white friend
何故か。
バレンタインにチョコを貰った。
男に。
ただのクラスメートに。
「…」
ガキの頃からまぁまぁ悪ガキだった俺は、毎年姉貴からくらいしかチョコを貰ったことが無い。
しかもこれ、お返し目当ての義理チョコ。
女子の中にはクラスメート全員に配るなんて猛者もいるが、金髪ピアスで一匹狼化している俺は勝手にこう言うイベントに巻き込まれるのは嫌いだろうと判断され配布リストからも自然と除外されている。
別に好き勝手生きた結果だが、悲しすぎて泣けもしない。
チョコ好きだよ!口下手だけど交流が嫌いなわけでもないんだよ!
バレンタインを楽しむ空気が辛くて嘆きのあまり机に突っ伏しているのを、周りから声をかけられる事への拒否と判断されているなんて俺は気付きもせず。
移動教室だったのに。サボってしまった。
チャイムに気付かないとか。
もう踏んだり蹴ったり。
で。
そんな時に見つけてしまったのが俺の机に入れれた包装紙。
シンプルだけどきれいなデザインでリボンの巻かれた、明らかに俺の所持品じゃないそれはすぐに目についた。
引きずり出して入れ間違えかと差出人か宛名を探せばリボンに挟まれたカード。
そこには俺の名前。
「マジか!」
怪訝だったテンションは一気に上がった。
喜びのままに誰がくれたのか、どうせ皆に配る一貫とかだろうけどそれにしてはしっかりした箱に入ってるな、お返しはしないとな。なんて考えながら震える手でラッピングを慎重に開けていく。
しかしこれ、カードには俺の名前しかなかったから下手すると差出人が分からないパターンかもしれない。
そしたら聞ける相手のいないボッチの俺はお手上げだ。
「おぉ…」
市販品だろうそれは6つの形の違う一口チョコが入っているやつだった。
今時の義理チョコは本命ばりに手が込んでんな。
てか寧ろ女子が友チョコ的なノリでワイワイ一個ずつ摘まんでいくやつじゃね?
「うまぁ…」
大事にとっておこうと思ったが腐らせるか最悪姉貴に食われるぞと理性が警告を発してきたので、仕方なく、仕方なく食べることにした。
口に含めば熱で蕩ける赤色のハートのチョコ。
いつも食うそこらの安いやつとは出来が違う。
「…ふぅ。…………ん?」
何味かなんて考えながら食べて、その疑問を持つ違和感に察しかけた頃。チョコの入っていた底に何か書いてあるのを見つける俺。
なんか手書きだ。
「えーと、"手作りだと嫌がるかもしれないので市販品風にしてみました"…ってこれ手作りかよ!?スゲーな」
そこで、この手のチョコの箱にはよく有る、個々のチョコの説明が同封されていないことに気が付く。
嗚呼、マジで手作りなのか。
「で?肝心の名前は…ん?」
メッセージを目でなぞり、最後の行のその下。
そこにあったのはクラスの有名人の名前。
イケメン、チャラ男、ムードメーカーの名を欲しいままにするやつの名前だった。
義理チョコなら星の数、本命チョコすら俺が今まで(姉貴から)貰ったチョコより多い筈だ。
「何の冗談だ?」
市販品風手作りチョコに接点の無い男の名前。
怒れ驚けと言うならこのどっきりは失敗だ。
寧ろ呆気にとられて何の反応も示すことが出来ない。
「でもな」
チョコは旨かったし。貰ったことには違いないし。
名前が本人だと信じる以外手だてはないし。
お返しはこいつに渡すしか有るまい。
…と、ホワイトデーの放課後に呼び出しをかけたらそいつは素直にやって来た。
人違い込みで来ないかも知らないな、と不安に思っていたから一先安心した。
後はお返しを受け取って貰えるか、だ。
「下駄箱で君からの手紙見付けたら周りが果たし状じゃないかって戦々恐々としてたよ」
と俺の緊張を余所に一先ず笑われた。
そうか、こいつには四六時中取り巻きが居たんだった恥ずかしい。
「あー照れてんのもカワイーなぁ。その分だとチョコ食べてくれたね?俺の愛情がお前の一部になったとか良いよね」
と今度は僅かな表情の変化に気付いてくれた上で、何かヤバい目でうっとり呟かれる。
「この後うちに来ない?何の他意もないんだけど、友人から始めるに辺りご馳走するよ?他意はないから安心して来てよ」
「…」
そして爽やかな笑顔でチャラ男らしいなつこい台詞の凄く怪しい誘いをうけた。
呼び出された側とは思えない怒濤の喋りだ。見習いたい。
「ね?」
突然妙に凝ったチョコを贈られて警戒しないわけはない。が、俺なんかと友達してくれようなんて言い出した奴がここ数年居ただろうか。否、居ない。
「ゔ…お、お返し、持って来ただけだ…けど」
泥沼な気がしていないわけではない。
ムードメーカーの名が泣きそうな程に目の前の猛禽染みた目の奥が暗いんだから。
でも取り敢えず友チョコを渡し合う友人が出来たから良しとしよう。
「うん、これも有り難く頂くね」
「ん。」
友人て仲はすぐに終わりそうだけど。
end
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