嘘つきエレジー

「ここで残念なお知らせがあります!」
「は?」

学校から帰る途中にある桜が満開の公園の、ブランコを囲む柵に並んで腰掛けていた俺たち。

夕日に赤く照らされたこいつは不意にそんな事を言い出した。

「実は俺たちはもう死んでます!」
「は?」

ビシッという効果音まで付きそうな切れの良さで俺の方を指差しポーズまで決めた奴には悪いが、対する俺は一今のところ辺倒な一文字しか発せないでいる。

「…」
「…」

暫しの沈黙。

それから人に指を差したままフリーズして返答待ちをするこいつをしり目に俺はちらっと腕時計を確認。

俺の自慢の電波時計が示すのは、お子様は帰っても部活の奴等は絶賛活動中の微妙な時間で。
そんでもって4月の1日。

「あぁ」

エイプリルフールか。と納得。

「お前はショックで自覚ないかもしんないけど俺ら仲良く事故ってこの世とおさらばしてんだぜ」
「はぁ」

俺が時計を見た事は気にしないのか、こいつは饒舌に語っている。

すぐ隣にいるのに声がでかいんだよな。
マジでお化けじゃなかったなら近所の奥様の視線がイタイじゃないか。

「いやぁ、そこの道で居眠りトラックにドンだもんなー。死にたてでお化けんなんなくって良かったわ、ぜってー死体エグいことになってんぜ」

自分のミンチとか見たくねーよなー。と自らの体を抱く仕草をしながらガクブル震えて見せる姿は大根としか言いようがない。

「で、なんだけどさ」
「はぁ。」

語彙力が絶望的な事になっている俺を差し置いてこいつの独断場はまだ続く。

こいつは何故帰宅部なんだ。
演劇部にでも入ればよかったのに。

「風評を気にしなくて良くなったから俺ら付き合いませんか!?」
「…は?」

あ、ダメだ。こいつの急展開には着いていけない。

「あー」

それにしてもこいつはどこら辺まで行ったら嘘でしたー。で片付けるつもりなんだろうか。

その辺も加味しないと末代までの恥になっちゃいそうで下手な返事は出来ないんだけど。
まぁ、死んでてもホモップルでも次世代が産まれないんだからそんな悩みは杞憂か。

「…えっと、お化け云々は忘れていいや。付き合うってのはちゃんと考えて欲しい、かな」

そんなこんなで俺が答えあぐねていたら向こうから先にエイプリルフールネタを挫いて来た。間が持たなかったんだな。

それにしても。
つまりはあれか。告白の前振りにお化け話を持ってきたわけか。

「あー、うん。」

一世一代の告白をしてくれた事は凄い嬉しいんだよ。本当に。
なんたって両想いだったりしちゃうんだから。なんなら俺の方が先に惚れてるかもしんないくらいだし。

でもこいつはきっと勘違いしている。
こいつの言葉を借りるなら「お前はショックで自覚がない」というやつだ。

俺らマジで事故ってんだよね。
"卒業式"の日に。

違う学校に進む筈の俺らがまだ三年間同じだった制服を着ている時点でおかしいんだよ。
俺に自覚があるせいか、腕時計だけは時間が進んでいるみたいだけど。

でもそうか。こいつは死んだ瞬間を覚えてないのか。

良かったような悪かったような。

痛い思いを忘れているのは良かったけど、覚えていたらきっと俺の返事をそんなに不安そうな顔で待たなくて良かったのに。

突っ込んで来たトラックからお前を守るように抱き込んだまま息絶えた俺の姿を見たならきっと。

でも良いや。

友人のままこの想いを墓まで持っていくつもりだったけど、黙ってさよならできるほど大人になる前に死んじゃったものでね。

悪いけど俺に付き合って貰うよ。もう少しだけでいいから。

お前が「自分だけは生きている」と気付いてその身体に戻るまでの間だけ。

「俺も好きだよ」
「っ、そっか!じゃあ末永く宜しくな!」
「うん」

帰らなくていい今だけはずっと一緒に。


end

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