知りたくなるのは人の性

「お前、ふっる。」
「一日違いの癖になに言ってんだ」

 そんな会話をもう何千回と繰り返しただろう。

 俺は2019年4月30日産まれ。言い換えるならば平成31年4月30日産まれ。
 家が隣で産まれた病院も一緒の幼馴染みのこいつは、2019年5月1日産まれ。或いは令和元年5月1日産まれ。

 364日同い年で同学年のこいつは、ことあるごとに俺が平成産まれであることを弄って来た。

 正直平成の空気なんて24時間も味わっていないし、そんな0ヶ月の赤ん坊が当時のことなんか知っているわけもなく。

 こうクドく繰り返されると慣れても来るが、ガキの頃は疎外されてるみたいでかなり嫌だった。
 まぁ、今もあんまいい気はしてないけど。

「ティラミスやナタデココが流行ってケータイとかいう電話がスマホんなって東京でオリンピックがあったんだろ」
「アホ。東京オリンピックは2020年だ」

 だいたい食い物の情報に至っては平成でも結構初期の話だった気さえする。
 オリンピックの話だって当時の俺等が幾つだったと思ってんだ。
 令和産まれの当人がロクに記憶していないじゃないか。

 親や先生からの聞きかじりやテレビの特集でしか知らない平成の歴史なんて曖昧にも程があった。
 寧ろ昭和だもっと遡って江戸だ戦国だと言われた方が、特徴的なぶん出来事を答えられる気さえする。

 その場を生きていたなら感じ方も違ったかもしれないが、白黒やセピアな映像と違って平成はカラーばかりで、画質も後半は今と遜色無いからパッと見の映像じゃ平成か令和かなんて分かったもんじゃない。
 そもそも普段の生活で元号なんか気にしないし。
 強いて言うなら西暦があれば充分じゃね。とは思うけど。

「元号なんか無きゃ良かったのに」

 こいつに俺を「平成産まれ」と括られる度に行き着く不満。
 そんなのどうしよもないけど。
 西暦だけならば二人とも同じ21世紀人なのにな、とか。

 俺だって本来はそんな元号に拘る趣味はない。
 ないけど、隣の令和産まれが平成にご執心のようだから気に食わない。
 
 スカイツリーだなんだと言われても実感の無い99%令和人間なのに、一瞬でもこいつと違う時代にいたと知らしめられる度に、こいつとの距離を感じずにはいられないのだ。

 いっそのこともっとちゃんと平成を生きていたならば、それが繋がりになってこいつの好奇心を満たせていたかも知れないのに。

 知らないのに俺だけいた時代なんて。
 なんてつまらない。

「ね。元号とか無くて良いよ」
「お前はそれ言っちゃタメだろ。大好きな平成が無くなっちまうぞ」
「俺、別に平成が好きなんじゃないもん」

 寧ろ好きくない。と散々平成の話題を持ち出してきたこいつが頬を膨らませる。

 おいおい。その拗ね方は令和産まれだからって高校生男子がやったら許されるもんじゃねえぞ。

「意味わかんね」
「分かれバカ」

 一瞬でも俺と違う時代にいたと思うとその隙間を埋めたくなるのだ、とそっぽを向いた彼を見て、ずっと嫌いだった平成が少し好きになった気がした。


end

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