は向こうがニヤリと笑った。

「お前と話すのつまらなくねーし、また話そうぜ?んで氷も提供してくれんなら尚良し」
「…………ゔ」

 ギミックが壊れたのは俺が原因だとバレてるらしい。

「誰にも話すなよ」
「離すかよ。勿体無い」

 こうして俺にはその後、こいつをとったと女子から口を尖らせられ、当人には暑苦しいくらいベッタリして涼まれる未来が待っているのだった。


end

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