Surprise present!
「なぁなぁ」
「ん?」
「肝試し行こう」
「は?」
昨日、俺達はそんな会話を交わした。
誘ってきたのはコイツ。疑問符を返したのが俺。
俺の反応は間違っていないはずだ。
だって10月だぜ?秋だぜ?
肝試しっつったら夏にやるもんだろ?
なのになぜに今さらそんな提案をされにゃならんのだ。…って、普通思うよな?
「…肝試しって、何処に?」
「××遊園地のお化け屋敷。」
しかも肝試しなんて言い方するから何処ぞの心霊スポットかと思いきや人工物かよ。
まぁ確かに年中無休で季節感もなんも無いんだけどさ。
俺がコイツと同居するためにここに引っ越してきたのはまあまあ最近だから、俺はまだ行ったことの無い近所の遊園地の名前。
結構有名らしいから今度一緒に行こうとは話していたが、始めてで態々お化け屋敷目当てとはこれいかに。
もっとさぁ、ジェットコースターとか、なんなら観覧車とか、有るだろ?
夏の風物詩でもさぁ、花火とかなら秋にもやってるしまぁ分かるよ?
こうもっと有るだろ?
「…」
何が言いたいかって言ったら俺はイチャラブ出来るような所に行きたいんだよ!
だからっていかがわしい所じゃねぇぞ?王道で言うなら映画館みたいな。
折角のデートの誘いなんだからさ!
恥ずかしいから口には出せないけど!
「お化け屋敷だって立派なイチャラブスポットじゃない?」
「勝手に思考を読んでんじゃねぇ!」
しれっと俺の思考に割り込んできたコイツにグルル…と唸る俺。
「大体この俺がお化け屋敷なんて怖がるわけねぇだろ!?」
ここでコイツが「キャっ、コワーイ☆」なんて嘘でも抱き付いてくれるなら確かにイチャラブ感有るが、コイツはそんなキャラではない。
じゃあ俺怖がるとでも?
心外だとばかりに吠えれば「まぁ、そうだろうね。」と飄々と返される。
分かってんのかよ。
怖がらない二人が何しに行くんだよ。
冷やかしか。
「ん?まぁ、行ってからのお楽しみ。…ダメ?」
「…ダメじゃない」
俺には意味がさっぱりだが、どうやら何か有るらしい。
サプライズというやつか。
「…行ってやる」
何にせよコイツと外出できんならお化け屋敷が散歩道だって構わないさ。
……
………
「ぎゃあああああああっ!」
件のお化け屋敷を目の前にした時から疑問は有った。
なんか違う、と。
でっかい規模の廃館が飾り付けられていた。
普段は灰色一色だろう壁にはオレンジのインクをぶちまけた様な所があり、妙にポップで、普段がカラスが飛んでいそうなら今はコウモリ。
お化け屋敷のくせに陽気な曲がかかっているから、むしろなんか狂気染みて聞こえる。
最初に姿を現した案内係は黒服でホウキ持ち。メイドかと思ったけどエプロンしてないし、頭には先のとがったツバ広の変な帽子を被っていた。
名前は…マジョというらしい。
その時点でだいぶ俺の知る「お化け屋敷」のイメージと違って警戒していたのだが。
「ななな、何だよアレ!野菜頭のバケモンがいたぞ!?」
「カボチャね。ジャックオランタンだよ」
「げっ、さっきの案内係空飛んでんじゃん!人間業じゃねぇ!」
「人間じゃないからね」
「モンスター」とか言う、単に腐った人間とは違うバケモンが蔓延っている館内。
「ゾンビは怖くないくせにコレは怖いんだ」
「わりぃか!」
普段のゾンビパニックに比べて格段に怖さを抑えて子供連れも入りやすくしていると言う「ハロウィンの特別仕様」。
クオリティ保証と言うだけあってリアルに仕上げてはいるらしく、子供も最初は怖がるが、ゾンビと違って途中で順応できるらしい。
ファンタジックな世界に目を輝かせている奴は少なくない。
が、俺はがっちりコイツの腕に巻き付き歩きづらいくらいゼロ距離で体を震わせている。スゲェ不様。
「うわっ、なにアイツ。二足歩行の狼!」
「狼男ね。きみと同じ」
「はぁ!?アレは狼だろ!人間要素どこだよ?二足歩行くらいじゃねぇか!」
「まぁそれでも充分な要素だよね」
唸る俺に苦笑いするコイツはそれでも嬉しそうに「怖がらないと思っていたから棚ぼた♪」とか呟いていた。
くそぅ…俺が怖がるのを悦びやがって!
逆の立場なら俺も喜悦ぶけどな!
「今なら狼耳や尻尾出して良いんだよ?ハロウィン割り引き対象だから皆仮装してるし。可愛いし。」
「ぜってー出さない」
コイツと暮らすために故郷から出てきて、人間社会に紛れるために人間とは違う耳と尻尾は隠すようにしている所謂狼男な俺。
それは窮屈なことだが、今は絶対に出せない。
正体がバレるバレないの問題ではない。
怯えていることが丸わかりになるからな!
「うーん。キミも故郷みたいで楽しめるかと思ったんだけどなぁ」
「んなわけあるか!どんな想像してんだよ、ただの森の中集落だよ」
気遣いは嬉しいがこんなファンシーな世界が地球上にあると思っていたお前が怖いよ。
「狼男がいるなら魔女とかこんな場所とかも有るのに俺が知らないだけかなーと」
「三日月に顔がある時点で無理があるわ。」
周りにどう見えているかなんて気にする余裕もなくコイツの腕にがっつり抱き付いたまま出口を目指す俺。
後で冷静にこの事を思い返したら悶死ものだな。
「ほら、出口だよ」
「お、」
《ガオォォォォォッ!》
「に゙ぁぁぁぁぁっ」
「…狼男がにゃあって、」
ヒトが怖さの絶頂にいるのに噴き出すコイツ、どうしてやろうか。
……
………
お化け屋敷を出てから。
アトラクションひとつで帰るのもなんだからと引きずられるままに向かったのはこの遊園地のシンボルになっていると言う観覧車。
「今日はどうだった?」
「…まぁ、悪くない」
観覧車に揺られ、頂点に着く頃。
大きく花開く花火を間近に見ながら俺はコイツの問いに呟いた。
end
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