雨が止んだら

「ねぇ、梅雨がどうやって出来たか知ってる?」
「は?」

薄暗い空から雨が降りしきる陰鬱な帰路に着く俺と幼馴染み。
彼が傘を持っていなかったので俺の傘で相合い傘で帰っているのだが、肩をぴったり合わせる距離に居るにも関わらず無言。

話題もないからそんなことを聞いてみた。

「知らねー。」

地理的話だと思った彼が軽く匙を投げた返事を返す。
俺が言いたいのはもっと非科学的でやっぱり彼には興味の無さそうなことなんだけど。
気の利いた話も持ち合わせて無いし、まぁ、BGMくらいにはなるだろう。


──昔々、まだ四季も梅雨も無い頃の話。
ある神様がある神様に恋をしたんだ。

彼等は所謂幼馴染みで、男同士だった。
それで好きになった相手は普通に女神に恋をする奴だった。
だからそいつは親友のまま友情を大切にすることにしたんだ。

彼がどんな女神を愛しても、それがどんなに絶世の美女でも、自分がその女神に惚れることはない。
そして自分はどんなに性格が良い女神が現れたとしても、そちらに靡くことはない。

どうしよもなく一途な一方通行は、バレさえしなければ良縁に繋がるはずだった。
彼等がバラバラになることはない筈だった。

でもそれは叶わなかった。

片想い中の神には妹がいて、同じく幼馴染みとして育っていた。
その妹神を彼は妻に迎え、三人は以前と変わらず家族ぐるみで仲睦まじい日々を送っていた。
そんな順風満帆な生活を送っていた彼はあっさり殺されてしまったんだ。

友人が嫉妬しなくても、他人は嫉妬する。妹神に懸想(けそう)していた他の神に殺されたんだ。

妹神は彼を忘れないため地上に花を手向け一年に四度その花を新調した。
それが四季の始まり。

そして親友は彼を忘れないため一年に一度だけ泣き腫らすことを自らに許し、涙は地に降り雨となった。
それが梅雨の始まり。

「…じゃあ俺達は毎年哀しみの雨に悩まされているのか」
「面目ない」

雨音に打ち消されてもおかしくないような淡々とした昔話を案外ちゃんと聴いていてくれた彼が眉間にシワを寄せて舌を出す。

「でも梅雨を作った神様も今はいないからこの雨はその名残みたいなもんなんだよ」
「泣きっぱなしか。」

傍迷惑な話を苦笑で締めるしかない俺。
でも暇潰しくらいにはなったかな。

「あ!お兄ちゃん!」

そんなことを考えていたら背後から聞き馴染みのある声。
振り返らなくても分かる、俺の妹だ。

「もう、そんな沁みっ垂れたオチやめてよ!」
「…どっから聞いてたんだお前…」

急激に湧いて出たと思えば人の話にケチを付けるとは。

「いい?この雨は来世でやっと思いの通じたヘタレの嬉し泣きなの。バッドエンドみたいに言うのやめてよね!」

自分を卑下するのもいい加減にしなさい!とお母さんかよ。とつっこみたい口調で隣の彼に聞こえないようにこそっと伝えられた。

「お前らホント仲良いよな。」
「兄妹に嫉妬するなバカ彼氏」

元夫婦がじゃれている。

「あんたも今更嫉妬すんな」

俺まで怒られた。

「ほら、帰ろう。イチャコラすんのはいつでも出来んでしょ」

雨が止んだ道、傘を畳んで俺達はまた歩き出す。
彼との肩はまだぴったり合わさる距離のままだから、泣いてばっかいないで笑おうか。


end

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