ヤギはオオカミが肉食だと忘れてる
「明日から暫く、あき休みをとろう!」
そう言い出したのは何の変鉄もない昼休み、目の前で焼きそばパンを頬張る俺の最愛の人だった。
男同士で付き合っているなんて、一介の現役男子高校生をやっている俺としては周囲に悟られたくはない。
例えそれが俺からの片想いが始まりでノンケだった彼を巻き込んだ形だったとしても。否、だからこそ。
彼やその友人達は特別視しないタイプだろうが、やはり平凡な共学校でそんな噂が漏れ聞こえれば好機の目に晒される事は必至。
交遊関係が広く人気も有る彼に、俺のせいで変なレッテルを貼ってしまいたくはないのだ。
だから隠す必要性を疑問視する彼を押し切り、学校では友人のふりをして貰っている。
とは言え中学一年からの付き合いで、つるみだした切っ掛けは至って下心のないものだったので、恋人になってからの帰ってからのアレコレを知らなければまずばれることはないだろう。
彼から「学校で我慢している分の反動」と称されるイチャつき具合は案外学園の異性カップルよりバカップルし気はするのだがが。
可愛げもない俺にそんなこと、とんだタラシ野郎だ。
俺なんか未だに指を絡められただけで頬の紅潮が抑えられないのに。
閑話休題。
「?休みたいのはわかるが、いち学生が勝手に休み決めちゃ駄目だろ」
たまに突拍子もない事を発案してくる彼。
クソ真面目な俺には理解できない奔放な思考回路のお陰で俺の想いが一方通行じゃなくなったのも事実なので悪いわけではないのだが。
うちの学校に在るのは春休み、夏休み、そして冬休みだけだ。
ここに勝手に秋休みを入れたところでそれはズル休み扱いでしかない。
「いやいやいや、あき休みだよ、飽き休み!」
「?」
なおも食い下がる彼には悪いが「字が違う」と言われてもメールでのやり取りじゃないから指摘部分が分からないんだよな。
「だーかーら!」
熱意を込めて改めて字を説明されても俺の頭から?が消えることはない。
飽き休みなんて彼の造語だろう。記憶を探っても解説なんて出てこない。
「マンネリって怖い言葉があんじゃん?だから飽きが来ないようにお休みしようって話!」
「何を」
「俺らの恋人的お付き合い」
「声がでかい。…別れたいってこと?」
「別れることがないようにしたいってこと」
ふむ。
彼の提案を咀嚼して飲み込んで考える。
「いいよ」
「え?」
「やってみようか」
「え??」
俺の肯定は聞き取りづらかっただろうか。回答を待っていた筈の相手なのにやたら聞き返されるな。
「分かってるの?手を繋ぐのも、ちゅーするのも、その先諸々もお休みなんだよ?」
「でも話せない訳じゃないし、家に行くくらいは友人でも有りだろう?」
「そーだけどさー」
何故提案した本人から渋られるんだ。
「期間はどれくらいのつもりで言ってるの?」
「まぁ、一ヶ月と言うところか」
「え」
長いよー…と言う呟きが聞こえた気もするが気のせいだっただろうか。
まぁ、確かにちょっと寂しいから、短く言ってそれで通ればラッキーだったかも知れないなとは後悔したけど。
「…分かった。一ヶ月恋人絶ちすればいいのね。」
「おい」
「よーし分かった!一ヶ月な!一ヶ月後据え膳されまくった男の巻き返しをその身で味わうがいい!」
何か趣旨変わってないか。もう始める前から鬼気迫まっているんだが。
ああでも、おあずけの後が楽しみだから我慢するって言うのは確かか。
「そうか、楽しみにしてる」
恋人として友人達とは違う扱いを受ける事を知ってしまった今、やっぱりちょっと物足りなく感じるだろうから今度は俺からも手くらい繋いでみるかな。
そんなことを考えて頬が緩んだら彼に頭を抱えて嘆かれた。
end
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