ラフ

「君の裸を見せてほしい!」
「…………は?」

ある日の放課後。人気の無くなった教室で親しくもないただのクラスメイトにこんなお願いをされた俺のこんな返答しか出ない思考を貧相と笑う奴はいないと思う。

「………」
「………」

暫しの沈黙。
目の前のこいつはキョトンとしている。

間借りなりにもクラスメイトだ。自己紹介まではしなくて良いが、話したことはろくに無いのでせめてもう少し噛み砕いてくれないだろうか。
俺のこんな交友関係にはいないタイプなのでどう受けとれば良いのか分からない。

変態なら変態でもうカミングアウトしてくれ。その方が納得できる。
勿論それで「はい見せます」になるかはまた別の話だけど。

「あ、ごめんっ」

俺の怪訝な表情と引き気味な体を見てやっと言葉が足らなすぎる事に気がついたらしいこいつは、焦ったように件の台詞に行き当たるまでの説明を始めたのだった。

要約するとこいつは美術部で、今度デッサンをする際のモデルを捜してこいと言われたそうだ。
そして俺に目をつけた、と。

デッサンに使われたいかは別として、デッサンに使いたい体だと言われるのは嬉しくなくはない。筋トレが趣味のようなもだし。

それでも人前で裸となると軽々しく頷けないだろう。

「そもそも美術部って女子の方が多いよな」
「うん。だから外部からの男性モデルをスカウトして来いって僕に」

白羽の矢が立ったわけだ。

確かに知り合いがいれば良いだろうけど、そうじゃなきゃ女子からは頼みづらいわな。
そもそも文化部のやつって、友人が少なくて偏ってるイメージあるし。

「裸ってヌードデッサンてやつ?いくら美術部だからってヤバイんじゃないか?」

どこぞのダビデさんみたく堂々と逸物晒して女子の前に立つ自信は俺にゃ無いぞ。

「あっ、フルヌードとは言わないからっ。布巻くし下着は履いてて良いし、気になればシャツとかも着たままで良いからっ」
「あ、そう…」

フルじゃないヌードって有るのか。裸にも色々あるのな。俺の早とちりだけが原因ではないと思うが、素っ裸だと思って構えてしまって少し恥ずかしいじゃないか。

てかシャツも良いってそれ本当にヌードなのか?
て、そこは渋るなら妥協もありってことか。

なら最初から「デッサンのモデルに…」くらいの入りで良かったんじゃ…。
俺の心の平穏のためにも。

「まぁ、それなら」

知らないやつに見られるってなんか緊張するけど、文化部って馴染み無いから興味あるし。
このコミュ障予備軍みたいなやつがただのクラスメイトに話しかけた勇気に免じて、モデルの依頼を受けてやろうじゃないか。

「わぁっ、本当に良いの!?有難うっ、」

俺の手をとりキラッキラした目で礼を述べるこいつ。
なつこいというか、大胆と言うか。尻尾があったらぶんぶん振ってるワンコみたいなやつだ。

「一目見たときからずっと目を付けていたんだ、皆にモデルを捕まえて来いって言われたときはまず君に声をかけようと思ったよ!女の子の目が気になるなら僕の前ならフルヌードしてくれる?隅々まで君をキャンバスに収めたい…っ」
「…は?」

ちょっと変だけど案外良い奴じゃないか、と感心しだした俺の心情を無視し、饒舌になったこいつはさっきより恐いものがあった。

だから変態なら変態ではじめから言っておいてくれ。心の準備するから。


end

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